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第一章 侯爵様と婚約が決まりました
2.老婆がやってくるsideキルエン
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「キルエン、明日にはノブルス家が到着する予定だ。マーガレット嬢、あれは優秀だ。この家のためにも、絶対に逃がすんじゃないぞ。……よいな?」
父上の私室に呼びつけられたかと思えば、またこの話だ。婚約が決まってからというもの、何度も釘を刺されている。
薄い紫色の髪に、アメジストの瞳。笑みを振りまけば、公爵家の令嬢だって寄ってくる。藤の貴公子と呼ばれるこの僕が、なぜあんな女なんかと。
マーガレット・ノブルスだっけ?
いくら優秀とはいえ、たかが山奥の子爵家の娘だろう。この国――バロンブルグ王国で家名を高めたいのなら、もっと他に候補があると思うのだが。
「えぇ、分かっていますよ。ですが、僕はヴァランティン公爵家のマリス嬢とも親交を深めていました。向こうのほうがよっぽど好条件だと思いますがね」
ふふ、言ってやったぞ。
父――ダグルド・ファーブリックは知らないのだ。僕が次期当主として、水面下で動いてきたことを。
紺色の短髪を不機嫌そうにいじり、青い瞳を見開いて僕を睨みつけている。
けれど、いつもみたいに引き下がると思わないでほしい。僕を子どもの頃のままだとでも思っているのか。
父上、あなたはもう退くことが決まった人間だ。
老いた脳で、権威を守るために焦っているだけ。
もういいだろう、優秀な僕にすべて任せてくれ。黙って見ているだけでいい。
「この家に生まれ、全てを持っていると勘違いしたお前は、まさに井の中の蛙だな。どこで育て方を間違えてしまったのか。私は、海を知るいい機会だと言っている」
……物を知らないカエルだって?
社交界の中心人物である、この僕が?
商人だって、僕と繋がりを持とうと近づいてくる。僕が身に付けたアクセサリーは飛ぶように売れるし、僕が使ってやっている藤の花の香水は生産が追い付かないらしいじゃないか。
どれだけの人間が僕に近づき、手をハエのように擦りながら媚びを売っていると思っているのだろう。父上こそ、何も分かっていない。
「家格を上げ、いくら発言力を増そうとも、実力が付いてこない張りぼてでは……いずれ担ぎ上げられて利用されるだけの道化に成り下がってしまう。お前を心配しているのだよ、キルエン。父の最後のわがままだと思って、マーガレット嬢と結婚しなさい」
道化……ね。言ってくれるじゃないか。
老婆令嬢と婚約する、それこそ道化だろう。
いいさ、そこまで言うのならマーガレット嬢と結婚してやる。僕と父上、どちらが正しいか、結果で証明して見せようじゃないか。
ファーブリック侯爵家の行く末を震えて見守るがいい。
やっぱりヴァランティン公爵家と手を組むべきだったと後悔する日が来るだろう。
そのときになって初めて、父上は自分が愚かだったと……頭を下げて僕に謝罪をすることになる。
「それほどまでのお考えだとは、僕が至りませんでした。父上、勉強の機会をいただきありがとうございます。マーガレット嬢とともに、この家を守り抜いて見せましょう」
「うむ、分かればいいのだ。あとは頼んだぞ」
父上が満足げにうなずくが、その表情は僕にとってはもはやどうでもいい。
まったく、面倒なことになったものだ。老婆令嬢などを隣に置いて歩かねばならないとは。
しかし、楽しくもある。
しばらくはこの僕が、後ろ指を指されることになるだろう。
そして……。ふふ、使えないマーガレット嬢を捨て、マリス・ヴァランティンを手に入れる。
藤の貴公子、キルエン・ファーブリックは偉大なのだと。この名を貴族社会に……いや、バロンブルグ王国の隅々にまで刻んでやろう。
父上の私室に呼びつけられたかと思えば、またこの話だ。婚約が決まってからというもの、何度も釘を刺されている。
薄い紫色の髪に、アメジストの瞳。笑みを振りまけば、公爵家の令嬢だって寄ってくる。藤の貴公子と呼ばれるこの僕が、なぜあんな女なんかと。
マーガレット・ノブルスだっけ?
いくら優秀とはいえ、たかが山奥の子爵家の娘だろう。この国――バロンブルグ王国で家名を高めたいのなら、もっと他に候補があると思うのだが。
「えぇ、分かっていますよ。ですが、僕はヴァランティン公爵家のマリス嬢とも親交を深めていました。向こうのほうがよっぽど好条件だと思いますがね」
ふふ、言ってやったぞ。
父――ダグルド・ファーブリックは知らないのだ。僕が次期当主として、水面下で動いてきたことを。
紺色の短髪を不機嫌そうにいじり、青い瞳を見開いて僕を睨みつけている。
けれど、いつもみたいに引き下がると思わないでほしい。僕を子どもの頃のままだとでも思っているのか。
父上、あなたはもう退くことが決まった人間だ。
老いた脳で、権威を守るために焦っているだけ。
もういいだろう、優秀な僕にすべて任せてくれ。黙って見ているだけでいい。
「この家に生まれ、全てを持っていると勘違いしたお前は、まさに井の中の蛙だな。どこで育て方を間違えてしまったのか。私は、海を知るいい機会だと言っている」
……物を知らないカエルだって?
社交界の中心人物である、この僕が?
商人だって、僕と繋がりを持とうと近づいてくる。僕が身に付けたアクセサリーは飛ぶように売れるし、僕が使ってやっている藤の花の香水は生産が追い付かないらしいじゃないか。
どれだけの人間が僕に近づき、手をハエのように擦りながら媚びを売っていると思っているのだろう。父上こそ、何も分かっていない。
「家格を上げ、いくら発言力を増そうとも、実力が付いてこない張りぼてでは……いずれ担ぎ上げられて利用されるだけの道化に成り下がってしまう。お前を心配しているのだよ、キルエン。父の最後のわがままだと思って、マーガレット嬢と結婚しなさい」
道化……ね。言ってくれるじゃないか。
老婆令嬢と婚約する、それこそ道化だろう。
いいさ、そこまで言うのならマーガレット嬢と結婚してやる。僕と父上、どちらが正しいか、結果で証明して見せようじゃないか。
ファーブリック侯爵家の行く末を震えて見守るがいい。
やっぱりヴァランティン公爵家と手を組むべきだったと後悔する日が来るだろう。
そのときになって初めて、父上は自分が愚かだったと……頭を下げて僕に謝罪をすることになる。
「それほどまでのお考えだとは、僕が至りませんでした。父上、勉強の機会をいただきありがとうございます。マーガレット嬢とともに、この家を守り抜いて見せましょう」
「うむ、分かればいいのだ。あとは頼んだぞ」
父上が満足げにうなずくが、その表情は僕にとってはもはやどうでもいい。
まったく、面倒なことになったものだ。老婆令嬢などを隣に置いて歩かねばならないとは。
しかし、楽しくもある。
しばらくはこの僕が、後ろ指を指されることになるだろう。
そして……。ふふ、使えないマーガレット嬢を捨て、マリス・ヴァランティンを手に入れる。
藤の貴公子、キルエン・ファーブリックは偉大なのだと。この名を貴族社会に……いや、バロンブルグ王国の隅々にまで刻んでやろう。
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