春風の香

梅川 ノン

文字の大きさ
49 / 54
番外編 甘い春風

しおりを挟む
 結婚から四年の春、二人の愛の結晶春久は三歳、可愛いさを日々増している。

「パパーっ、ママ、ポンポンいたい、いたいって」
 帰宅後すぐに母屋へ顔を出した彰久に、春久が駆け寄って訴える。その幼い顔には不安が浮かんでいる。
「ああ、大丈夫だ、心配いらないよ。パパが今から治してあげに行くから」
「パパがなおちてあげるの?」
「そうだよ、パパはお医者さんだからね。パパに任せておけば心配いらない」
 春久の後ろから付いてきた雪哉が言う。
「パパ、おいちゃちゃん」
「そうだよ。だからはる君は、ばーばたちとここで待っていようね」
「はる、いい子にしてるんだぞ」
 彰久が愛しい我が子の頭を撫でながら言うと、春久は大きく頷いた。母への心配の気持ちは、父への信頼が打ち消してくれる。
「母さん、すみませんがよろしくお願いします」
「ああ、ここは心配いらない。早く行ってやりなさい。後でご飯も差し入れてやるからな」
「ありがとう、助かります」
 彰久は、母へ感謝の気持ちで頭を下げた後、もう一度春久の頭を撫でてから、離れへ急いだ。離れでは最愛の人が、自分を待っている。

 母屋を出て数歩進むと、離れからの甘い香りが鼻腔を擽る。三月に一度、発情期の香り。番である己しか感じることができない香り。
 逸る気持ちで離れのドアを開けると、その香りに全身を包まれる。包まれたまま寝室へ急ぎ、ドアを開ける。ベッドの上がこんもりしている。
 彰久は嬉しさに、微笑みながら近づき、こんもりした塊を抱きしめると、愛しい人が塊から顔を出した。熱を帯びてほんのり色づい頬、瞳は潤んでいる。
「あっ、あき君」
「あお君、巣作りしてたの?」
 彰久の問いに、蒼は頷く。彰久の胸は愛おしさではち切れそうになる。可愛い、可愛すぎる。
 十二歳年上の人。いつも清楚で凛とした佇まい。冷たさは感じないが、犯しがたい気品がある。
 その人が、発情期には、子共がままごとに勤しむように、一心に巣作りするのだ。オメガの巣作りだから、当然番である彰久の物ばかりをかき集めてだ。
「もう本物が来たのだから、出てきていいだろ? おいで、抱っこしてあげるよ」
 頷きながらも名残り惜し気な蒼を、抱き寄せる。発情した体が、巣の中で更に温められたのだろう、ほんわかと温かい。
 彰久は、蒼の温もりに心が満ちていくのを感じる。こうしているだけでも十分幸せだが、やはり体を一つに繋がりたい。それは、男としてアルファとしての本能。
 それは蒼も同じだろう、二人は番なのだから。蒼は、彰久を見上げてくる。口付けが欲しい時の蒼の仕種。勿論応じる。蒼の求め以上に……。
 最初は啄むように、徐々に深く、貪るように……。蒼も感じているのだろう、溢れる唾液を啜ってやる。
 唇を離すと、蒼は濡れた唇のまま、彰久を見上げる。さっきよりも、妖艶さが増している。彰久は己の体の中心が、かっと熱くなるのを感じる。
「あっ、あき君……」
 何? という感じで彰久は蒼を見る。勿論、蒼の求めていることは分かっている。しかし、少し意地悪すると、蒼の色気が増すことも知っている。己の熱を抑えながら、焦らしてやるのだ。
 蒼が、イヤイヤをするようにしがみついてくる。美しく火照った顔を、彰久の胸に埋める。
「あっ、あき君……ほっ、ほしい……」
 彰久は蒼の顔を両の掌で上げさせると、潤んだ瞳で己を見つめてくる。こんな瞳で見つめられたら、彰久も限界だ。
 再び唇を奪いながら、着ているものを脱がしていく。弄るように胸に手をやると、ビクッと反応する。乳首に触れたからだ。
 既に尖りを帯びた乳首。春久が産まれて二年程は、春久の物でもあったが、今はまた彰久だけのもの。春久も時折は触れているみたいだが、それは許している。
 口に含むと、「あんっ、あっー」蒼の甘い喘ぎ声。
 蒼の動きを抑えるようにして、舌と指で、蒼の両のそれを愛撫する。動きを抑えられることで、蒼の感応は深まる。陶酔へと導かれていくのだ。
 抗うように動く蒼を抑えて、蒼を極みに向かわせたいと、更に追い込んでいく。
「ああんっ……あっ、いっ、いくーっ」
 甘く、色を帯びた喘ぎ声と共に、蒼は、彰久の腕の中で果てた。色づいた体は、小刻みに震えている。きれいだ。自分だけが知るこの美しい体。愛おしい……強く抱きしめると、蒼の目が開く。
 彰久が愛おし気に見つめると、蒼も微笑み返す。そして、抱きついてくる。一番欲しいものがまだだから。
「あお君、いま凄く敏感だから、乳首だけでいっちゃたけど、ここが一番欲しいんだよね」
 そう言いながら、蒼の秘所を弄ると、蒼の抱きつく力が強まる。
 蒼が欲しがるのは当然だ。そこはとろりと蕩けるようになっている。己のアルファを待ちわびているのだ。
 彰久が指を入れると、ビクッと反応する。
「あんっ、あっ、あき……入れてっ……ほっ、欲しい」
 一度逝った体は、燃えるように熱い。唯一のアルファ、彰久の体を狂おしいほど求めている。
 彰久も、ただ一人のオメガ、蒼の体を求て、昂っている。いきり立ったようなそれを、蒼の秘所にあてると、吸い込まれるように入っていく。
「ああーっ、あっあきーっ……いいっ、いいーっ」
 蒼は、歓喜の喘ぎをもらす。
「ああ、あおの中、最高だよ。愛しているよ」
 蒼は、頷きながら彰久の腕を強く掴む。動いて欲しいのだ。奥深く、強く、強く感じたいのだ。
 蒼の求めは分かる。自分も激しく動きたい。彰久は抽挿を始める。蒼の感じるツボは知っている。そこを刺激するように動く。本能の赴くままに動く。
「ああーっ、いいーっ……おっおくーっ、あんっああーっ」
 うわ言のような喘ぎを上げながら、顔を仰け反らす蒼。
 彰久はその蒼の汗ばんだ体を抱きしめる。
「あお、いくよ、一緒だよ」
 蒼は頷く。陶酔に上り詰めたその表情は、女神のように美しい。
 彰久は、愛おしいひとの中に精を迸らせていく。アルファとして、一番の喜びを感じる時。
 蒼の体の力が抜ける。愛する人の精を受け、陶酔の極みで気を失ったのだ。
 彰久は、その愛おしい人を抱きしめ、額に口付ける。
 愛している。何度言っても言い足りないくらい、愛している。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

カミサンオメガは番運がなさすぎる

ミミナガ
BL
 医療の進歩により番関係を解消できるようになってから番解消回数により「噛み1(カミイチ)」「噛み2(カミニ)」と言われるようになった。  「噛み3(カミサン)」の経歴を持つオメガの満(みつる)は人生に疲れていた。  ある日、ふらりと迷い込んだ古びた神社で不思議な体験をすることとなった。 ※オメガバースの基本設定の説明は特に入れていません。

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

婚約破棄を望みます

みけねこ
BL
幼い頃出会った彼の『婚約者』には姉上がなるはずだったのに。もう諸々と隠せません。

愛させてよΩ様

ななな
BL
帝国の王子[α]×公爵家の長男[Ω] この国の貴族は大体がαかΩ。 商人上がりの貴族はβもいるけど。 でも、αばかりじゃ優秀なαが産まれることはない。 だから、Ωだけの一族が一定数いる。 僕はαの両親の元に生まれ、αだと信じてやまなかったのにΩだった。 長男なのに家を継げないから婿入りしないといけないんだけど、公爵家にΩが生まれること自体滅多にない。 しかも、僕の一家はこの国の三大公爵家。 王族は現在αしかいないため、身分が一番高いΩは僕ということになる。 つまり、自動的に王族の王太子殿下の婚約者になってしまうのだ...。

【完結】言えない言葉

未希かずは(Miki)
BL
 双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。  同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。  ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。  兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。  すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。 第1回青春BLカップ参加作品です。 1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。 2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)

【完結】浮薄な文官は嘘をつく

七咲陸
BL
『薄幸文官志望は嘘をつく』 続編。 イヴ=スタームは王立騎士団の経理部の文官であった。 父に「スターム家再興のため、カシミール=グランティーノに近づき、篭絡し、金を引き出せ」と命令を受ける。 イヴはスターム家特有の治癒の力を使って、頭痛に悩んでいたカシミールに近づくことに成功してしまう。 カシミールに、「どうして俺の治癒をするのか教えてくれ」と言われ、焦ったイヴは『カシミールを好きだから』と嘘をついてしまった。 そう、これは─── 浮薄で、浅はかな文官が、嘘をついたせいで全てを失った物語。 □『薄幸文官志望は嘘をつく』を読まなくても出来る限り大丈夫なようにしています。 □全17話

ジャスミン茶は、君のかおり

霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。 大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。 裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。 困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。 その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。

処理中です...