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第二章 死んで灰になりました
13.結婚式は終わりの始まり
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ついに結婚式当日。初めて見た王城はとても大きかった。
ノブルス子爵家何個分だろうか。全体を見たわけではないけれど、たぶん五十ノブルスはくだらない。
変な単位を使ってしまったけれど、それくらいすっぽり収まってしまいそう。
城の周りを彩るのは、王国樹――ボランゾ。大きく広げた枝には黄金色の葉が生い茂り、日の光を受けて輝く様は、言葉を失うほどに美しい。
貴族の結婚式は、王城で挙行される。
私はいま、控室で着替えている最中。メイドのサーシャにぎゅっぎゅと締め付けられたコルセットのせいでお腹が苦しい。
テキパキと作業してくれたおかげで、あっという間に純白のウェディングドレスに包まれた。このドレスは事前にオーダーしていたもので、藤の花をモチーフにした金糸の刺繍が施されている。
「わあ! とーってもお綺麗です、マーガレット様!」
「ありがとうサーシャ」
目を輝かせ、手放しで褒めてくれるサーシャにお礼を言っておく。お世辞でも嬉しいからね。
最後にヴェールを着けたら完成。化粧をしていない顔を隠せることに感謝だ。
「似合ってるじゃないかマーガレット」
「あなたも素敵よキルエン」
同じくしてキルエンも着替え終わったようだ。
更衣室から出てきた彼は、黒のタキシードスーツ姿。こちらは銀の糸で藤の花が刺繍されている。
「では行こうか」
「はい。……緊張するわね」
キンエンにエスコートされて会場に向かう。
大広間の前で、私たちの家族が微笑みながら待っていてくれた。
「綺麗だよマーガレット」
「まあまあまあ! お母さん泣いちゃいそう」
瞳を潤ませたお父様とお母様に抱き締められた。
口を引き結び、こぼれ落ちそうになる涙をぐっと堪える。
ここで泣いては、ぐしゃぐしゃの顔で国王様に面会だ。それだけは避けないと。
「姉様、ご結婚おめでとう。末永くお幸せに!」
ルアンは花咲くように笑い、祝福してくれた。
もう十三歳か。私の前では、いつまでも小さな弟だったはずなのに。
この子も大人になろうとしているのかもしれない。
「子供たちの晴れ姿を見ることができ、嬉しく思う。マーガレット、今日から本当に私の娘になるな。パパと呼んでくれる日を楽しみにしているぞ。……とまあ、この辺にして。国王陛下が待っている。そろそろ行くとしよう!」
門のように大きな扉の前。お義父様の言葉を受け、私とキルエンが横に並ぶ。
私の後ろにはノブルス子爵家、キルエンの後ろにはファーブリック侯爵家、それぞれの家族が続く。
二人で息を合わせて扉を開くと、大広間の中は何も見えないほど真っ暗。キルエンと手を繋ぎ、闇の中を真っ直ぐに進んでいく。
王より先に喋りだす不敬者はいない。物音一つない静寂に包まれている。
……そのとき、照明がついた。私たちの歩むべき未来を示すように、左右から中央の赤いカーペットのみにスポットが当たる。
道の先には、国王陛下が待っていた。
私たちは、王の前で立ち止まる。
ここで、会場全体がライトアップ。ド派手なシャンデリアの装飾がキラキラと光を反射して、大広間を煌びやかに演出した。
いよいよ式が始まる。
家族とはここでお別れだ。それぞれ最前列に用意された関係者席に着く。
まずは国王陛下の挨拶だ。
「……バロンブルグ王国に、新たな夫婦が誕生する! 余は国王――ユリアモス・レイ・ギルフォード。双方、貴族として覚悟を持ち、ここに誓いを立てよ!」
もう六十歳近いと聞く。波打つ銀色の髪、目を合わすことすら憚られるライムグリーンの瞳。金の王冠をかぶり、赤のローブを身に纏うその姿に相応しい厳かな声が響き渡る。
今までは婚約者であり、仮の夫婦であった。
しかし、王の前で国に誓いを立てることで本当の夫婦となるのだ。
キルエンが一歩前に出て跪く。
「キルエン・ファーブリックは、マーガレットを妻に迎えることとなりました。この身が朽ち果てるまで、いついかなるときも、愛し守り続けるとユリアモス・レイ・ギルフォード国王陛下に誓います!」
キルエンの宣誓が終わった。
……次は私の番。
「マーガレット・ノブルスは、今日よりマーガレット・ファーブリックとして、夫のキルエンを支えていきます。この身が朽ち果てるまで、いついかなるときも、愛し守り続けるとユリアモス・レイ・ギルフォード国王陛下に誓います!」
同様に跪き、誓いを終えた。
これで私たちは夫婦になれたらしい。
立ち上がると、万雷の拍手と大きな声援で、大気が震えてほっぺたがビリビリと痺れている。こんなにも祝福してもらえるなんて。
「ふぅ……」
これはため息ではなく、心を落ち着かせ、気合を入れるための深呼吸。
次は、一族の繁栄と幸福を創世の女神様に願う儀式だ。
いくら神とて、対価もなく仕事はしてくれない。
……ではどうするか。
大勢の前で口づけをすることにより、二人に生じたその羞恥心を捧げるのだ。
なんともおとぎ話チックだが、この国ではみんなその伝承を信じている。
……私のファーストキッスなんかで願いを叶えられるのだろうか。
「ファーブリック侯爵家のことを、女神も祝福してくれるであろう。では、繁栄と幸福のため、貢物を捧げよ!」
いよいよ口づけのとき。
向かい合うと、キルエンにヴェールがめくられた。
顔が近い。心臓が口から飛び出してしまいそう。何か他のことを考えなければ。
そういえば、昔読んだ本によると、キスとは熟した果実のように甘いらしい。イチゴだとかラズベリーだとか。ベリー系には違いないが、諸説あるのは個人差だろうか。自分の唇を舐めても味なんてしないのに。唇が重なることにより、不思議な反応が起こるのかもしれない。人間の体には、解明されていない未知の部分がたくさんあるからね。
……などと、雑念で頭の中を掻き回していれば、いよいよキルエンの顔が近づいてくる。
どうしたらいいか分からず、瞳を閉じることも忘れてしまう。両手のひらでほほを包まれて、鼻と鼻の先がぶつかった。
そこで、彼は大勢の方に向き直り、深くお辞儀をした。
「これにて結婚の儀を終了とする! 二人に盛大な拍手を!」
国王陛下の言葉で終わったと気づく。
もう使い道のない下唇を噛み締め、来賓の貴族に頭を下げた。
私たちの間に愛など無かったのだ。
ノブルス子爵家何個分だろうか。全体を見たわけではないけれど、たぶん五十ノブルスはくだらない。
変な単位を使ってしまったけれど、それくらいすっぽり収まってしまいそう。
城の周りを彩るのは、王国樹――ボランゾ。大きく広げた枝には黄金色の葉が生い茂り、日の光を受けて輝く様は、言葉を失うほどに美しい。
貴族の結婚式は、王城で挙行される。
私はいま、控室で着替えている最中。メイドのサーシャにぎゅっぎゅと締め付けられたコルセットのせいでお腹が苦しい。
テキパキと作業してくれたおかげで、あっという間に純白のウェディングドレスに包まれた。このドレスは事前にオーダーしていたもので、藤の花をモチーフにした金糸の刺繍が施されている。
「わあ! とーってもお綺麗です、マーガレット様!」
「ありがとうサーシャ」
目を輝かせ、手放しで褒めてくれるサーシャにお礼を言っておく。お世辞でも嬉しいからね。
最後にヴェールを着けたら完成。化粧をしていない顔を隠せることに感謝だ。
「似合ってるじゃないかマーガレット」
「あなたも素敵よキルエン」
同じくしてキルエンも着替え終わったようだ。
更衣室から出てきた彼は、黒のタキシードスーツ姿。こちらは銀の糸で藤の花が刺繍されている。
「では行こうか」
「はい。……緊張するわね」
キンエンにエスコートされて会場に向かう。
大広間の前で、私たちの家族が微笑みながら待っていてくれた。
「綺麗だよマーガレット」
「まあまあまあ! お母さん泣いちゃいそう」
瞳を潤ませたお父様とお母様に抱き締められた。
口を引き結び、こぼれ落ちそうになる涙をぐっと堪える。
ここで泣いては、ぐしゃぐしゃの顔で国王様に面会だ。それだけは避けないと。
「姉様、ご結婚おめでとう。末永くお幸せに!」
ルアンは花咲くように笑い、祝福してくれた。
もう十三歳か。私の前では、いつまでも小さな弟だったはずなのに。
この子も大人になろうとしているのかもしれない。
「子供たちの晴れ姿を見ることができ、嬉しく思う。マーガレット、今日から本当に私の娘になるな。パパと呼んでくれる日を楽しみにしているぞ。……とまあ、この辺にして。国王陛下が待っている。そろそろ行くとしよう!」
門のように大きな扉の前。お義父様の言葉を受け、私とキルエンが横に並ぶ。
私の後ろにはノブルス子爵家、キルエンの後ろにはファーブリック侯爵家、それぞれの家族が続く。
二人で息を合わせて扉を開くと、大広間の中は何も見えないほど真っ暗。キルエンと手を繋ぎ、闇の中を真っ直ぐに進んでいく。
王より先に喋りだす不敬者はいない。物音一つない静寂に包まれている。
……そのとき、照明がついた。私たちの歩むべき未来を示すように、左右から中央の赤いカーペットのみにスポットが当たる。
道の先には、国王陛下が待っていた。
私たちは、王の前で立ち止まる。
ここで、会場全体がライトアップ。ド派手なシャンデリアの装飾がキラキラと光を反射して、大広間を煌びやかに演出した。
いよいよ式が始まる。
家族とはここでお別れだ。それぞれ最前列に用意された関係者席に着く。
まずは国王陛下の挨拶だ。
「……バロンブルグ王国に、新たな夫婦が誕生する! 余は国王――ユリアモス・レイ・ギルフォード。双方、貴族として覚悟を持ち、ここに誓いを立てよ!」
もう六十歳近いと聞く。波打つ銀色の髪、目を合わすことすら憚られるライムグリーンの瞳。金の王冠をかぶり、赤のローブを身に纏うその姿に相応しい厳かな声が響き渡る。
今までは婚約者であり、仮の夫婦であった。
しかし、王の前で国に誓いを立てることで本当の夫婦となるのだ。
キルエンが一歩前に出て跪く。
「キルエン・ファーブリックは、マーガレットを妻に迎えることとなりました。この身が朽ち果てるまで、いついかなるときも、愛し守り続けるとユリアモス・レイ・ギルフォード国王陛下に誓います!」
キルエンの宣誓が終わった。
……次は私の番。
「マーガレット・ノブルスは、今日よりマーガレット・ファーブリックとして、夫のキルエンを支えていきます。この身が朽ち果てるまで、いついかなるときも、愛し守り続けるとユリアモス・レイ・ギルフォード国王陛下に誓います!」
同様に跪き、誓いを終えた。
これで私たちは夫婦になれたらしい。
立ち上がると、万雷の拍手と大きな声援で、大気が震えてほっぺたがビリビリと痺れている。こんなにも祝福してもらえるなんて。
「ふぅ……」
これはため息ではなく、心を落ち着かせ、気合を入れるための深呼吸。
次は、一族の繁栄と幸福を創世の女神様に願う儀式だ。
いくら神とて、対価もなく仕事はしてくれない。
……ではどうするか。
大勢の前で口づけをすることにより、二人に生じたその羞恥心を捧げるのだ。
なんともおとぎ話チックだが、この国ではみんなその伝承を信じている。
……私のファーストキッスなんかで願いを叶えられるのだろうか。
「ファーブリック侯爵家のことを、女神も祝福してくれるであろう。では、繁栄と幸福のため、貢物を捧げよ!」
いよいよ口づけのとき。
向かい合うと、キルエンにヴェールがめくられた。
顔が近い。心臓が口から飛び出してしまいそう。何か他のことを考えなければ。
そういえば、昔読んだ本によると、キスとは熟した果実のように甘いらしい。イチゴだとかラズベリーだとか。ベリー系には違いないが、諸説あるのは個人差だろうか。自分の唇を舐めても味なんてしないのに。唇が重なることにより、不思議な反応が起こるのかもしれない。人間の体には、解明されていない未知の部分がたくさんあるからね。
……などと、雑念で頭の中を掻き回していれば、いよいよキルエンの顔が近づいてくる。
どうしたらいいか分からず、瞳を閉じることも忘れてしまう。両手のひらでほほを包まれて、鼻と鼻の先がぶつかった。
そこで、彼は大勢の方に向き直り、深くお辞儀をした。
「これにて結婚の儀を終了とする! 二人に盛大な拍手を!」
国王陛下の言葉で終わったと気づく。
もう使い道のない下唇を噛み締め、来賓の貴族に頭を下げた。
私たちの間に愛など無かったのだ。
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