老婆令嬢と呼ばれた私ですが、死んで灰になりました。~さあ、華麗なる復讐劇をお見せしましょうか!~

ミィタソ

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第一章 侯爵様と婚約が決まりました

4.豪華な夕食は高級な食器に乗って

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 時間を忘れてお喋りしていたら、だんだんと空が茜色に染まってきた。
 話下手な私が、よくもここまで長話できたものだ。もしかして、キルエン様と相性がいいのかも?
 いやいや、そんなはずない。キルエン様の話題の振り方がお上手だっただけ。

「キルエン様、そろそろお食事の時間です。マーガレット様と本邸にお越しください」

 なんて変な妄想をしていたら、執事がやってきた。
 侯爵家らしく、仕立てのいいスーツを着ている。

「楽しい時間はあっという間に過ぎてしまいますね。さ、マーガレット嬢、お手を」

 キルエン様に差し出された細く長い指に私の指を重ね、顔を少し伏せて立ち上がる。
 向けられたアメジストの眼差しは柔らかく、その微笑みは美しすぎて長く見つめすぎては体に毒なのではと思ってしまう。
 藤の貴公子が持つ破壊力をこの身で味わってしまった。

 もと来た道を戻り、お屋敷の中へ。
 案内されるがまま扉をくぐると、そこはおそらく家族用のダイニング。中央の巨大なテーブルと椅子は猫脚で、細かな意匠が彫り込まれている。深い飴色をしており、さぞ上質な木材が使用されているのだろう。
 すでにダグルド侯爵とモルガン夫人が、部屋の奥で向かい合って席に着いていた。
 ……あれ?
 お父様とお母様の姿が見当たらない。

「さあさあマーガレット嬢、好きな席に座るといい。今日からそこが君の場所だ」

 ダグルド侯爵の言葉に引っかかりを覚えたが、私は何も言わずに入口近くの席を選ぶ。
 キルエン様は、その正面に座った。
 テーブルの上の料理が、家格の違いをまざまざと見せつけてくる。
 大皿に乗っているのは、ニワトリよりも一回り大きなドゥークックという鳥の丸焼き。高級食材で、平民の食卓に並ぶことはまずない。これを食べるためだけに用意された大きな銀食器があるという事実だけで、ここが侯爵家だと分かる。
 ノブルス子爵家の鳥料理といえば、山で獲れたキジバトの半身をローストにして、小皿に盛りつけられたもの。これは一般家庭の夕食にも並ぶ。異なるのは食器の素材だけ。

 給仕が料理を切り分けて、小皿に盛り付けていく。断面の美しさにまで気を配り、色鮮やかに仕上げる技術。この人は誰の目から見ても一流だ。
 スープやパン、全員の前に一通り揃ったところで、侯爵がパンッと手を叩く。

「いただこうか」

 家長の挨拶で、静かに食事を始める。それがこの国のマナー。
 小さく切ったドゥークックを口に運ぶ。
 ……その美味しさに、思わず目を見開いてしまった。
 丸焼きの詰め物が添えられており、それを肉汁と合わせることでソースとしているのだが、なんとスパイスが使われている。

「驚いたかね。しかし我々とて、毎日こんな食事をしているわけではない。新しい家族を迎える日くらい、贅沢をしてもいいだろう。……そう思わないかね?」

「私のためにこんなによくしていただいて……。ありがとうございます!」

 どうやらダグルド侯爵のお心遣いだったらしい。穏やかに揺れる青い瞳。私を温かく迎えてくれようとする気持ちが伝わってくる。
 スパイスは高級品。同等以上の貴族をもてなすときにしか振る舞うことがないものだ。

「はっはっはっ、気にするな。私に娘ができるのだ、これほど嬉しいことはない。ところでキルエン、マーガレット嬢とは仲を深められたのか?」

「はい、父上。素晴らしい時間を共に過ごせました。この家を一緒に支えてくれるとも……そうだマーガレット嬢、僕のことはキルエンと呼んでくれないか? 僕もあなたのことをマーガレットと……そう呼びたいんだ。これを機に、言葉遣いも崩そうよ。ね?」

 キルエン様がテーブルに両肘をつき、あごを組んだ手の上に乗せ、私にウインクしてくる。なんと眩しいお顔だろうか。
 これは、親同士の話し合いで婚約が正式に決まったと、そう判断してもいいだろう。キルエン様の提案も、より親密な関係を望まれていると受け取れる。
 おそらく、お父様とお母様はもうこの屋敷にいない。私は今日からこの家で暮らすんだ。
 とんとん拍子に事が進みすぎて怖いくらいだけど、運命を受け入れるしかない。キルエン様もダグルド侯爵も、私が打ち解けやすいように気を遣ってくれているのだから。

「はい、キルエン。ダグルドお義父様、モルガンお義母様、お二人に選んでいただいたこと、後悔させないよう精一杯頑張ります。自慢の娘だと、胸を張っていただけるように!」

 私も腹を括り、決意を表明した。マーガレット・ノブルスではなく、マーガレット・ファーブリック(仮)として。

「うむ、頼もしいではないか。ファーブリック家の一員として歓迎しよう。キルエンとマーガレットには、明日からさっそく仕事を手伝ってもらいたい。……ところで、だ」

 お義父様の真剣な表情。空気が一瞬で引き締まる。
 何か厳しいことを言われるのだろうか。
 しかし、それも仕方ない。ここは家格の高い王都寄りの侯爵家。どんな試練でも乗り越えてみせよう。

「もし娘ができたら、叶えてみたい夢があった。……どうだね、息子をキルエンと呼ぶのならば、私のことをパパと呼ぶのは?」

 ダイニングがどっと笑いに包まれる。
 新しい家で、幸せなひととき。胸の中が、スープを飲んだように温かいなにかで満たされていく。

「やだわあなたったら。じゃあ、わたくしのこともママって呼んでもらおうかしら。よろしくね、マーガレットさん」

 お義母様も、口元を押さえながら優雅に微笑み、私のことを認めてくれた。
 自然にふふっと楽し気な声が漏れて、でも、目元が熱い。
 ハンカチを取り出し、頬を伝う涙を拭う。

「はいっ……ありがとう……ございます……」

 この家でも頑張れそうだ。
 このときの私は、嬉しくて仕方なかった。
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