力は弱くて魔法も使えないけど強化なら出来る。~俺を散々こき使ってきたパーティの人間に復讐しながら美少女ハーレムを作って魔王をぶっ倒します

枯井戸

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オモチャ

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「魔法……?」


 ううん。そんなこと、あるはずがない。
 アーニャたちが言っていたけれど、ネトリールの人たちは基本的に魔法を使えないはず。
 でも、それだと、あたしがさっき警棒を握った時に、手に刀傷をつけられた理由にはならない。かすかに……ほんのすこしだけど、あの警棒からは魔法の感じ・・・・・がした。
 だとすれば、残る考えられる理由は……いまだけ、このネトリールで何らかの理由で、魔法が使えるとか?
 ……ダメ、それは考えられない。
 もし魔法が使えていたら、おにいちゃんが危険を冒してまで、あたしを助けるはずがなかった。あたしにそのまま付与魔法をかけていれば、それだけで済んでいたはず。だけど、そうしなかったということは――


「くたばれ! 地上人!!」


 おにいちゃんの脚を切り落とした男が、返す刀であたしめがけて警棒を振ってきた。
 どうやら、本当に考える時間は与えてくれないようだ。
 ……おにいちゃんが与えてくれた時間。今度こそ、直情的にならず、慎重に攻めないと……!
 警棒の軌道は水平。
 動きは緩慢。
 普通だったら、このまま余裕をもって警棒を弾き、額、喉、腹に素早い打撃を打ち込めば、必ずひるむ。
 だけど、ここはそうすべきじゃない。
 おにいちゃんのあの蹴り警告は明らかに、受け太刀するなという合図。
 あの警棒には決して、触れてはならない。
 だったら――


「な――!?」


 あたしは頭を下げ、肉薄してきた警棒を屈んで避けると、その態勢のまま、男の足を払った。
 男はぐらりと態勢を崩すと、そのまま、無防備にもあたしのほうへと倒れこんでくる。


「――ッ」


 息を小さく吐き、あたしは立ち上がると同時に、拳を男の顔面に叩きこんだ。
 見様見真似の付与魔法を使った、渾身の一撃。
 ボキッ!
 と、首の骨が折れる感触が、拳の関節から脳髄へと伝達してくる。その後、ぐにゃりと男の首が可動域を越えて曲がる。
 おにいちゃんほどの強度ではないけれど、どうやら、あたしにも少しは付与魔法が使えるみたいだ。
 普通の打撃なら、これほどの破壊力はでない。
 そして、次。
 ひとりは処分した。残りはあとひとり。
 これが騒ぎならないように、速やかに敵を排除しなければならない。
 あたしは眼球を右に左に動かすと、もうひとりの男の索敵に努めた。


「――見つけた」


 男は顔面蒼白で、銃を構えながらなにか鳴き声を発していた。
 何を言っているのか理解できないし、するつもりもない。
 あたしの頭の中にあるのは、ただ目の前の敵を処理するだけ――という、単純明快な回路のみ。
 それに、たとえその行為が何らかの脅しだとしても、それの対処法は知っている。ヴィクトーリアが使っているところを見たことがあるからだ。
 あたしは今さっき、首の骨を折った男の腹に潜り込むと、そのまま、かちあげるようにして、銃を構えている男のほうへ、投げつけた。

 ――パンパンパンパン!

 四発の連続した発砲音。
 意外と小さな発砲音。
 あたしを狙ってのものだろうけど、結果として、すべての弾が投げつけた男の体にバスバスと当たっていく。
 拳銃を構えた男はサッと、男の死体を避けるけど、もう遅い。


「死んで」


 男の死体の影に隠れ、一気に距離を詰めたあたしの拳が、男のわき腹を捉える。
 一本、二本、三本……メキメキと骨が音を立てて、あたしの拳が男の体内を抉っていく。
 でも、これじゃ終われない。
 こんなのじゃ、あたしの怒りは収まらない。
 あたしは腰を捻ると、息をふっと吐き、その回転力を拳へ乗算した。

 ドガァン!!

 男は何も言葉を発することなく、公園のベンチにぶち当たった。
 ベンチは粉々に吹き飛び、男の体が視認できないほど、パラパラと土煙が舞い上がる。
 それに伴い、血が上っていた頭も冷めてくる。


「お、おにいちゃん……!」


 そんなあたしの頭に真っ先に浮かんだのは、おにいちゃんの安否。
 あたしは身をひるがえすと、おにいちゃんを助け起こしに向かった。


「おにいちゃん! おにいちゃん……!?」


 あたしは必死に、おにいちゃんを上下にゆすったり、人工呼吸したりしたけど、おにいちゃんは気を失っているのか、何も反応を示さない。
 このままじゃ危ない。
 そして、パニックになったあたしの視線は、自然におにいちゃんの太ももに注がれる。
 さきほど切断された脚の切断面からは、ドクドクと大量の血が流れ出ていた。


「ど、どうしたら……!」


 あたしはどうしていいかわからず、オロオロと狼狽えていると――


「今すぐ傷口を縛ってくださいませ! 血が止まるまで! キツく!」


 と、後ろからパトリシアさんの声が響いた。あたしはその声には振り返らず、相槌も打たず、腰のベルトを抜き取ると、それをおにいちゃんの脚にギュッときつく結びつけた。
 それにより、心なしか、出血の量が抑えられた気がした。


「フム、出血がひどいですね」


 名前も知らない男の人が、てくてくと能天気にあたしたちのほうに近づいてきた。


「……これは、さすがに死にましたね。その男の悪運も――ブホッ!?」


 その男の態度がなんとなく癪に障ったので、あたしの裏拳を男にお見舞いした。


「……死んでいません。まだ生きています。ぶっ飛ばしますよ」

「ぐ……! も、もうぶっ飛ばされているんですが……! はな……鼻血が……」

「そうですわ。ユウさんの言う通りですの。まだ助かりますわ」


 パタパタと、慌てたようにしてパトリシアさんが駆けつけてくる。もう、いまはパトリシアさんに頼るしか選択肢がない。


「ぱ、パトリシアさん、ここから、どうすれば……?」


 あたしはそう言って、すがるようにパトリシアさんを見上げた。
 パトリシアさんは少しだけ考えた後「そうですわね。ここからですと……あそこが近いですわね……」と、遠くのほうを指さした。

「あそこ?」


 パトリシアさんが指さしたのは、なんの変哲のない民家……の連なり。
 時間帯が時間帯のため、明かりがついていないので、どれを指しているのか全くわからない。おもわずあたしも、なにがなんだかわからず、訊き返してしまった。


「では、お二人とも。ユウトさんをあそこに見える建物まで運んでくださいまし」

「えっと……どれ……かな?」

「あー……、えっと……たしかに今は見えづらいのですが……と、とにかく私についてきてくださいまし!」


 パトリシアさんはそう言って、あたしたちを急かすようにしてきた。
 たしかに、ここでモタついている時間はない。いまはどうしても、時間が惜しい。
 おにいちゃんを助けるにしても……、ヴィクトーリアを助けるにしても……。
 あたしはおにいちゃんの体をそっと抱きかかえると、パトリシアさんの後に続いた。





 公園付近。
 さきほど、パトリシアさんが指さした、民家の連なり。
 その中の一軒。
 あたしたちはそこへ、半ば逃げ込むようにして、おにいちゃんを担ぎ込んできていた。
 幸い、時間帯が時間帯だったため、何者かがあたしたちを追っている気配も、近隣の人間が騒ぎ立ててくる気配もなかった。
 そのお陰もあって、パトリシアさんによるおにいちゃんの治療はスムーズに終わったようだ。
 現在、おにいちゃんはベッドの上で目を閉じて大きく、静かに呼吸している。
 脚もほとんど元通り、きちんとくっついていた。
 ちなみに現在、あたしたちがいるこの場所は、パトリシアさんがときどき、アンと一緒に泊まりに来る隠れ家みたいな場所らしい。
 しかし、どう見ても内装は隠れ家というよりも別荘。
 ざっと見ただけで、生活に必要なものはすべてそろっている。


「……脚の縫合は済ませましたわ。失った血液もなんとかなりましたの。でも……」


 パトリシアさんがそう言って、マスクと血の付いた手袋を外しながらあたしに近づいてきた。


「でも……?」

「ユウトさんはこのまま、絶対安静ですの。これ以降、ユウトさんの力を借りることはできませんわ」


 ……正直、なんとなくわかっていたけれど、ここでのおにいちゃん脱落はかなり痛い。でも、それもこれも、全部あたしのせいだ。自業自得。
 もうすこし慎重であるべきだった。
 けど、そんなことよりも、いまはおにいちゃんが助かったことを喜ぶべきだ。
 あたしはパトリシアさんの手を握ると――


「あ、ありがとう。パトリシアさんのお陰だよ。……なんてお礼を言っていいか……」


 と、何度も何度もパトリシアさんにお礼の言葉を言った。


「そんな、気にしないでくださいまし。これくらい、なんてことはありませんの」

「ありがとう……! ありがとう……!」

「……それより、姫様」


 空気を読まず、ジョンという男が話しに割り込んできた。この人の名前は、パトリシアさんがおにいちゃんの治療中に聞いた。どこかで聞いたことがある気はするけど……、たぶんすぐに思い出せないので、その程度のものだったという事だと思う。


「その手際の良さから見るに、姫様には医療の心得があると推察できるのですが……?」

「あ、それ、あたしも気になってました。パトリシアさんって、お姫様兼、お医者さんなんですか?」

「あ……、いえ、私はそんな大層なものではございませんわ。私はただの、なんの変哲もないネトリール王女ですわ」


 何の変哲も………というより、変哲の塊のような身分だと思うけど……、あたしはあえて何も言わなかった。


「……いやしかし、このようなこと見事な術が出来るのは――」

「医療キットのお陰ですわ」

「キット……?」

「はい。ネトリールには基本的に、『お医者様』という職業は存在しませんの。大抵、一家に一台、私がさきほど使用した医療キットがあるんですの」

「その医療キットというのは……?」

「そうですわね……。えっと、簡単に言えば機械のお医者様……のようなものですわ。病気の症状や傷の状態など入力すれば、その患者様に合わせた治療法などを提示してくれるものですの」

「なるほど、さすがネトリールですね……。そのような技術もあるとは……」


 ジョンさんが、すこし驚いたような声を上げた。


「いえいえ、あなた方の魔法に比べればこんなものは……」


 たしかに、治癒魔法に比べればすこし不便かもしれないが、これはこれで立派な技術だ。あたしたちの世界には、後にも先にも、こんなものは出てこないだろう。


「……それに、これは本当はオモチャのようなものですの」

「お、オモチャ!? これが……ですか?」


 ジョンさんが、今度は大きな声で訊き返した。


「は、はい。医療キットは小さいお子様でも扱えるものですの。本当はもっと、本格的なものを使用したかったのですが、今はこれしか……。申し訳ございません……」


 オモチャ……これが?
 ネトリールの技術は一体、どうなっているのだろう。
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