春風の香

梅川 ノン

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番外編 甘い春風

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「お前たちは、いつも三人で風呂に入っているのか?」
 いきなりの高久の発言に、蒼はうっと、詰まる。雪哉と結惟がニヤニヤとしている。そうか、さっきの色々ってこのことだったのか……。どうしよう、ちょっと恥ずかしいなあ……。
「そうですよ、親子なんだから、当然です。むしろ、仲の良い証拠です」
 蒼が狼狽えていると、彰久が毅然として言う。頼もしいけど、少しは、恥じらって欲しいという思いもある。
「うむ、確かに仲の良い証拠ではあるな。微笑ましいことだ。子供も大きくなると、そういうわけにはいかなくなり、淋しい思いもするからな」
 しみじみとした口調の高久に、雪哉も大きく頷き、同意する。
 しかし、彰久には少し意外な思いも抱いた。両親共に、子離れは完璧な人だと思っていたのだ。けれど、親としては、淋しさを抱くこともあったのだ。そう思うと改めて、感謝の念が湧く。同時に、両親が春久に激甘な理由も分かった気がした。
「父さんたちは、その淋しさを、はる君で埋めている部分もあるのですか?」
「そうだな、それはあるだろう。子供たちとの過ぎ去った日々を、なぞりたい……とでもいうような。だから、孫は可愛いのかもな」
「それにしても、パパのはる君への可愛がり方は、私達以上と思うわよ」
「それは、お前たちより、はる君の方が可愛いからだ」
 何を当たり前のことを言うのだとばかりに、高久は言う。
「もう、そういうところが、激甘って言うのよ!」
 結惟の言葉に、少ししんみりしていた雰囲気が、笑いに包まれる。
 笑い合う大人たちを、春久はきょろきょろと見ながら、なんだかよく分からないけど、自分もおかしくなって笑う。それを見て、大人たちは、更に笑いを深めるのだった。

「ママーこれよんで」
「チュー君だね。はる君はほんとこれが好きだなあ」
 頷きながら、満面の笑みで春久が蒼の膝に座り、最初のページをめくると、蒼が読み始める。
 雪哉はその姿を見ながら、やはり幼い春久は母親である蒼が一番なんだと思う。昨日は、ぐずることも無く、ここで過ごしはしたが、母がいない淋しさはあったのかもしれない。だからだろう、今日は常よりべったりと引っ付いている。今日はたっぷりと甘えるといい、そう思った。
「やっぱり、蒼が一番なんだろうな」
「当然だよ、母親には勝てんよ」
 雪哉の言葉に、高久もしみじみと言う。微笑ましい母子を見ていて、雪哉は彰久の幼い頃を思い出す。二人が出会ったのは、彰久が今の春久くらいだった。まだ蒼も少年だったが、ああして絵本を読んでやっていた。
 思えば、あの頃から彰久は蒼べったりだった。母である自分より、彰久は蒼が一番だったな。尚久が産まれたばかりで手がかかり、淋しさは感じなかったがと、苦笑交じりに思う。

 そして雪哉は、昨日結惟に聞いたことを、はたと思いだす。彰久に苦言を、と思っていたことだ。
「彰久、お前はる君に、ママのおっぱいはパパのものだと言ってるそうだな」
「事実ですから」
 雪哉の問いに、彰久はさも当然とばかりにきっぱりと答える。
「はっ、あのな……母親のおっぱいは子供のものだろう」
「赤ん坊の時はそうでも、卒乳したら違いますよ。いつまでもおっぱいに甘えていたら、それこそマザコンになりますよ。春久は北畠家の大事な跡取り息子ですよね。マザコンの軟弱者に育ててはいかんでしょう」
 それはそうかもしれないが、ちょっと話が飛躍してないか。ましてや、パパのものはないだろう。お前は、子供にまで独占欲を出しているのか、更に苦言をと思ったら、彰久が蒼と春久の方へあゆみ寄っていく。
 春久が、お話を聞きながら眠ってしまったようだ。

 彰久が近づくと、蒼は春久に視線をやり頷いた。ことりと顔を傾け、すやすやと眠っている。蒼が横抱きにしようとすると、春久は自分から抱きついてきた。起きたのかと思ったが、そのまま、また眠る。
 母の胸に顔を埋めて、すやすやと眠る春久。その顔はとても安らかで可愛いらしい。
 彰久は、ひざ掛けを春久の背にかけてやり、自分も蒼の隣に座る。そして、春久を抱く蒼を抱き込むようにする。
 愛おしい、最愛の人と、その愛の証である我が子。何物にも代えがたい存在。命かけても守る……いつも思っているが改めて思う。
 
 蒼は彰久へ頭を傾ける。我が子の温もりを胸に、最愛の夫の温もりを背に感じる。蒼が今一番幸せを感じる体勢だ。春久と共に彰久に守られていることを実感できる。
 オメガの幸せは、愛するアルファに、愛され守られること。それでこそ、強さも発揮できる。
 彰久と結婚して四年余り、常にそれを実感してきた。母が、得られなかった幸せを、自分は得ることが出来た。その幸運に感謝する。

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