終わりにできなかった恋

明日葉

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 つくづく

「いい性格」

 ボソ、と思わず呟くと、ニヤリと見下ろされた。

「褒め言葉」

 ぐしゃぐしゃにまた、頭を掻き回される。これ、ほんと、学生の頃から癖だよな、と思いながら直した。
 人を食ったように、あんな爆弾を投下した後で普通に当たり障りのない会話をして、程々の時間に切り上げて。自然に伝票持って立ち上がって会計済ませてしまうから、多分、席で自分の分出して誰かがまとめて払って、なんて腹づもりだっただろう皆木さんと笑吏は置いてけぼりな感じで。

「あの、志城くん」
 財布を持って追いかけてきた皆木さんに、人当たりの良い笑顔を向けているけど。人の悪い笑いにしか、もはや見えない。笑吏は、どんなやりとりをしたのか、もう皆木さんの車の助手席に座っている。苦手なんだろうな、とは思う。笑吏の思い通りになんて絶対ならないタイプだから。
「良いっすよ。なんか、話すの楽しくて引き止めちゃった感じだし。あ、こより、お前のはもらうからな」
「当たり前でしょ」
 ごそごそと、勝手に志城くんのポケットに突っ込まれた財布を取り出して自分の分より多め、今彼が払った半額くらいを入れて戻す。
「資格、取れると良いっすね。じゃあ、また機会があったら」
 あ。まじで人が悪い。
 資格をとりに専門学校に通っている皆木さん。つまり、まだ働いてなくて。だから出さなくて良いよ、か。しかも、わたしが出したのを見せた後で。
 無言で、脇腹に肘を入れると、頭をはたかれた。車を通り越すから、どうしたのかと思うと、近くにある自販機で缶コーヒーを買っている。ふと、懐かしくなって眺めてしまった。
 1人で缶コーヒー1本、飲むには多くて、よく一口もらっていた。ついでに、いじめられたな、と思っていると、缶を渡そうとするから思わず警戒して首を振る。
 同じことを思い出したのか、今度は、心底面白そうに笑われた。
「お前、これは覚えてんのな」
「忘れないからっ」
「そ?ま、とりあえずちょっと持って。探したいから」
 と、鞄に手をかけながら言われたら預かるしかない。警戒しながら受け取ると、満足げで。
 ただ、油断も隙もないと言うか、分かってて油断したわたしが残念なのだろうけれど。ホットの缶コーヒーを持った状態で、不意打ちでその手の上から志城が両手でしっかりとわたしの手ごと、缶コーヒーを包む。ヤバイ、と思った時には、離せない状態で上下に振られた。

「あ、熱っ!あつい、あついっっ」

「お前ほんと、もちょっと警戒心保て?」
「熱いってばっ」

 熱さで腰ひけて手を引き抜こうとするのに容赦ない。


「こより、名前、呼べよ」
「は?」

 なんのいじめ?


 振るの、やめてくれていたのに、身をかがめて顔を覗き込まれる。
 これ、逃す気のない顔。


「もう一回、やる?」

 言いながら、少し腕を上げられた。


「や、ちょ、燎ちゃん、やめっ」


「ふはっ」


 そっちかよ、と腹を抱えて、人の肩に額を置いて笑い出した。同級生の女子で時々、名前の方で呼ぶならだって、燎ちゃん、だったじゃん、と思わずふてくされる。だいたい、さ。


「名前で呼ぶって、善処するって言ったの、何日前よ」

 せっかち。

「お前ね、この話の進むテンポ感、考えてみ?放って置いたらこよりはこのままだと、オレは判断したの。だから、これから間違えたら
「は!?」
 何をされるかすらわからないって、どういうこと、という抗議は聞く気配もない。
 ただ。



「しばらく、バリエーション、定まらないよ」
「おう。ずっとでも良いぞ」
 何それ、と笑わされて、車の方に背中を向けたの服の裾を掴んで、背中に額を預けた。

「さっき、ありがと」
「…どれ?お礼言われること多すぎて、わかんないな」
 ですよね、と思いながら、さっきの会話を思い出す。




「皆木さん、なら、知ってるでしょ。こいつ、友だちは絶対、味方だから。小言いうし、怒るし口うるさいしとかあるけど、でも味方なのは絶対だと思えるから、オレは結婚しても、夫婦でも、友だちなのは変わらないもんな」
「…結婚、するんですよね?友達と」
「結婚したって、友だちのままでいいでしょ」
 さすがに恥ずかしくて照れ臭くて、俯いていた。
「こいつがそんなだから、オレもこいつの味方だし。というか友だちってそういうもんか、て妙に納得したし、だからこいつの周りは、味方が多いし。練習に参加して思ったけど、あそこもそうだったし、皆木さんも、そうなんでしょ?」



 釘を刺すような、言い方だった。
 友達に戻る、と言われて。なんだか、縛られた気がしたのは、わたしのそんな、友達感覚のせいなのか。多分、わたしと皆木さんでは友達、の考え方が違って。
 男女の友情なんてあり得ない、どっちかが少なくとも、とか、言われる。ただ、結婚したって友だちのままでいいというのは、目から鱗で、すごく安心した。



 背中に額を当てたまま、ねえ、と続けた。
「夫婦は、絶対味方、じゃないのかな」
「なったことないからな、夫婦。なってみて、わかる時くるんじゃないか?」
「友達続けてたら、どっちでか、わかるかな」
「どっちでもいいだろ」
「…そうか。そうだね。あとさ、わたしがこの話、報告一番しにくかったの、一緒にというか、さっくりとしてくれてありがとう」
「素直だな」
「いつも素直でしょ。あのさ。真維ちゃんにこの話報告する時、一緒に行くよ」
 あぁ、と唸るような声が額に振動と一緒に響く。真維ちゃんは、燎介の別れた彼女。ずっと付き合ってた彼女。
「オレ1人で、さすがにするよ。お前も会った方がよさそうだったら、頼む」
「わかった」
 頷きながら、思わずそのまま掴んでいた服の裾から手を離して、背中に抱きついたのは、完全に無意識だった。唸るような声で我に返ったけれど、手首を掴まれた。

「背中かよ」
「背中なら、できちゃった」
「ふざけてんなぁ」
 なんだか不貞腐れた声に思わず笑いを漏らすと、そのまま手を引っ張られてしまう。
「背中じゃ、オレができないだろうが」


 大きい体が妙に心地良くて、もともとの燎介という存在への安心感も手伝って。恥ずかしくて照れ臭くていっぱいいっぱいだけど、なんだか幸せだなぁとふわふわした。
 結婚するんだと、イメージできた。



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