老婆令嬢と呼ばれた私ですが、死んで灰になりました。~さあ、華麗なる復讐劇をお見せしましょうか!~

ミィタソ

文字の大きさ
14 / 22
第二章 死んで灰になりました

13.結婚式は終わりの始まり

しおりを挟む
 ついに結婚式当日。初めて見た王城はとても大きかった。
 ノブルス子爵家何個分だろうか。全体を見たわけではないけれど、たぶん五十ノブルスはくだらない。
 変な単位を使ってしまったけれど、それくらいすっぽり収まってしまいそう。
 城の周りを彩るのは、王国樹おうこくじゅ――ボランゾ。大きく広げた枝には黄金こがね色の葉が生い茂り、日の光を受けて輝く様は、言葉を失うほどに美しい。

 貴族の結婚式は、王城で挙行きょこうされる。
 私はいま、控室で着替えている最中。メイドのサーシャにぎゅっぎゅと締め付けられたコルセットのせいでお腹が苦しい。
 テキパキと作業してくれたおかげで、あっという間に純白のウェディングドレスに包まれた。このドレスは事前にオーダーしていたもので、藤の花をモチーフにした金糸の刺繍が施されている。

「わあ! とーってもお綺麗です、マーガレット様!」

「ありがとうサーシャ」

 目を輝かせ、手放しで褒めてくれるサーシャにお礼を言っておく。お世辞でも嬉しいからね。
 最後にヴェールを着けたら完成。化粧をしていない顔を隠せることに感謝だ。

「似合ってるじゃないかマーガレット」

「あなたも素敵よキルエン」

 同じくしてキルエンも着替え終わったようだ。
 更衣室から出てきた彼は、黒のタキシードスーツ姿。こちらは銀の糸で藤の花が刺繍されている。

「では行こうか」

「はい。……緊張するわね」

 キンエンにエスコートされて会場に向かう。
 大広間の前で、私たちの家族が微笑みながら待っていてくれた。

「綺麗だよマーガレット」

「まあまあまあ! お母さん泣いちゃいそう」

 瞳を潤ませたお父様とお母様に抱き締められた。
 口を引き結び、こぼれ落ちそうになる涙をぐっと堪える。
 ここで泣いては、ぐしゃぐしゃの顔で国王様に面会だ。それだけは避けないと。

「姉様、ご結婚おめでとう。末永くお幸せに!」

 ルアンは花咲くように笑い、祝福してくれた。
 もう十三歳か。私の前では、いつまでも小さな弟だったはずなのに。
 この子も大人になろうとしているのかもしれない。

「子供たちの晴れ姿を見ることができ、嬉しく思う。マーガレット、今日から本当に私の娘になるな。パパと呼んでくれる日を楽しみにしているぞ。……とまあ、この辺にして。国王陛下が待っている。そろそろ行くとしよう!」

 門のように大きな扉の前。お義父様の言葉を受け、私とキルエンが横に並ぶ。
 私の後ろにはノブルス子爵家、キルエンの後ろにはファーブリック侯爵家、それぞれの家族が続く。

 二人で息を合わせて扉を開くと、大広間の中は何も見えないほど真っ暗。キルエンと手を繋ぎ、闇の中を真っ直ぐに進んでいく。
 王より先に喋りだす不敬者はいない。物音一つない静寂に包まれている。
 ……そのとき、照明がついた。私たちの歩むべき未来を示すように、左右から中央の赤いカーペットのみにスポットが当たる。
 道の先には、国王陛下が待っていた。

 私たちは、王の前で立ち止まる。
 ここで、会場全体がライトアップ。ド派手なシャンデリアの装飾がキラキラと光を反射して、大広間をきらびやかに演出した。
 
 いよいよ式が始まる。
 家族とはここでお別れだ。それぞれ最前列に用意された関係者席に着く。
 まずは国王陛下の挨拶だ。

「……バロンブルグ王国に、新たな夫婦が誕生する! 余は国王――ユリアモス・レイ・ギルフォード。双方、貴族として覚悟を持ち、ここに誓いを立てよ!」

 もう六十歳近いと聞く。波打つ銀色の髪、目を合わすことすらはばかられるライムグリーンの瞳。金の王冠をかぶり、赤のローブを身にまとうその姿に相応しいおごそかな声が響き渡る。

 今までは婚約者であり、仮の夫婦であった。
 しかし、王の前で国に誓いを立てることで本当の夫婦となるのだ。
 キルエンが一歩前に出てひざまずく。

「キルエン・ファーブリックは、マーガレットを妻に迎えることとなりました。この身が朽ち果てるまで、いついかなるときも、愛し守り続けるとユリアモス・レイ・ギルフォード国王陛下に誓います!」

 キルエンの宣誓が終わった。
 ……次は私の番。

「マーガレット・ノブルスは、今日よりマーガレット・ファーブリックとして、夫のキルエンを支えていきます。この身が朽ち果てるまで、いついかなるときも、愛し守り続けるとユリアモス・レイ・ギルフォード国王陛下に誓います!」

 同様に跪き、誓いを終えた。
 これで私たちは夫婦になれたらしい。
 立ち上がると、万雷の拍手と大きな声援で、大気が震えてほっぺたがビリビリと痺れている。こんなにも祝福してもらえるなんて。

「ふぅ……」

 これはため息ではなく、心を落ち着かせ、気合を入れるための深呼吸。
 次は、一族の繁栄と幸福を創世の女神様に願う儀式だ。
 いくら神とて、対価もなく仕事はしてくれない。
 ……ではどうするか。
 大勢の前で口づけをすることにより、二人に生じたその羞恥心を捧げるのだ。
 なんともおとぎ話チックだが、この国ではみんなその伝承を信じている。
 ……私のファーストキッスなんかで願いを叶えられるのだろうか。

「ファーブリック侯爵家のことを、女神も祝福してくれるであろう。では、繁栄と幸福のため、貢物を捧げよ!」

 いよいよ口づけのとき。
 向かい合うと、キルエンにヴェールがめくられた。
 顔が近い。心臓が口から飛び出してしまいそう。何か他のことを考えなければ。
 そういえば、昔読んだ本によると、キスとは熟した果実のように甘いらしい。イチゴだとかラズベリーだとか。ベリー系には違いないが、諸説あるのは個人差だろうか。自分の唇を舐めても味なんてしないのに。唇が重なることにより、不思議な反応が起こるのかもしれない。人間の体には、解明されていない未知の部分がたくさんあるからね。
 ……などと、雑念で頭の中を掻き回していれば、いよいよキルエンの顔が近づいてくる。
 どうしたらいいか分からず、瞳を閉じることも忘れてしまう。両手のひらでほほを包まれて、鼻と鼻の先がぶつかった。
 そこで、彼は大勢の方に向き直り、深くお辞儀をした。

「これにて結婚の儀を終了とする! 二人に盛大な拍手を!」

 国王陛下の言葉で終わった・・・・と気づく。
 もう使い道のない下唇を噛み締め、来賓の貴族に頭を下げた。 
 私たちの間に愛など無かったのだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

『恋心を凍らせる薬を飲みました』 - 残りの学園生活、どうぞご自由にお遊びください、婚約者様

恋せよ恋
恋愛
愛されることを諦めた。だから、私は心を凍らせた。 不誠実な婚約者・ユリアンの冷遇に耐えかねたヤスミンは、 伝説の魔女の元を訪れ、恋心を消し去る「氷の薬」を飲む。 感情を捨て、完璧な「人形」となった彼女を前に、 ユリアンは初めて己の罪と執着に狂い始める。 「お願いだ、前のように僕を愛して泣いてくれ!」 足元に跪き、涙を流して乞う男に、ヤスミンは冷酷に微笑む。 「愛?……あいにく、そのような無駄な感情は捨てましたわ」 一度凍りついた心は、二度と溶けない。 後悔にのたうち回る男と、心を凍らせた冷徹な公爵夫人の、 終わりのない贖罪の記録。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。 簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。 一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。 ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。 そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。 オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。 オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。 「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」 「はい?」 ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。 *--*--* 覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾ ★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。 ★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓ このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。 第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」 第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」 どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ もしよかったら宜しくお願いしますね!

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

魔女見習いの義妹が、私の婚約者に魅了の魔法をかけてしまいました。

星空 金平糖
恋愛
「……お姉様、ごめんなさい。間違えて……ジル様に魅了の魔法をかけてしまいました」 涙を流す魔女見習いの義妹─ミラ。 だけど私は知っている。ミラは私の婚約者のことが好きだから、わざと魅了の魔法をかけたのだと。 それからというものジルはミラに夢中になり、私には見向きもしない。 「愛しているよ、ミラ。君だけだ。君だけを永遠に愛すると誓うよ」 「ジル様、本当に?魅了の魔法を掛けられたからそんなことを言っているのではない?」 「違うよ、ミラ。例え魅了の魔法が解けたとしても君を愛することを誓うよ」 毎日、毎日飽きもせずに愛を囁き、むつみ合う2人。それでも私は耐えていた。魅了の魔法は2年すればいずれ解ける。その日まで、絶対に愛する人を諦めたくない。 必死に耐え続けて、2年。 魅了の魔法がついに解けた。やっと苦痛から解放される。そう安堵したのも束の間、涙を流すミラを抱きしめたジルに「すまない。本当にミラのことが好きになってしまったんだ」と告げられる。 「ごめんなさい、お姉様。本当にごめんなさい」 涙を流すミラ。しかしその瞳には隠しきれない愉悦が滲んでいた──……。

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

処理中です...