春風の香

梅川 ノン

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番外編 甘い春風

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 お風呂から上がった春久は、ゆっくりだが自分で部屋着をきてから、リビングへ行くと、高久が満面の笑みで迎える。
「はる君きれいになったね。さあ、おいで。じーじが絵本を読んであげるよ」
 高久が手招きすると、春久は、一番のお気に入りの絵本を持ってくる。
「これがいいのか? はる君はチュー君のお話が好きだね」
「うん! パパもね、ママもね、ちゅきだって」
 そうだった。彰久はじめ三人の子供たちも好きで、よく読んでやったな。懐かしい思いになる。
「パパね、ママによんでもらったって」
 高久は微苦笑を浮かべる。彰久の一番の思い出はそこなんだろう。思えば、あの二人は今の春久くらいの時に出会った。その時から一筋、時には我が子にさえ対抗心を燃やすほどだ。それくらい、彰久の蒼への思いは強い。
 そんな彰久を、蒼もしっかりと受け止めている。蒼には、雪哉のような表面的な強さはないが、大らかな、全てを包み込むような母性愛がある。内面に秘めた強さがあると、高久は思っている。
「そうか、はる君もママに読んでもらうのかな?」
「うん、えほんはママ、パパは、たかいたかいちてくれる」
「今日は、じーじが読んであげるよ。たかいたかいは、明日パパにしてもらおうね」
 まだまだ若い者には負けていない思いはあるが、さすがにたかいたかいは出来ない。自分の腰の心配よりも、春久を落とすわけにはいかない。ここは、若い者に任せようと、素直に思う。
 高久の膝の上で、大人しくお話を聞いていた春久だったが、次第に船を漕ぎ始める。眠たくなったようだ。そーっと除き見た雪哉に高久は頷いた。今動かすと目を覚ますだろう。もう少しそのままで、完全に眠ったらベッドへ運ぼう。
 眠くなって、ママ恋しさに、ぐずることもあるが、今日はうまく眠ってくれた。大人三人安堵する。春久は目に入れても痛くないほど可愛いが、ママ恋しさにぐずられると、おろおろするばかりだからだ。母を求める子供にはお手上げになる。
 完全に寝入った春久を、高久は慎重にベッドへ運ぶ。自分たちのベッドの真ん中に寝せる。そして、自分も横になる。小さな春久をつぶさないように、しかし人肌は感じられるように。もし、目覚めても不安がらないように。

 雪哉は、宝物を慈しむような夫の姿に、自然と笑みがこぼれる。自分にとっても最愛の孫だが、高久がここまで可愛がるとは、少々意外でもあった。
 子供たちのことも可愛がり、良い父ではあった。しかし、どちらかと言えば父としての威厳の方が勝っていた。決して、理不尽な厳しさはなかったが、甘いところはなかった。特に男である上の二人にはそうだった。
 結惟に対しては、末っ子で女の子でもあるから、上二人よりは甘かったが……。
 それが、孫にはこの激甘ぶり。もう、雪哉は苦笑するばかりだ。だが、これで良いと思っている。厳しくするのは、親の務め。それを邪魔せぬ限り、祖父母は甘くて良いだろうと思うのだ。
 春久を起こさないように、雪哉はそーっとベッドに入る。結惟が大きくなってからは、途絶えていた川の字になって寝ること。春久がここで眠る時に復活した。三ヶ月に一度くらいの、たまなことだが、至福の時でもある。
 この幸せを与えてくれた、息子夫夫に感謝しつつ雪哉は眠りにつく。
 皆が皆、幸せを胸に北畠家の夜は更けていく。

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