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最終話 いじめっ子を泣かす、いじめられっ子
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ただ真っ直ぐに、自身の拳骨を前へ突き出す。
掌が内出血しそうなくらい、強く握った拳を親指で固定し、ただ真っ直ぐに、愚直に、魔法で防御も強化もせず、自身の力のみで、文字通り己が〝裸拳〟を三柳の顔面に叩きつける。
ド……ゴ……ォ……ッ!
拳の第三関節が三柳の顔、鼻骨のあたりにめり込むが、それでも俺は拳骨を引かない。さらにそこから力を込め、首から上を吹き飛ばすような感じで、さらに──腕に力を込める。
「──ッ──ア゛──!?」
三柳が声にならないような声を出し、俺の許可なしに俺から離れようとする。俺はすかさず、殴ったほうとは別の手で三柳の制服を掴むと、すぐさま三柳を手繰り寄せた。
そして再度叩きつける。俺の拳骨を。裸拳による全身全霊を。
──ビリビリィッ!
制服が殴打の衝撃に耐えられなかったのか、俺の掴んでいた部分から無残に破れていった。それと同時に三柳が血を撒き散らしながら、ぐるんぐるんと半回転しながら、妙な軌道で弧を描き、飛んでいく。
べちゃっ……!
およそ人体からは発せられないであろう、水分を含んだような音とともに、三柳が地面に叩きつけられる。
「あ……ぁぅ……あ……があぁぅうあ……!」
まるで電池の切れかけた玩具のように、三柳が苦しみながらのたうち回っている。
俺はゆっくりと三柳の元へ歩いていき、顔面を確認するが──
「……今ので死なないか」
さきほど三柳に浴びせられた言葉を、そっくりそのまま三柳へと返す。
頭部は完全に粉砕したと思っていたが、負傷したのは顔の前面のみ。さすがに肉体が〝魔物化〟しているだけあって、いくらかは頑丈になっているようだ。筋力のみによる打撃は、これくらいが限度だろう。
「は……ッ……ぁぅ……っ……ふ……っ……あ……ぐっ!」
とはいえ、さすがにこのままじゃ見れたものではない。もはや口も鼻も潰れていて、現在発している音がはたして、声なのか呼吸なのかわからないほど。
目と思しき窪みからは、涙と思われる液体がちょろちょろと流れ出ていた。
さきほどは思わず、カッとなって殴ってしまったが……、藤原も言っていたように、こいつに姉ちゃんをどうこうする度胸はまずないだろうし、姉ちゃんの事を口にするとき視線が泳いでいた。
したがって、三柳が嘘をついていた事はなんとなくわかっていた……けど、あんな言い方をされてしまうと、こちらとしても頭にきてしまう。
俺は三柳の顔面を鷲掴みにすると、強引に顔を修復した。
「はぁ……、しゃべれるか?」
俺が気怠そうに、ため息交じりに話しかけると、三柳は困惑したような表情と声で「なんで……?」とだけ答えた。
「……その〝なんで〟って〝なんで俺を助けたのか〟って意味なのか、それとも〝なんで嘘だとわかったのか〟のどっちだ?」
「な、なんで……こんな……強ェんだよ……!」
「そっちかよ……」
「お、おかしいだろ! おまえも……マコトも〝マモノ〟と契約したンだろ!? だったらなんでここまで差が……」
「あのな、三柳。ひとつ訂正させてもらうけど、俺は魔物とは契約していない」
「……は? じゃあなんでそんな──」
「もういいだろ。そういうのは。誰が強いとか、誰が弱いとか、誰が上で誰が下かなんて……それより、姉ちゃんはどこだ? もちろん、元気なんだよな?」
「……工場の中だ。うるさかったから、手足は拘束して適当に転がしてある」
もう完全に戦意は喪失しているのか、三柳は全く俺のほうを見ずに答えた。
これ以上ここに居ても、三柳が惨めになるだけ。
俺は「わかった」とだけ言うと踵を返し、まずは藤原の元へ向かった。
「……藤原、大丈夫か? 意識は──」
ぐったりと倒れている藤原を、ゆっくりと抱え起こす。三柳に殴られたせいか、頬が赤く腫れあがっていた。
「ご、ごめん、マコトくん……」
「まだ言ってるのか。もういいよ、気にすんな。……それより、結構腫れてるみたいだけど、大丈夫か? 痛むか?」
「あ、うん。たぶん大丈夫だと思う。そんなに痛くないし、痛み止め飲んで一晩寝れば治るんじゃないかな」
「いや、それもどうかと思うけど……なんか慣れてないか、藤原」
「そ、そんなことより……お姉さんは? こほん。……我が従者よ、己が主君を気にかけるという心意気は買ってやるが、まずは血の繋がった姉を心配するのが──」
「ゲ……ゲゲ……キヒヒ……ヒヒヒヒヒ……クケキャケケケケケエケケエエッケケケケ!? アヘ?! アヘアへ……アヘ?」
「ヒィ!?」
突然、三柳が奇声を上げる。それにビックリしたのか、藤原がピッタリと俺にくっついてきた。
なんというか、男なのに良い匂いがして、ゴツゴツしていなかった……じゃなくて、何事かと思って見てみると、三柳は体が小刻みに震わせながら目をパチパチさせたり、口の端から泡を吹きだしたりしていた。
さすがにただ事ではないと思った俺は、おそるおそる三柳に近づこうとするが──
「こんにちは。勇者様」
三柳が急に立ち上がり、軍隊ばりの気をつけの姿勢をとって、まっすぐ俺を見つめてきた。いままで見たことがないほどのキリッとした表情と、口の周りにある泡が完全にミスマッチしていて、得も言われぬ不気味さを醸し出している。
「いや、それよりも……勇者? おまえ、もしかして……いま勇者って……」
「はい。お察しのとおり、この者の精神は今、完全にワタクシめが全て食い潰してさせて頂きました」
「……てことは、おまえが三柳に力を貸すとか言ってた魔物か」
「左様で御座います。私としては早急に精神の乗っ取りを完了しておきたかったのですが、意外にも食い下がられてしまいまして……いえ、本来はこのような事はないのですが、それで〝力〟の譲渡を申し出た次第なのです。まあ、あくまで、この者の精神を乗っ取るための方便なのですが……」
「なんかよくわからんけど……もう三柳は死んだって事なのか?」
「はい。申し訳ございません。ワタクシたちとしても、勇者様に迷惑をかけるような事はしたくありませんでしたので」
どうやらこの口ぶりだと、三柳の事について毛ほども悪いと思っていないのだろうな。
「……なあ、もしここで俺が、あんたを拘束して不破に引き渡したらどうするんだ?」
「はい。勿論、私なりに抵抗させて頂きます……が、それも徒労に終わる事でしょう。ワタクシめでは、逆立ちしても勇者様には敵いませんからね」
「じゃあ、なんのために出てきたんだ? あのまま、俺がいなくなるまでやり過ごす事だってできただろ」
「はい。それについてですが……そろそろ本題に入ってもよろしいでしょうか?」
「本題?」
こいつ、最初からそれが目的か。
「はい。……ですが、その前に自己紹介をさせて頂く必要がありますね」
「なんか、おまえ……魔物のクセに、妙に丁寧だな」
「ワタクシの名はサターン。ルシファー様の元部下にして、現在あなたたちが追っている標的です。以後、お見知りおきを」
──────────────────────────
申し訳ありません!
話としては中途半端になってしまいましたが、いじめっ子を泣かしたので、誠に勝手ではありますが、
『異世界を救って現実世界に戻ってきたイジメられっ子がイジメっ子を泣かすまで』
を終了とさせていただきます。
本当はここから色々と物語を展開していくつもりだったのですが、如何せん、作品自体の人気があまり伸びな……げふんげふん、私の実力不足だったゆえ、これ以上だらだら続けても、あまり成長できないかなと思って、〆させていただきました。
楽しみにされていた方には申し訳ないのですが、次の作品はもうちょっと多くの方に読んでいただけるような作風にしていくつもりですので、また、よろしければ読んでほしいな……なんて勝手なことを想ってます。
伏線も投げっぱなし、それっぽい事も言いっ放しで完全に消化不良でしたが、ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!
掌が内出血しそうなくらい、強く握った拳を親指で固定し、ただ真っ直ぐに、愚直に、魔法で防御も強化もせず、自身の力のみで、文字通り己が〝裸拳〟を三柳の顔面に叩きつける。
ド……ゴ……ォ……ッ!
拳の第三関節が三柳の顔、鼻骨のあたりにめり込むが、それでも俺は拳骨を引かない。さらにそこから力を込め、首から上を吹き飛ばすような感じで、さらに──腕に力を込める。
「──ッ──ア゛──!?」
三柳が声にならないような声を出し、俺の許可なしに俺から離れようとする。俺はすかさず、殴ったほうとは別の手で三柳の制服を掴むと、すぐさま三柳を手繰り寄せた。
そして再度叩きつける。俺の拳骨を。裸拳による全身全霊を。
──ビリビリィッ!
制服が殴打の衝撃に耐えられなかったのか、俺の掴んでいた部分から無残に破れていった。それと同時に三柳が血を撒き散らしながら、ぐるんぐるんと半回転しながら、妙な軌道で弧を描き、飛んでいく。
べちゃっ……!
およそ人体からは発せられないであろう、水分を含んだような音とともに、三柳が地面に叩きつけられる。
「あ……ぁぅ……あ……があぁぅうあ……!」
まるで電池の切れかけた玩具のように、三柳が苦しみながらのたうち回っている。
俺はゆっくりと三柳の元へ歩いていき、顔面を確認するが──
「……今ので死なないか」
さきほど三柳に浴びせられた言葉を、そっくりそのまま三柳へと返す。
頭部は完全に粉砕したと思っていたが、負傷したのは顔の前面のみ。さすがに肉体が〝魔物化〟しているだけあって、いくらかは頑丈になっているようだ。筋力のみによる打撃は、これくらいが限度だろう。
「は……ッ……ぁぅ……っ……ふ……っ……あ……ぐっ!」
とはいえ、さすがにこのままじゃ見れたものではない。もはや口も鼻も潰れていて、現在発している音がはたして、声なのか呼吸なのかわからないほど。
目と思しき窪みからは、涙と思われる液体がちょろちょろと流れ出ていた。
さきほどは思わず、カッとなって殴ってしまったが……、藤原も言っていたように、こいつに姉ちゃんをどうこうする度胸はまずないだろうし、姉ちゃんの事を口にするとき視線が泳いでいた。
したがって、三柳が嘘をついていた事はなんとなくわかっていた……けど、あんな言い方をされてしまうと、こちらとしても頭にきてしまう。
俺は三柳の顔面を鷲掴みにすると、強引に顔を修復した。
「はぁ……、しゃべれるか?」
俺が気怠そうに、ため息交じりに話しかけると、三柳は困惑したような表情と声で「なんで……?」とだけ答えた。
「……その〝なんで〟って〝なんで俺を助けたのか〟って意味なのか、それとも〝なんで嘘だとわかったのか〟のどっちだ?」
「な、なんで……こんな……強ェんだよ……!」
「そっちかよ……」
「お、おかしいだろ! おまえも……マコトも〝マモノ〟と契約したンだろ!? だったらなんでここまで差が……」
「あのな、三柳。ひとつ訂正させてもらうけど、俺は魔物とは契約していない」
「……は? じゃあなんでそんな──」
「もういいだろ。そういうのは。誰が強いとか、誰が弱いとか、誰が上で誰が下かなんて……それより、姉ちゃんはどこだ? もちろん、元気なんだよな?」
「……工場の中だ。うるさかったから、手足は拘束して適当に転がしてある」
もう完全に戦意は喪失しているのか、三柳は全く俺のほうを見ずに答えた。
これ以上ここに居ても、三柳が惨めになるだけ。
俺は「わかった」とだけ言うと踵を返し、まずは藤原の元へ向かった。
「……藤原、大丈夫か? 意識は──」
ぐったりと倒れている藤原を、ゆっくりと抱え起こす。三柳に殴られたせいか、頬が赤く腫れあがっていた。
「ご、ごめん、マコトくん……」
「まだ言ってるのか。もういいよ、気にすんな。……それより、結構腫れてるみたいだけど、大丈夫か? 痛むか?」
「あ、うん。たぶん大丈夫だと思う。そんなに痛くないし、痛み止め飲んで一晩寝れば治るんじゃないかな」
「いや、それもどうかと思うけど……なんか慣れてないか、藤原」
「そ、そんなことより……お姉さんは? こほん。……我が従者よ、己が主君を気にかけるという心意気は買ってやるが、まずは血の繋がった姉を心配するのが──」
「ゲ……ゲゲ……キヒヒ……ヒヒヒヒヒ……クケキャケケケケケエケケエエッケケケケ!? アヘ?! アヘアへ……アヘ?」
「ヒィ!?」
突然、三柳が奇声を上げる。それにビックリしたのか、藤原がピッタリと俺にくっついてきた。
なんというか、男なのに良い匂いがして、ゴツゴツしていなかった……じゃなくて、何事かと思って見てみると、三柳は体が小刻みに震わせながら目をパチパチさせたり、口の端から泡を吹きだしたりしていた。
さすがにただ事ではないと思った俺は、おそるおそる三柳に近づこうとするが──
「こんにちは。勇者様」
三柳が急に立ち上がり、軍隊ばりの気をつけの姿勢をとって、まっすぐ俺を見つめてきた。いままで見たことがないほどのキリッとした表情と、口の周りにある泡が完全にミスマッチしていて、得も言われぬ不気味さを醸し出している。
「いや、それよりも……勇者? おまえ、もしかして……いま勇者って……」
「はい。お察しのとおり、この者の精神は今、完全にワタクシめが全て食い潰してさせて頂きました」
「……てことは、おまえが三柳に力を貸すとか言ってた魔物か」
「左様で御座います。私としては早急に精神の乗っ取りを完了しておきたかったのですが、意外にも食い下がられてしまいまして……いえ、本来はこのような事はないのですが、それで〝力〟の譲渡を申し出た次第なのです。まあ、あくまで、この者の精神を乗っ取るための方便なのですが……」
「なんかよくわからんけど……もう三柳は死んだって事なのか?」
「はい。申し訳ございません。ワタクシたちとしても、勇者様に迷惑をかけるような事はしたくありませんでしたので」
どうやらこの口ぶりだと、三柳の事について毛ほども悪いと思っていないのだろうな。
「……なあ、もしここで俺が、あんたを拘束して不破に引き渡したらどうするんだ?」
「はい。勿論、私なりに抵抗させて頂きます……が、それも徒労に終わる事でしょう。ワタクシめでは、逆立ちしても勇者様には敵いませんからね」
「じゃあ、なんのために出てきたんだ? あのまま、俺がいなくなるまでやり過ごす事だってできただろ」
「はい。それについてですが……そろそろ本題に入ってもよろしいでしょうか?」
「本題?」
こいつ、最初からそれが目的か。
「はい。……ですが、その前に自己紹介をさせて頂く必要がありますね」
「なんか、おまえ……魔物のクセに、妙に丁寧だな」
「ワタクシの名はサターン。ルシファー様の元部下にして、現在あなたたちが追っている標的です。以後、お見知りおきを」
──────────────────────────
申し訳ありません!
話としては中途半端になってしまいましたが、いじめっ子を泣かしたので、誠に勝手ではありますが、
『異世界を救って現実世界に戻ってきたイジメられっ子がイジメっ子を泣かすまで』
を終了とさせていただきます。
本当はここから色々と物語を展開していくつもりだったのですが、如何せん、作品自体の人気があまり伸びな……げふんげふん、私の実力不足だったゆえ、これ以上だらだら続けても、あまり成長できないかなと思って、〆させていただきました。
楽しみにされていた方には申し訳ないのですが、次の作品はもうちょっと多くの方に読んでいただけるような作風にしていくつもりですので、また、よろしければ読んでほしいな……なんて勝手なことを想ってます。
伏線も投げっぱなし、それっぽい事も言いっ放しで完全に消化不良でしたが、ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!
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