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勇者の目覚め
しおりを挟む「ふう、食った食ったー!」
いつか、どこかで見た光景。
大きくなった腹を満足そうにさすりながら、ローゼスが俺のベッドの上に座っている光景。あの時と違う事と言えば、姉ちゃんもなぜか俺の部屋にいるという点。
学校が終わってそのまま帰宅したのだろう、スーツのまま、ストッキングをはいたまま、ローゼスと同じく俺のベッドの上に座っている。
そして俺はというと、なぜかまた勉強机の上に座っていた。
「……相変わらず食い過ぎなんだって、ローゼス。晩飯だけで米六合くらい食ってたろ」
「ロクゴー?」
「こないだの倍の量ってこと。今度は九合くらい食う気か?」
「そういう単位? はイマイチわかんねンだけどよ、やっぱうめえな。なんやかんやで。ついつい食べ過ぎちまうよ」
「……いや、だから食べ過ぎなんて量じゃないんだって」
「いいのいいの。マコトが全然食べないんだから、そのぶんローゼスさんが食べてくれないと」
「にしても限度があるだろ……」
「ま、まあ、ごはん中に二回お米を炊くことになるとは思わなかったけどね……」
「わりぃわりぃ。なら今度、カナデがこっちの世界に来たら、そんときゃ腹いっぱい食わせてやっからよ」
「ぶっ……!?」
ローゼスの、考え無しの発言に思わず噴き出す。
バカなのかこいつ。〝世界〟なんて口走るなよ。
「せ、せかい……? ……ああ、国って事? そういえばローゼスさんってどこの国出身か聞いたっけ?」
よかった。ローゼスの外国人設定が、まだ姉ちゃんの中で生きていた。
俺は必死になんとか姉ちゃんに気付かれないように、ローゼスに合図を送った。
「あたしか? あたしはカイゼ──」
「ぶ、ブラジル! ブラジルのサンパウロとかその辺! な? そうだよな? ローゼス?」
「ぶ、ぶら……さんぱ……? な、何言ってんだマコト? あたしは──」
「だよなぁ!? ローゼスさん!?」
「え、あ、ああ……まあな。あたしは……ブラブラのサンパッパ……? てトコの出身……なんだよ」
どこだよ!
「へえ、ローゼスさんの地元ではブラジルは〝ブラブラ〟で、サンパウロは〝サンパッパ〟って呼称するんだ! そっか、ブラジルかぁ……あ、じゃああの時マコトを投げ飛ばしたって〝ブラジリアン柔術〟なんだね!」
「そ、そうそう! そんな感じで……へへへ、参っちゃうよな、なんか変な地名でさ! よくバカにされちまうんだよ……へへへ……」
まずいな。
とりあえず一難去ったが、また一難だ。ローゼスのほうはなんとか察して誤魔化してくれたけど、このままじゃいずれボロが出てしまう。
なんとかして話題を変えないと、俺のベッドがローゼスの冷や汗でベチャベチャになってしまう。
「……ところでさ、最近マコト帰ってくるの遅いけど、何やってんの? あんた部活とかやってなかったよね?」
「え? なに急に?」
「しかも今日、駅前のほうですごい爆発があったって言うし……」
完全なる不意打ち。
思わぬところからの攻撃に、思わず俺もローゼスも固まってしまう。
しかもこれ……こういう風に一気に質問してくるって事は、姉ちゃん絶対何か知ってるって事だよな。
どうしよう。
シラを切るか、素直に打ち明けるか……いや、ない。ないな。打ち明けるのは絶対にない。たとえ何か、核心めいた事を知っていたとしても、シラを切り通す。たとえ隠したことについて、俺が烈火の如く怒られたとしても、それでも姉ちゃんを巻き込むわけにはいかない。
「……あ、ああ、なんかあったよな、そういうの。物騒だよな、いきなり爆発なんて……それがどうしたの?」
「あんた今日、行ったでしょ。駅前」
「……は?」
「は? じゃなくて、行ったんでしょ? 駅前」
「い、行ってねえよ……」
「うそ。だってあんた、昼休みの時に出てったじゃん、あの怖そうな男の人と」
レヴィアタンのやつだ。見られてたんだ。あいつと一緒にいるところを。
……でも、そりゃそうか、めちゃくちゃ目立ってたもんな、あの時。
「ねえ、なに隠してるの? お姉ちゃんにも言えない事なの?」
「それは……ていうか、べつになんでもねえよ。あいつは……ただの友達だよ、友達。ネットで知り合った。あの時は一緒に……ゲーセン行こうとしてただけだよ……」
「まだ学校終わってないのに?」
「そ、そう。たまたま新しいゲーム筐体が出たみたいでさ、それでわざわざ俺のところまで呼びに来てくれて──」
「あのねマコト。ああいう人が……仮にあの怖そうな外見に目を瞑ったとしても、白昼堂々、学校に乗り込んでくるような友達と付き合っていることのほうが、危ない気がするんだけど?」
「お、おっしゃる通りで……」
沈黙。
これ以上俺に何を聞いても意味がないとわかったのか、姉ちゃんは何も言わず、じっと俯いている俺を見てくる。
やがて、しびれを切らしたのか、姉ちゃんは俺のベッドから降り、おもむろに俺の前まで歩いてきた。
──むぎゅ。
突然、両頬をつままれると、グイっと無理やり顔を上げられた。俺の視線と姉ちゃんの視線が、超至近距離でぶつかる。
「うん、どうしても言いたくない事があるのはわかった! だからこれ以上は何も訊かない! ……けどね、これだけは覚えておいて。ぜったいに危険な事はしない事。それと……どうしても自分の力で解決出来なさそうだったら、迷わず、ぜったいお姉ちゃんを頼ること」
「う……うん……」
「いい? わかった?」
「は、はひ……」
「それなら、よし!」
姉ちゃんは言うだけ言って満足したのか、勢いそのまま俺の部屋から出ていった。
「……へへ、いい姉ちゃんじゃねえか。なあ、マコト?」
ローゼスが茶化すように言ってくる。
実際、姉ちゃんがどこまで知っているかわからないけど、姉ちゃんなりに俺を信じてくれた。心配だけど、干渉したいけど、全部呑み込んで、黙って俺を信じてくれた。
だったら──俺が出来る事と言えば、これ以上姉ちゃんを心配させない事と、姉ちゃんを巻き込まない事だ。
それがせめてもの──俺が姉ちゃんにしてあげられる事。
「……ローゼス」
「なんだ?」
「なんか、吹っ切れたよ。いろいろと目が覚めた。やるべき事がわかってきた……ていうのかな」
「……向こうの、カイゼルフィールにいた時の調子、取り戻してきたか?」
「たぶんな」
「やっとかよ。……んじゃあそろそろ、ベリアルが言ってた事のおさらいといくか」
「そうだな」
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