老婆令嬢と呼ばれた私ですが、死んで灰になりました。~さあ、華麗なる復讐劇をお見せしましょうか!~

ミィタソ

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第一章 侯爵様と婚約が決まりました

6.初仕事は控えめに

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 今日は初仕事の日。ダグルドお父様に呼ばれ、キルエンと一緒にやってきた。

「父上、マーガレットと共に参りました」

「入りなさい」

 中から低く厳かな声が聞こえる。
 優しかった昨晩の軽さはない。これから会うのは侯爵なのだと、気が引き締まる思いだ。

 重厚な樫の扉が開くと、革と古い紙の香りがほのかに漂ってきた。私は少し緊張しながら、広々とした書斎へと足を踏み入れる。
 義父は椅子に深く腰かけ、窓から差し込む午後の光を背にしていた。

「二人を呼んだのは、王都の新規事業についてだ」

 侯爵が机の上に広げた地図を指し示す。

「この場所、店舗に空きが出てな。我がファーブリック侯爵家に依頼が来た。どう使うべきか、お前たちの意見を聞きたい」

 どうやら、新しくお店を開くらしい。前に管理していた家が事業に失敗したのだろう。
 案を出すのは簡単だが、いま急いで決めるのは得策ではない。なぜ前の店が失敗したのか、その原因から探りたいところだ。
 しかし、新参者の私が、軽々しく口を挟んでいいものか。

 ここで、キルエンが一歩前に出る。 
 
「僕にお任せを。付き合いのある商人たちと協力して、セレクトショップを開きましょう。藤の貴公子が新しい流行を作るとなれば、貴族たちは放っておけない」

 その声は自信に満ちていた。
 藤色の髪は陽光を反射して鮮やかに輝き、白い歯を見せた笑みは眩しいくらいだ。
 たしかに彼が広告塔となれば、安定して集客できるだろう。

「僕が社交の場で身につけたものは、話題に上がり、飛ぶように売れる。父上もご存知でしょう? いままでは、この商人に聞いてくれと仲介していたが、店を作れば話は簡単になる。高位家族には便宜を図ってやればいい」

「なるほど、確かに具体性がある計画だ。大きな収益も見込める。王都でも有名な店になるだろう」

 侯爵はあごの下をなでながら、右下に視線を向けてなにやら考えるそぶりを見せる。

「……しかしなぁキルエン。それでは、金の流れを変えるだけではないか? 商人から紹介料として割合で得ていた利益。商品から買った物を売り、賃貸料に加え従業員に給料を支払う。お前を通すか店を通すかの違いでしかない。マイナスだな。……さて、マーガレットは何かあるか?」

 次は私か。話す機会をいただいたのだから遠慮は要らない。大事なのは失敗しないことだ。

「その前に、以前この場所にあった店がなぜ潰れたのかを教えてください」

「貴族向けのレストランだな。味は良かった。しかし、高級な素材に高い酒。毎日席が埋まるはずもない。しばらくは順調だったが、そのうち収支が逆転したというわけだ」

 ……なるほど。
 つまり、飲食店に向いた立地ではあったのね。
 経営さえ間違えなければ、うまくいっていた可能性が高い。
 慎重に言葉を選びながら口を開く。

「私は、喫茶店を提案します。もしも、キルエンが了承してくれたら……ですが」

 この案には、キルエンの協力が必要不可欠だ。
 私は、ありえない提案をしようとしている。出会ったばかりの彼に嫌われてしまうかもしれない。
 でも、必ず侯爵家を継ぐ彼の助けになる。さらに人気を高め、社交界での地位を上げてくれるはず。

 両手を前に組み、俯きながら不安そうな視線をキルエンに向けた。

「どういうことだい、マーガレット? 怒らないから話してごらん」

 彼は、優しく微笑みを返してくれた。
 心に勇気が湧いてくる。

「はい、鍵になるのは……キルエンがブレンドしたあのお茶です。この店でしか飲めない名物となるでしょう」

 乾燥させた藤の花に、相性のいい紅茶葉を混ぜたあのお茶。キルエンとの出会いやもらった言葉も相まって、忘れられない思い出になっている。
 それを差し引いたとて、目を見開くほど美味しいお茶だった。
 作ったのがキルエンとなれば、集客効果も抜群。あれなら戦える。

「待て待て、あのお茶は大量生産できない。この家で栽培された特別な藤の花だからこそ作れるものだ。名物なんかになって客が殺到したら、すぐに在庫が無くなってしまうじゃないか!」

 彼の言うことはもっともだ。
 花咲く季節があるから、収穫量も決まってくる。
 ……だからこそ!

「そうです。ファーブリック侯爵家で栽培され、キルエン様がブレンドされた特別なお茶。そう簡単に飲めるものではありません。貴族向けの、高級喫茶にしましょう」

「なにを馬鹿な、それでは前のレストランと同じではないか。値段を上げればいいというものではない」

 そう、キルエンの言うとおり。
 貴族とは、ただ高いだけのものに金を払う生き物ではない。見栄やプライドに金を出すのだ。

「絞りましょう。店はそれほど大きくありません。予約制にして、店を開けるのは月に数回。一度訪れた貴族は、社交の場で自慢します。その話を聞けば、他の貴族も店を予約したくなる。……しかし、できない」

 私の話に、侯爵がゆっくりとうなずく。
 からくりに気付いてくれたらしい。

「なぜできない? 公爵家に頼まれでもしたら、店を開かざるをえなくなるぞ? どうせみんな押しかけてくる」

「それは先ほどキルエンが言ったじゃない。このお茶は特別だと。大量生産できないから、営業日が決まっているの。高位貴族が独り占めしたくなるような話でしょう?」

「それは……たしかに……」

 開店の日に高位の貴族のみを招待し、藤の貴公子というブランド付きのお茶の希少性を説明する。
 営業日が限られており、かつ予約制。味も間違いない。この店に通えているという事実が、自慢したい貴族心をくすぐるというもの。
 話を聞いただけでは想像できない。どれだけ美味しいお茶なんだろう。自分もこの舌で、この鼻で、体験してみたい。下位貴族もみな、こぞって予約しようとする。
 しかし、ここで体験させてしまっては価値が下がってしまう。我々ではなく、高位貴族がそうさせない。
 月に数回くらいならと、その狭い入り口を自分たちのものとするはずだ。
 予約した高位貴族が、下位の者を招待してあげる。そんな力を示す場にも使われるかもしれない。

「ふむ、面白い案が出たな。あの場所で喫茶店など、私には考えつかんよ。ファーブリック侯爵家の地位も高まりそうではないか。どれ、さっそく試してみよう。マーガレット、頼めるかな?」

「はいっ!」

 侯爵の指示を受け、書斎を出る。

 これが、破滅の始まりだった。
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