春風の香

梅川 ノン

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番外編 甘い春風

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 春久は、ぱちんと目を開くと、すぐそこにあった胸へ顔を寄せる。
「はる君起きたか! おはよう!」
「じーじ?」
 春久が、不思議そうにする。昨夜、ここで眠ったことを覚えていないのかもしれない。どうして、じーじがいるの? と言う表情だ。
 雪哉も、高久も昨夜は春久の眠ったのに合わせて、常よりも早く就寝したため、今朝は早くに目覚めた。しかし、春久が目覚めた時に誰もいないと不安がるだろうから、雪哉は起き出したが、高久はベッドに残ったのだった。
「はる君は昨日、じーじとばーばとここで寝たんだよ」
 春久は、目をぱちくりとしたが、すぐに笑顔になり頷いた。昨日のことを思い出したのだ。そして、ママのことも思い出して、心配の気持ちも芽生えた。
「ママ、ポンポンなおったかなあ?」
「ああ、そうだね。着替えて顔を洗ったら、様子を見に行こうか」
 大きく頷いた春久は、着替えて顔も洗う。ゆっくりだが、ちゃんと一人で出来る。春久が賢いのは言うまでもないが、よく躾けられている。息子夫夫は、親としても合格だと高久は思う。

 顔を洗い終わった春久が、洗面所から出ると、丁度蒼が母屋に入ってきたところだった。それが目に入った春久は、ぱーっと顔を輝かせてすぐに走り寄り、抱きついた。
「ママーっ、ポンポンいたいのなおったの?」
「うん、治ったよ。心配かけてごめんね」
「うん、はっくんね、いたいのいたいのとんでけーっておもってたよ」
「うん、そうだろうと思った。おかげで治ったよ、ありがとう」
 蒼も春久を抱きしめて頭を撫でてやると、彰久も愛おし気に、我が子の頭を撫でてから、両親に頭を下げる。
「昨晩は、お世話になりありがとうございました」
 蒼も立ち上がって、頭を下げる。
「本当にお世話になりました。ありがとうございます」
「ああ、蒼も落ち着いてるようだな、顔色が良い」
 そこへ顔を出した結惟に、蒼が声を掛ける。
「結惟ちゃんもありがとう。春久、昨日どうだった? ぐずらなかった?」
「うん、とっても良い子だったよ。相変わらずパパが激甘で、それと色々……うふふっ……」
 思わせぶりに微笑む結惟。蒼は、? ……何かなと思ったが、「ママー、おなかしゅいた」と春久が空腹を訴える。
「ああ、そうだよね、今朝は、フレンチトーストだよ」
 結惟の言葉に、「わーいっ、だいしゅきーっ」春久が歓声を上げる。
「今から焼くの? 僕が焼こうか?」
「うん、じゃあ、あお君にお願いする。パンは昨日から漬け込んであるから、後は焼くだけなの」
「それはいいね。一晩漬けこむと、美味しいからね」
 結惟と蒼が話しながらキッチンへ向かう。一緒に行こうとする春久を彰久が抱き上げる。焼き物をするとき側にいると危ない。
「はる君はパパが、たかいたかいしてやるぞ」
「わーい! たかいたかいだあー」

 満面の笑顔の春久を、彰久は庭へ連れて行く。
「それっ、たかいたかいだあー」と言いながら、ぽーんと上にあげてそして受け止める。春久は、きゃっきゃっと喜ぶ。
 昨夜は、親の所と言えど、一人で眠らせた。蒼第一主義とは言え、我が子は可愛いし、父としての愛情も十分ある。両親や妹を信頼はしているけど、幼い春久を一人にする罪悪感めいた気持ちはあるのだ。今日は、罪滅ぼしに沢山、春久が喜ぶことをしてやりたい。
 何しろ、これを出来るのは彰久しかいない。父は、年齢的に無理だし、母と蒼には、もとよりその体力はない。
「はる君大喜びだなあ。良かったな、それはパパしかできない。だけど、ひとまず中断しよう。フレンチトーストが焼けたからね」
 雪哉が呼びに来たので、親子は家の中へ入り、手を洗ってから、ダイニングテーブルに着いた。
「うわーっ! おいちそう!」
「そうだな、結惟と蒼の合作だから美味しいぞ! さあ、いただこう」
 雪哉が言うと、皆一斉に「いただきます」と言って食べ始める。
「うん、美味しい! 中はとろとろで、外はこんがり焼けてる。あお君が焼くと美味しい」
「結惟ちゃんの下ごしらえのおかげだよ。はる君美味しいね、沢山食べるんだよ」
「はる君も随分食べるようになったな。昨日の晩御飯も、残さず完食したよ」
「そうでしたか、良かった。あっ、僕たちにも差し入れありがとうございました。美味しくいただきました」
「それは良かった。何しろ体力もいるからな」
 と、にやっと思わせぶりな雪哉、蒼は赤くなり俯いた。昨夜のあれこれが頭に浮かんだのだ。そんな、蒼に雪哉は微苦笑を浮かべる。蒼は未だに、こうやって赤くなる。結婚して何年もたつのに……。しかし、こんな所が蒼の魅力で、彰久を引き付けてやまないところなんだろうと思う。
 義母であり、オメガである自分から見ても魅力的だ。初心さが庇護欲をそそる。この蒼が、夜は違う顔を見せるのだろうか? 意外と妖艶だったりして……と思ったところで、それはあまりに下種な勘繰りと、自らを戒めるのだった。

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