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名ばかりの辺境伯
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「エミリア、僕は君とは結婚できない。最愛の人を見つけたんだ。君は僕のことを上部で気にかけてくれてるように装ってるけど、リリィはいつだって僕の心に寄り添ってくれた。僕は君との婚約を破棄してリリィと婚約するよ。」
我がルルーラ辺境伯家で私の誕生日パーティーを開始して早々、ジミーはそう言って従姉妹のリリィの肩を抱いた。
「そうですか。」
「あぁ、すまない。僕とリリィでルルーラを盛り立てて行くよ。」
「はぁ…盛り立てて行くとは?」
「だから僕が辺境伯を継いでリリィと一緒にルルーラを守って行くと言っているんだ。」
「…なぜ?婚約を破棄したあなたがお父様のあとを継ぐのです?」
「それは僕が後継に選ばれているからだよ!」
「それならたった今外れましたわ。あなたはもう後継ではありません。」
「なぜだ?!さてはお前お義父上に僕を外すようにわがままを言ったな?!」
「たった今と言ったではありませんか。どうやって私の後ろにいるお父様に言うのです?」
辺境伯である父が黒い笑顔で腕を組み今後の成り行きを見据えている。
「ではなぜここまで頑張って来た僕が後継から外れるのだ!」
「それはあなたと私の婚約が破棄されたからですわ。」
「は?」
「ですから、私と結婚する方が辺境伯になるのです。」
「…は?」
「お姉様、またそうやって伯父様にわがままを言うのはやめてください!今までこれだけ頑張って来たジミー様意外に後継になれる人はいませんわ!」
エミリアはリリィの意味が分からない戯言がまた始まったと対応する気にもなれず黙って扇子を開いて口元を隠した。
「そ、そうだ!お義父上もいつも僕の成果を認めてくれている!リリィもいつも僕はもう十分頑張っていると少しは身体を休めて下さいと言い、僕をガゼボに誘って癒してくれる。」
「お父様が認めてる…?」
「あぁ、そうだ!いつも僕の報告に『そうか』と、お前と違って苦言を呈されたことは1度もない!リリィがガゼボで僕を癒してくれていることもお義父上から確認されたのでリリィは僕の天使だと報告したらお義父上は『そうか』と笑っておられた!」
「伯父様…」
リリィはお父様の顔を見て微笑み、ジミーの顔を見て照れたように笑った。
そんなお父様は私の後ろで微笑んでいる。
が、私の目線の制止ではもう止まれないほどビリビリとした圧が出ていた。
それに気づかない2人がすごい。
「…そうですか。」
「なのにお前はどうだ!お前はいつも『もっと頑張りましょう』『まだ出来るはずです』と僕を労ってくれた事は一度もない!」
「1つよろしいですか?」
「何だ」
「訓練中の時間でもリリィがガゼボに行こうと言ったら訓練をサボっていたと言うのは本当ですか?」
「だからなんだ!僕の実力はお義父上に認められているし、僕はいつでも頑張っている!だからリリィが『もう今日はいいでしょう?』とガゼボに誘ってくれるのだ!」
「そうですか。では、即刻この辺境の地から出て行ってもらいましょう。」
「なっ!辺境伯になるのは僕だぞ!出て行くのはお前の方だ!!」
「ここまで言ってもお分かりにならないのですか?」
「何をだ!」
「分かりました。アルヌ、訓練用の刀を。」
エミリアが侍従のアルヌに言うとスッと渡してくる。
「ジミーあなたも持ちなさい。」
「辺境伯になる僕に指図するな!」
「あなたが辺境伯になることはありません。いくら言葉で言っても分からないようなので私と試合をしましょう。」
「女のお前と出来るか。」
「あら、女に負けるのが怖いのですか?」
「なっ!!!後悔しても知らないからな!!はーーー!!」
逆上したジミーは開始の合図も無しに
エミリアに仕掛けた。
が、それをサッといなし、その動力をそのまま活かして薙ぎ払った。
ジミーの手から模擬剣が離れる。
試合終了だ。
ジミーにはエミリアが何をしたのかさえ分からなかった。
完敗である。
「ジミー様!!」
リリィが駆け寄る。
「私も男性に力では敵わないので男性とは内容が少し違いますが訓練しているのですよ?」
「な、なぜ…」
「なぜ?辺境伯家の娘だからです。私はこのルルーラの中でお父様の次に強いのですよ?」
「僕がいる訓練時間にはいつもいないではないか!家の中から出てこないではないか!!僕が頑張っている間にいつもお前は家の中で茶でもしているであろうお前が強いわけがない!!」
「家の中ではいつも執務室にいます。そして早朝と貴方が帰宅された後、深夜に訓練しています。」
「執務室?」
「まさか辺境だから執務がないとでもお思いで?」
「ぼ、僕は一度も…」
「それはそうでしょう?貴方は婿に来てもらう名ばかりの辺境伯なのですから。」
「は?」
「何でルルーラと全く関係のない貴方がルルーラ辺境伯となるはずだったのかご存じないのですか?」
「ぼ、僕が優れているからだろう。」
「はぁ…」
エミリアは淑女あるまじきため息を思わずつく。
「違います。我が国が男女平等なのはさすがにご存知ですよね?」
「当たり前だ!」
「本当ならば辺境伯と名乗るのは私なのです。」
「だからお前が僕より劣っているからだろう!」
「違います。我が国は男女平等ですが、周辺は男尊女卑の国が多い。女伯だからと舐めてくる国もあるので無駄な争いを防ぐために辺境伯だけ男性が辺境伯と名乗る事になっているのです。ですが実情は辺境伯として騎士たちの士気を上げる為に前線に立つ事。子を成す為に情事に励むこと。それしか仕事はありません。能力があれば少しは執務を任せる事もありますが…訓練すらまともに行わない方に任せられる執務は我が家にはありませんので。」
だから政治的に害もなくグレーな面が全くないチェーブル男爵家の次男で小さい頃から病気知らずで活発で身体を動かすのが好きなジミーが後継に選ばれた。
「へ?」
ジミーは今言われたことが理解できず間抜けな声を出す。
「ですので表向きは『貴方が辺境伯になるはずだった』で間違いありません。ですが実権を持っているのは私で、私がただ名乗っていないだけの辺境伯なのですよ。」
「なっ!そんなはずないだろう!!」
「貴方は私が『頑張って下さい』と『まだ出来る』しか言わないと言いましたね?」
「あ、あぁ」
「それは当たり前でしょう?実際に私の一振りで負けるほど弱く、このままでは死んでしまいますもの。」
「…死ぬ?」
「当たり前でしょう?試合でいくら正攻法で勝てようとも実際の戦はそうはいきません。皆が国の為に命懸けで戦っているのです。敵だって勝つ為に死に物狂いで剣を振ります。一瞬の隙が命取りです。試合じゃないのですから、弱ければ死ぬ。当たり前でしょう?」
「っ…」
「頑張っていればサボっていいのですか?頑張っているから敵国に勝てるのですか?そんなわけないでしょう?次期辺境伯がサボっているなんて敵国にバレたら貴方が辺境伯になった途端これ幸いと一気に攻め込まれるでしょうね。貴方は命を守る為、国の砦としての訓練を怠り、ガゼボで婚約者の従姉妹と仲良くお茶をしている。皆はただ、まゆをひそめて己を鍛える為に訓練に勤しんでますが、下手すれば士気を下げる行為です。そんなチームの輪を乱す方はルルーラには必要ありません。ですのでこのルルーラから出ていって下さい。お分かり頂けましたか?」
「ぼ、僕は…」
ジミーがガクッと膝をついた。
するとジミーに寄り添っていたリリィが目をうるうるさせながら私の前に来た。
「お姉様!!お姉様もジミー様と一緒にお茶したかったからってヤキモチを妬いて意地悪言うのはやめて!私が悪いの!ジミー様を好きになってしまったから…伯父様はわかってくれるよね?」
「あぁよく分かったよ。」
お父様は真っ黒な微笑みで応えた。
「だったらジミー様との結婚許してくれるよね?私たち頑張ってルルーラを守っていくから!」
今までの話は彼女にはどう解釈されているのか意味不明な事をまだ言い続ける。
「いいんじゃないか?」
「伯父様!!ありが…」「我が家には関係ない。」
「え?関係あるでしょう?伯父様の姪ですもの!」
「だからなんだ?お前たちの婚姻を許可するのはお前たちの親だろう。」
「だからジミー様がルルーラ辺境伯になるから伯父様がっ…!!」
リリィはあまりの殺気で口を噤んだ。
「何なんだこの頭の悪い小娘は。話にならん。おい、つまみ出せ。男も一緒に」
「伯父様!どうして!」
「どうしてだと?そもそも今日は何の会か分かっているのか?」
「お、お姉様の誕生日で…」
「2人で『誕生日プレゼントは婚約破棄だ』ってエミリアを嘲笑いながら言っていたことは知っている。我が愛しい娘の年に一度の誕生日に『おめでとう』の一言もなく、公衆面前でエミリアに恥をかかせるような奴はこの場には必要ない。」
「でもガゼボでのことジミー様が報告したら『そうか』って笑ってたって。お姉様にはいつも怒ってばっかりで私にはいつも笑顔で可愛がってくれたじゃない!」
「エミリアに怒っていたのではない。叱っていたのだ。次期辺境伯として国境を守っていかねばならんのだ。少しの甘えも許されない。そしてなぜ、私がお前たちをいちいち叱ってやらねばならん?私は忙しい。お前たちがどんな行動をとろうと関係なければ受け流し、害になるのであれば排除すればいいだけのことだ。お前は昔からエミリアを敵視して何かと突っかかっていることは報告を受けている。お前たちはルルーラの害になると判断した。よって今日の行いについて即刻お前たちの親に報告し、追って沙汰を出す。私の姪だからと私を甘く見ない事だな。親族だからと容赦はしない。さっさと連れて行け。」
リリィはここまで言われても私の方が可愛い、私の方が愛されてるなどとわめきながら連行された。ジミーは扇子で口を隠しているエミリアを見て眉を八の字に下げ大人しくついて行った。
その後パーティーは何事もなかったかのように無事に終わった。
今日この茶番が行われる事はあらかじめ分かっていた。敢えて止めなかったのは相手の勝手な企みでエミリアに疵瑕がないことを周知させる為だった。
またここが最終分岐点だった。もし思いとどまってこの茶番を起こさなければお父様は本気でジミーを鍛え、リリィを修道院で済ませるつもりだった。
だが起こしてしまった事にはそれ相応の罰が必要だ。
「チェーブル男爵夫妻も、叔父様たちもとてもいい方達なのにあの方達はどうしてああなってしまったのでしょうか?ジミー様も幼い頃はあんな感じの人ではなかったと思うのですが…」
パーティーが無事に終わり晩餐後エミリアは両親と3人でお茶を飲んでいる。
「さあな。もともと根性が曲がっているんだろう。あの坊主については小娘に唆されて甘い方に流れた結果だ。」
「まぁまぁ、貴方。確かに元の本質的なものが1番の要因でしょうね。それよりもエミリア?パーティー直後から釣書がたくさん届いているわ。あと2年で成人なんだからそれまでには決めなさいね。大人になってから選ぶのだから本質はもうこれ以上変わらないと思うわ。しっかり見極めて選びなさい。」
「はい。分かりました。」
その後、ジミーの実家のチェーブル男爵夫妻が正式に謝罪に訪れた。慰謝料を双方納得する金額で落とし所をつけ(チェーブル男爵が思っていたよりかなり多い額を払うと言ってきたからだ)、ジミーは平民になりチェーブル男爵領の警らで男爵の監視を受けながら一兵卒として生きて行くことになった。
そしてリリィの方もパーティーの次の日慌てた叔父夫妻が訪れ、ひたすら謝罪していた。リリィに関しては身内という事と叔父たちは毎日のようにエミリアに突っかかるなと、ジミーとは従姉妹の婚約として距離を保った付き合いをしろと口が酸っぱくなるまで言っていた事を知っていたこと。そして今回の茶番が行われることを分かっていて私たち親子はあえて叔父様達に何も伝えず、仕事を任せてパーティーにわざとに来させないようにした事もあり慰謝料は無しという事になった。だがリリィにお咎め無しというわけにはいかない。エミリアも小さい頃から何かと突っかかってきたリリィにいいかげんうんざりしており、もう関わりたくなかった。それをふまえてそれだけジミーとの結婚を望んだのだからと平民としてジミーと結婚することになった(これについては男爵の許可もしっかりとっている)。
あれだけジミーが好きと豪語しておきながら平民として平民のジミーに嫁ぐ事が決まると嫌だと暴れまわったらしい。
そんなリリィに叔父から平民として修道院に入るか、平民のジミーと一緒になるかの2択を迫られて結局ジミーと一緒になる事を選んだらしい。
貴族令嬢として寄付金を納めて修道院に入るのと平民落ちして修道院に入れられるのでは天と地ほど待遇が違うのだから消去法でジミーとの結婚しか選択肢はないだろう。
ジミーはリリィが嫌がっていることも理解した上で大人しく結婚に同意したらしい。
それからリリィは毎日文句を言いながらも慣れない家事をして、ジミーはあれから人が変わった様に真面目に仕事をこなしているらしい。夫婦仲は良くなく、近々離婚するのでは?という噂を耳にした。
エミリアはパーティーの1週間後ルルーラとは王城を挟んで真逆に位置する辺境伯爵家の次男が訪問して来て、王城で行われた建国記念パーティーの際に一目惚れしたと熱烈なアプローチを受け、半年後にはあれよあれよと言う間に婚約が整いエミリアが成人となると同時に籍を入れた。
2人は仲睦まじく執務を行い、騎士たちを鍛え、逞しく国境を守っている。
我がルルーラ辺境伯家で私の誕生日パーティーを開始して早々、ジミーはそう言って従姉妹のリリィの肩を抱いた。
「そうですか。」
「あぁ、すまない。僕とリリィでルルーラを盛り立てて行くよ。」
「はぁ…盛り立てて行くとは?」
「だから僕が辺境伯を継いでリリィと一緒にルルーラを守って行くと言っているんだ。」
「…なぜ?婚約を破棄したあなたがお父様のあとを継ぐのです?」
「それは僕が後継に選ばれているからだよ!」
「それならたった今外れましたわ。あなたはもう後継ではありません。」
「なぜだ?!さてはお前お義父上に僕を外すようにわがままを言ったな?!」
「たった今と言ったではありませんか。どうやって私の後ろにいるお父様に言うのです?」
辺境伯である父が黒い笑顔で腕を組み今後の成り行きを見据えている。
「ではなぜここまで頑張って来た僕が後継から外れるのだ!」
「それはあなたと私の婚約が破棄されたからですわ。」
「は?」
「ですから、私と結婚する方が辺境伯になるのです。」
「…は?」
「お姉様、またそうやって伯父様にわがままを言うのはやめてください!今までこれだけ頑張って来たジミー様意外に後継になれる人はいませんわ!」
エミリアはリリィの意味が分からない戯言がまた始まったと対応する気にもなれず黙って扇子を開いて口元を隠した。
「そ、そうだ!お義父上もいつも僕の成果を認めてくれている!リリィもいつも僕はもう十分頑張っていると少しは身体を休めて下さいと言い、僕をガゼボに誘って癒してくれる。」
「お父様が認めてる…?」
「あぁ、そうだ!いつも僕の報告に『そうか』と、お前と違って苦言を呈されたことは1度もない!リリィがガゼボで僕を癒してくれていることもお義父上から確認されたのでリリィは僕の天使だと報告したらお義父上は『そうか』と笑っておられた!」
「伯父様…」
リリィはお父様の顔を見て微笑み、ジミーの顔を見て照れたように笑った。
そんなお父様は私の後ろで微笑んでいる。
が、私の目線の制止ではもう止まれないほどビリビリとした圧が出ていた。
それに気づかない2人がすごい。
「…そうですか。」
「なのにお前はどうだ!お前はいつも『もっと頑張りましょう』『まだ出来るはずです』と僕を労ってくれた事は一度もない!」
「1つよろしいですか?」
「何だ」
「訓練中の時間でもリリィがガゼボに行こうと言ったら訓練をサボっていたと言うのは本当ですか?」
「だからなんだ!僕の実力はお義父上に認められているし、僕はいつでも頑張っている!だからリリィが『もう今日はいいでしょう?』とガゼボに誘ってくれるのだ!」
「そうですか。では、即刻この辺境の地から出て行ってもらいましょう。」
「なっ!辺境伯になるのは僕だぞ!出て行くのはお前の方だ!!」
「ここまで言ってもお分かりにならないのですか?」
「何をだ!」
「分かりました。アルヌ、訓練用の刀を。」
エミリアが侍従のアルヌに言うとスッと渡してくる。
「ジミーあなたも持ちなさい。」
「辺境伯になる僕に指図するな!」
「あなたが辺境伯になることはありません。いくら言葉で言っても分からないようなので私と試合をしましょう。」
「女のお前と出来るか。」
「あら、女に負けるのが怖いのですか?」
「なっ!!!後悔しても知らないからな!!はーーー!!」
逆上したジミーは開始の合図も無しに
エミリアに仕掛けた。
が、それをサッといなし、その動力をそのまま活かして薙ぎ払った。
ジミーの手から模擬剣が離れる。
試合終了だ。
ジミーにはエミリアが何をしたのかさえ分からなかった。
完敗である。
「ジミー様!!」
リリィが駆け寄る。
「私も男性に力では敵わないので男性とは内容が少し違いますが訓練しているのですよ?」
「な、なぜ…」
「なぜ?辺境伯家の娘だからです。私はこのルルーラの中でお父様の次に強いのですよ?」
「僕がいる訓練時間にはいつもいないではないか!家の中から出てこないではないか!!僕が頑張っている間にいつもお前は家の中で茶でもしているであろうお前が強いわけがない!!」
「家の中ではいつも執務室にいます。そして早朝と貴方が帰宅された後、深夜に訓練しています。」
「執務室?」
「まさか辺境だから執務がないとでもお思いで?」
「ぼ、僕は一度も…」
「それはそうでしょう?貴方は婿に来てもらう名ばかりの辺境伯なのですから。」
「は?」
「何でルルーラと全く関係のない貴方がルルーラ辺境伯となるはずだったのかご存じないのですか?」
「ぼ、僕が優れているからだろう。」
「はぁ…」
エミリアは淑女あるまじきため息を思わずつく。
「違います。我が国が男女平等なのはさすがにご存知ですよね?」
「当たり前だ!」
「本当ならば辺境伯と名乗るのは私なのです。」
「だからお前が僕より劣っているからだろう!」
「違います。我が国は男女平等ですが、周辺は男尊女卑の国が多い。女伯だからと舐めてくる国もあるので無駄な争いを防ぐために辺境伯だけ男性が辺境伯と名乗る事になっているのです。ですが実情は辺境伯として騎士たちの士気を上げる為に前線に立つ事。子を成す為に情事に励むこと。それしか仕事はありません。能力があれば少しは執務を任せる事もありますが…訓練すらまともに行わない方に任せられる執務は我が家にはありませんので。」
だから政治的に害もなくグレーな面が全くないチェーブル男爵家の次男で小さい頃から病気知らずで活発で身体を動かすのが好きなジミーが後継に選ばれた。
「へ?」
ジミーは今言われたことが理解できず間抜けな声を出す。
「ですので表向きは『貴方が辺境伯になるはずだった』で間違いありません。ですが実権を持っているのは私で、私がただ名乗っていないだけの辺境伯なのですよ。」
「なっ!そんなはずないだろう!!」
「貴方は私が『頑張って下さい』と『まだ出来る』しか言わないと言いましたね?」
「あ、あぁ」
「それは当たり前でしょう?実際に私の一振りで負けるほど弱く、このままでは死んでしまいますもの。」
「…死ぬ?」
「当たり前でしょう?試合でいくら正攻法で勝てようとも実際の戦はそうはいきません。皆が国の為に命懸けで戦っているのです。敵だって勝つ為に死に物狂いで剣を振ります。一瞬の隙が命取りです。試合じゃないのですから、弱ければ死ぬ。当たり前でしょう?」
「っ…」
「頑張っていればサボっていいのですか?頑張っているから敵国に勝てるのですか?そんなわけないでしょう?次期辺境伯がサボっているなんて敵国にバレたら貴方が辺境伯になった途端これ幸いと一気に攻め込まれるでしょうね。貴方は命を守る為、国の砦としての訓練を怠り、ガゼボで婚約者の従姉妹と仲良くお茶をしている。皆はただ、まゆをひそめて己を鍛える為に訓練に勤しんでますが、下手すれば士気を下げる行為です。そんなチームの輪を乱す方はルルーラには必要ありません。ですのでこのルルーラから出ていって下さい。お分かり頂けましたか?」
「ぼ、僕は…」
ジミーがガクッと膝をついた。
するとジミーに寄り添っていたリリィが目をうるうるさせながら私の前に来た。
「お姉様!!お姉様もジミー様と一緒にお茶したかったからってヤキモチを妬いて意地悪言うのはやめて!私が悪いの!ジミー様を好きになってしまったから…伯父様はわかってくれるよね?」
「あぁよく分かったよ。」
お父様は真っ黒な微笑みで応えた。
「だったらジミー様との結婚許してくれるよね?私たち頑張ってルルーラを守っていくから!」
今までの話は彼女にはどう解釈されているのか意味不明な事をまだ言い続ける。
「いいんじゃないか?」
「伯父様!!ありが…」「我が家には関係ない。」
「え?関係あるでしょう?伯父様の姪ですもの!」
「だからなんだ?お前たちの婚姻を許可するのはお前たちの親だろう。」
「だからジミー様がルルーラ辺境伯になるから伯父様がっ…!!」
リリィはあまりの殺気で口を噤んだ。
「何なんだこの頭の悪い小娘は。話にならん。おい、つまみ出せ。男も一緒に」
「伯父様!どうして!」
「どうしてだと?そもそも今日は何の会か分かっているのか?」
「お、お姉様の誕生日で…」
「2人で『誕生日プレゼントは婚約破棄だ』ってエミリアを嘲笑いながら言っていたことは知っている。我が愛しい娘の年に一度の誕生日に『おめでとう』の一言もなく、公衆面前でエミリアに恥をかかせるような奴はこの場には必要ない。」
「でもガゼボでのことジミー様が報告したら『そうか』って笑ってたって。お姉様にはいつも怒ってばっかりで私にはいつも笑顔で可愛がってくれたじゃない!」
「エミリアに怒っていたのではない。叱っていたのだ。次期辺境伯として国境を守っていかねばならんのだ。少しの甘えも許されない。そしてなぜ、私がお前たちをいちいち叱ってやらねばならん?私は忙しい。お前たちがどんな行動をとろうと関係なければ受け流し、害になるのであれば排除すればいいだけのことだ。お前は昔からエミリアを敵視して何かと突っかかっていることは報告を受けている。お前たちはルルーラの害になると判断した。よって今日の行いについて即刻お前たちの親に報告し、追って沙汰を出す。私の姪だからと私を甘く見ない事だな。親族だからと容赦はしない。さっさと連れて行け。」
リリィはここまで言われても私の方が可愛い、私の方が愛されてるなどとわめきながら連行された。ジミーは扇子で口を隠しているエミリアを見て眉を八の字に下げ大人しくついて行った。
その後パーティーは何事もなかったかのように無事に終わった。
今日この茶番が行われる事はあらかじめ分かっていた。敢えて止めなかったのは相手の勝手な企みでエミリアに疵瑕がないことを周知させる為だった。
またここが最終分岐点だった。もし思いとどまってこの茶番を起こさなければお父様は本気でジミーを鍛え、リリィを修道院で済ませるつもりだった。
だが起こしてしまった事にはそれ相応の罰が必要だ。
「チェーブル男爵夫妻も、叔父様たちもとてもいい方達なのにあの方達はどうしてああなってしまったのでしょうか?ジミー様も幼い頃はあんな感じの人ではなかったと思うのですが…」
パーティーが無事に終わり晩餐後エミリアは両親と3人でお茶を飲んでいる。
「さあな。もともと根性が曲がっているんだろう。あの坊主については小娘に唆されて甘い方に流れた結果だ。」
「まぁまぁ、貴方。確かに元の本質的なものが1番の要因でしょうね。それよりもエミリア?パーティー直後から釣書がたくさん届いているわ。あと2年で成人なんだからそれまでには決めなさいね。大人になってから選ぶのだから本質はもうこれ以上変わらないと思うわ。しっかり見極めて選びなさい。」
「はい。分かりました。」
その後、ジミーの実家のチェーブル男爵夫妻が正式に謝罪に訪れた。慰謝料を双方納得する金額で落とし所をつけ(チェーブル男爵が思っていたよりかなり多い額を払うと言ってきたからだ)、ジミーは平民になりチェーブル男爵領の警らで男爵の監視を受けながら一兵卒として生きて行くことになった。
そしてリリィの方もパーティーの次の日慌てた叔父夫妻が訪れ、ひたすら謝罪していた。リリィに関しては身内という事と叔父たちは毎日のようにエミリアに突っかかるなと、ジミーとは従姉妹の婚約として距離を保った付き合いをしろと口が酸っぱくなるまで言っていた事を知っていたこと。そして今回の茶番が行われることを分かっていて私たち親子はあえて叔父様達に何も伝えず、仕事を任せてパーティーにわざとに来させないようにした事もあり慰謝料は無しという事になった。だがリリィにお咎め無しというわけにはいかない。エミリアも小さい頃から何かと突っかかってきたリリィにいいかげんうんざりしており、もう関わりたくなかった。それをふまえてそれだけジミーとの結婚を望んだのだからと平民としてジミーと結婚することになった(これについては男爵の許可もしっかりとっている)。
あれだけジミーが好きと豪語しておきながら平民として平民のジミーに嫁ぐ事が決まると嫌だと暴れまわったらしい。
そんなリリィに叔父から平民として修道院に入るか、平民のジミーと一緒になるかの2択を迫られて結局ジミーと一緒になる事を選んだらしい。
貴族令嬢として寄付金を納めて修道院に入るのと平民落ちして修道院に入れられるのでは天と地ほど待遇が違うのだから消去法でジミーとの結婚しか選択肢はないだろう。
ジミーはリリィが嫌がっていることも理解した上で大人しく結婚に同意したらしい。
それからリリィは毎日文句を言いながらも慣れない家事をして、ジミーはあれから人が変わった様に真面目に仕事をこなしているらしい。夫婦仲は良くなく、近々離婚するのでは?という噂を耳にした。
エミリアはパーティーの1週間後ルルーラとは王城を挟んで真逆に位置する辺境伯爵家の次男が訪問して来て、王城で行われた建国記念パーティーの際に一目惚れしたと熱烈なアプローチを受け、半年後にはあれよあれよと言う間に婚約が整いエミリアが成人となると同時に籍を入れた。
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