老婆令嬢と呼ばれた私ですが、死んで灰になりました。~さあ、華麗なる復讐劇をお見せしましょうか!~

ミィタソ

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第二章 死んで灰になりました

14.新婚旅行は誰のために

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 王都から東に二日ほど馬車を走らせると、ランダーク伯爵家が管理する温泉の湧く観光地がある。
 美容に効果がある泉質なので、女性人気が高い。
 大規模なバザーも開かれるらしく、新婚旅行として三日滞在しようということになった。
 事前にキルエンが連絡を取ってくれていたので、貴族向けの豪華な宿泊施設を一部屋確保できているらしい。

「マーガレット、準備はいいか?」

「ええ、大丈夫よ」

 屋敷はもぬけの殻。声がよく響く。
 ダグルド侯爵とモルガン夫人は仕事で出張だ。ちょうどいい機会なので、従業員みんなにも特別に休暇を与えることにした。
 結婚の余韻に浸りながら、二人に感謝しましょうという、貴族ならではの文化だ。

 今日は精一杯のお洒落をしてみた。
 黒いプリーツスカートに、レースがあしらわれた白のブラウス。その上から晴れやかな空を彷彿とさせる、スエード革の空色のコートを合わせている。
 黒のスカーフを口元までふんわり巻いてボリュームを出し、同色のブーツで揃えれば全体の印象が引き締まる。
 私たちは結婚したばかり。ファーブリック侯爵家だと騒がれてはまずい。サングラスで目元を隠しておく。
 黒い毛糸の帽子から、特徴的な髪がはみ出しているが、これくらいは仕方ない。

 キルエンは、真紅のドレススーツに茶色の革靴。同じようにサングラスを掛けている。
 彼が放つ雰囲気のせいで、もっと変装しなければ簡単にバレてしまうと思うのだが。
 言い出した本人がこれでは、私だけやりすぎではないだろうか。

「マーガレット、そろそろ出発といこう」

 馬車に乗り込むと、軽快な車輪の音が聞こえてきた。さあ、楽しい旅の始まりだ。
 これだけの長時間、同じ空間を共有するのは、婚約してから初めてかもしれない。
 キルエンのことだ、類稀たぐいまれな話術で会話を盛り上げてくれるはず。

 途中、どこかで馬の休憩を挟み、その後は中継地点の街に立ち寄って一泊する。これを二日。
 その翌日の昼前に、目的の観光地に到着予定となっている。

「そうだ、バザーには貴族向けの店もあるらしい。揃いの首飾りでも買わないか?」

「まあ、それは素敵ね!」

 さっそく一つ、温泉の他にいい思い出ができそうだ。
 王都では、パートナーの瞳や髪の色と同じ宝石をあしらったアクセサリーを身につけるのが流行っているらしい。
 藤色のアメシストが胸元で輝いていれば、いつでもキルエンをすぐ側に感じられる。

 会話は弾み、車内も退屈しなさそうだ。
 ……と、思っていたのに。

「そうそう、ウィステリアのことで、一つだけ黙っていたことがあったの。いくつか設置している観葉植物を、季節に合った生花せいかに変えようと業者に相談中で……」

 この話がいけなかった。
 ついさっきまで微笑んでいた彼の顔が、怒りに歪む。眉間にシワを寄せ、射殺さんばかりに目つきが鋭くなる。

「なんだって? 君は、僕の顔に泥を塗るつもりかい? いままで好意にしてきた商人たちに、どう説明すればいいんだ!」

 車内に怒声が響く。
 自分勝手に行動し、キルエンに秘密にしていた私が悪い。
 キルエンが築いてきた信頼関係に亀裂を生むような真似をしてしまったのだから。

「お前はいつもそうだ。余計なことをして、僕の邪魔をする。今回ばかりは許すわけにはいかない。父上に言って罰を受けてもらうぞ!」

 凄い剣幕けんまくまくし立てるものだから、さすがに私も腹が立つ。お前呼ばわりされる覚えもない。
 たしかに、私は反省すべきだ。でも、罰を受けるほどのことをしただろうか。
 いままでずっと我慢してきた。その私の苦痛より、この一回のミスの方がずっと重いの?

「この際だから言わせてもらうわ。キルエン、あなたって最低よ! 妻になったばかりの私に、もう少し気を遣ってくれてもいいのでは? 頭ごなしに叱られては、謝りたくもなくなる!」

「結構、よく分かったよ。君がそういう女だってことがね。結婚した途端、がらりと性格が変わるのはよくあることらしい。元々、僕を下に見ていたんだろう? 君がそういうつもりなら、新婚旅行なんて続ける必要はないね」

 激しい言い争いが続く。
 向こうは引くつもりがなさそうだ。
 もちろん、こちらも謝るつもりなどさらさらない。
 もういいよね。私は頑張った。
 ……終わりにしよう。
 小窓から御者に向かって大声で叫ぶ。

「馬車を止めて、もう沢山だわ! この人と一緒にいると頭がどうにかなってしまいそう。いますぐこの場で降ろして!」

 御者が手綱を引いたことで、車体が軋む乾いた音を立てながら、馬車の速度が急激に落ちる。
 外の景色が止まったところで、力任せに扉を開き、恥も外聞も関係なく飛び降りた。

「では、ごきげんようキルエン様! 最高の新婚旅行になりました!」

 乱暴にドアを閉めて、皮肉混じりにお別れを告げる。
 鼓膜を叩く、さぞ大きい音がしたことだろう。

「いや、いい。大丈夫だ。このまま予定通り進んでくれ。もうあいつの顔を見たくない。僕一人で向かうことにする」

 馬車の中から、キルエンが御者と会話する声が聞こえる。
 一人で新婚旅行を満喫するらしい。
 彼が指示を伝えると、私を置いて馬車が走り出した。
 
 これでいい。きっと上手くいく。
 笑いそうになる気持ちをこらえ、俯きながら屋敷への道を歩きだした。
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