春風の香

梅川 ノン

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番外編 陽だまりの中で

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 結婚から三ヶ月が過ぎた。夏の暑いさなか、病院では蒼先生として、忙しくも充実した生活だった。今や、小児科のトップとしてだけでなく、副院長である雪哉の片腕としての存在感は、誰もが認めるものだった。
 いつものように五人で囲む朝食の時だった。
「あお君、食事残すの?」
「うん、ごめんなさい……夏バテかな、ちょっと食欲がなくて」
 細身だが、食事を残すことはない蒼が珍しく残すのを、彰久が心配げに問うのへ蒼は応えた。事実、ここ最近食欲が落ち、体も少し熱っぽい。夏バテから、軽い夏風邪もひているのかも? と思った。
「蒼、今日はオメガ外来を受診しなさい。君は医者と言えど小児科が専門だ。自己判断で風邪薬など飲む前に専門医へ診てもらいなさい」
 珍しく、雪哉が断定口調で言う。こういう時の雪哉に逆らうことはできない。
「はい分かりました。では、午後に予約を取ります」

「なんだ、母さん何しているの?」
「母さんじゃない。病院では副院長だ」
「副院長ここでは何を?」
「蒼が予約をとったと聞いたから、様子を見に来た」
 思いっきり私事じゃないか、と思ったが自分も心配で来たのでそれは言えない。
「何か、あお君、蒼先生の体に心配なことが?」
「まあ……だから受診しろと言った」
 やっぱり母は何か気付いている。彰久には今朝の母の口調が気になったのだ。だから心配で彰久も抜け出してきた。無論、上医の許可はとった。と、そこへ蒼がやってきて、二人の姿に驚く。
「えっ、二人して何?」
「まあ、ちょっとな。蒼は診察を受けてきなさい」
 なんとなく、納得いかな気ではあるが、丁度そこで呼ばれたこともあり、蒼は診察室へ入った。

「腹部エコーの検査をしますね。」
 一通りの検査が済んだ後、オメガ科の高橋医師が言う。高橋は、アルファの女医だ。蒼は頷いた。
「先生方にも入ってもらって」
 高橋が、看護師に言ったので驚く。えっ、あき君と母さん、まだいたの? なんだろう。
 二人が入ってくる。雪哉は余裕の表情だが、彰久の表情は硬い。蒼のことが心配なのだ。
「では、見ますよ。先生方もご覧ください」
 食い入るように画面を見る二人。
「おおっ! 出来ているな!」
 雪哉が声を上げると、彰久も身を乗り出して見る。
「ほんとだ! 出来てる!」と叫ぶように言う。
「はい、間違いありません。おめでとうございます!」
 出来ている! 二人の愛の結晶が! 蒼の不調は妊娠によるものだったのだ。それを、自分の経験から雪哉は直ぐに見て取った。妊娠なら、風邪薬など飲まない方がいい。だから、受診を急がせた。
 蒼は、彰久に腕を握られ、それを握り返しながら涙を溢れさせた。嬉しい。心から嬉しかった。結婚後、子供のことを話し合った時、自然に任せたいと言った。しかし、多分それは難しいだろうと思っていた。三十代後半になっての自然妊娠はかなり少ない。それが現実なことは、医者としてよく分かっている。
 もし、授かったらそれは奇跡に近い。そう思っていた。それが、結婚後未だ三ヶ月で授かるとは、天に感謝する。そう、心から思った。

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