史上最強の料理人(物理)~役立たずと言われパーティを追放されましたが、元帝国最強騎士なのは内緒です~

枯井戸

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騎士と料理人

元最強騎士は捕まりました

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 太く、頑強な鉄柵で隔絶された、四畳半ほどのスペースの独房。
 そこの簡易的な洋式トイレに、ガレイトはいた。
 ガレイトはがっくりと項垂れたまま、両手で顔を覆っている。

 罪状は住居侵入罪、器物損壊罪、建造物等損壊罪、及び強姦未遂・・・・
 本人ガレイトは、これらの罪は否認しているものの、彼の味方はおらず、ブリギットも気絶しているため、圧倒的不利な立場に立たされていた。


「それにしても、やった・・・な、おまえ」


 独房の前に置かれている事務机に座っていた男が、ガレイトに声をかける。


「看守さん……」

「なんであんなことをした? 捕まらないとでも思ったのか?」

「誤解なんです」

「誤解なわけあるか。現に、近隣の方・・・・からの通報がなかったら、おまえ、あのままブリギットさんを犯──」

「恩人のお孫さんにそんなことするはずがないでしょう!」

「だが、実際おまえは天井を壊したり、扉も破壊したりしただろう?」


 ガレイトはそれ以上何も反論しなくなると、「ぐぬぬぬぬ……!」と呻きながら、ますます便器の上で縮こまっていった。


「──ガレイト! ガレイト・ヴィントナーズ! 面会だ!」


 今度はべつの看守が、ガレイトに声をかけた。


「俺に面会……ですか?」


 ガレイトは少し顔を上げ、意外そうな表情で看守を見た。


「ああ、そうだ。だが、貴様は凶悪犯のため、ここからは出すわけにはいかんからな。面会はここで行わせてもらう。今、面会人を呼ぶから、そこで待っていろ」


 看守はそれだけ言うと、また奥へと引っ込んでいった。


「……それじゃあな」


 ガレイト話していた看守はそれだけを言うと、その場から立ち去った。
 ガレイトはそれを見送ると、便器の上で姿勢を正し、面会人を待った。
 やがて──
 コツン、コツン。
 乾いた靴音とともに現れたのはさきほどの看守と、モニカだった。
 モニカはガレイトの姿を見るなり──


「え? あっ、ちょ、ご、ごめんなさい……っ!」


 顔を真っ赤にしながら反対を向いた。


「用を足してる最中なんて……!」


 ガレイトは改めて自身の状況を観察すると、バッと立ち上がった。


「し、失礼しました! ここが一番、尻のおさまりがよかったので……て、そういうことじゃなくて、足してません! 用! なので、大丈夫ですから!」

「え? ああ、そう? ごめん」


 モニカはガレイトにそう言われると、恥ずかしそうに看守を睨みつけた。
 看守は居心地悪そうにガレイトを睨みつけると、ガレイトはしょんぼりと俯く。


「あー……こほん」


 モニカが場の空気を変えるように、咳払いをする。


「ガレイトさん……だよね。昨日の夜、うちでたくさんシチューを食べてた」


 モニカに名前を呼ばれ、改めて背筋を正すガレイト。


「は、はい……そうです……」

「だよね。……なら、あたしがここに来た理由だけど、もうある程度は予想ついてるんじゃないの?」

「はい……先刻の件、ですよね」

「うん。あたしが訊きたいのは、たったひとつです。本当にガレイトさんはやった・・・の?」

「……え?」


 意外そうな顔で訊き返すガレイト。


「まあ、知ってると思うけど、通報したのはあたしじゃないんだよね」

「は、はい……」

「近所の人が、ガレイトさんが店のドアを蹴破ったところを見てたみたいでね」

「はい……」

「そっからなんやかんやでバタバタして……いまは、こんな感じになってるんだけどさ、正直に言うと、あたし、ガレイトさんが強姦・・したって、信じられないっていうか」

「強姦未遂です、モニカさん」


 看守が口を挟む。


「あ、ごめん。ちょっと黙ってて」

「はい……」

「……昨日、ちょろっと話しただけの仲なんだけど……それでも、いまいち信じられなくってね……」


 モニカはもごもごと口ごもると、改めてガレイトと向かい合った。


「だから、単刀直入に訊きます。正直に答えて」

「はい」

「……ガレイトさんは本当にやったの?」


 責めるでも、軽蔑するでもなく、モニカはただまっすぐにガレイトの目を見て尋ねた。


「はい……俺が、やりました」

「そう……」

「ですが、強姦未遂については否です。たしかに扉や天井は壊しましたけど、俺はブリギットさんに会おうとしただけで……それも、店の外で待っていたら、中から突然ブリギットさんの叫び声が聞こえてきて……」

「叫び声?」

「はい。どうやら部屋にゴ──」

「待って!」

「はい?」

「言わないで。だいたいわかったから」

「そ、そうですか」


 モニカの剣幕にガレイトがたじろぐ。
 しかし、ガレイトはすぐにすこし話をつづけた。


「それで、その叫び声を聞いた俺は、ブリギットさんが強盗に襲われているんじゃないかと思いまして」

「強盗……?」

「はい。『ぴぎゃあ』と尋常じゃない叫び声でしたので」

「……うん、たしかにブリの叫び声だわ」

「それで、急いで扉を蹴り破って、天井を突き破ったら──」

「あたしに見られた、と」

「はい。これが、事の一部始終です」

「そう……」


 モニカは足元に視線を落とすと、ぽりぽりと頭を掻き、改めてガレイトの顔を見た。


「ひとつ……やっぱ、ふたつくらい言いたいことがあるんだけど、いい?」

「ど、どうぞ」

「……扉を蹴り破るのは、いいよ。いやまあ、本当は全然よくはないけど、鍵がかかってたんだろうし、急を要してたんだから、そこはいいさ。今は目をつむるさ」

「はい……」

「でも、天井突き破るのは意味わからなくない?」

「え?」

「なんで突き破ったの? 天井?」

「急を要していたから──」

「いやいや、だって、天井だよ?」

「天井ですね」

「あたし、生まれてからもう二十何年経ってるけど、はじめて聞いたもん。『天井を突き破った』って。ていうかそもそも、天井を突き破るって。なに?」

「え? いえ、こう……頭でズガンと」

「頭でズガン!? 大丈夫? 頭?」

「ああ、はい。簡単な計算くらいなら……」

「いや、物理的な意味で訊いてんだけど。痛くないのか、怪我はないのかって。だれがそんなひどいこときくのさ」

「すみません……」

「てか……天井って、頭で突き破れるものなの?」

「は、はい……頭で天井を突き破らせていただきました……」

「いやいや、〝頭で天井を突き破らせていただきました〟って、すごいなぁ……」

「え?」

「あたしたちが普段話してる言葉のパワーが〝一〟だとしたら、その言葉〝千〟くらいパワーはあるよ。なんだよ〝頭で天井を突き破らせていただきました〟って」

「千倍ですか?」

「あ、すごい。ほんとうに計算できるんだね。──って、そういうことを話してるんじゃないよ! ……だめだめ、変なツッコミさせないで?」

「すみません」

「あー……頭こんがらがってきた……」

「頭、大丈夫ですか?」

「いや、もういいよ、頭の話は。……いや、全然よくないよ。けど、この際、話が進まないから、ここら辺に置いとくよ」


 ひょい、とモニカは何かを下ろすようなジェスチャーをする。


「それでふたつ目だけど、そもそもなんでブリに会おうとしたの? ていうか、なんでブリを知ってるの?」

「それは……ブリギットさんの祖父であるダグザさんから聞いていて……」

「……ダグザ? ダグザって、オステリカ・オスタリカ・フランチェスカのオーナーの?」

「はい」

「オーナーと会ったの!? というか、ガレイトさん、オーナーと知り合いなの?!」

「は、はい。ですが、どこで店をやっていたか、まではお聞きしていなくて……」

「ちょ、ちょっと待って。……あー、やばい。いろいろと頭がこんがらがってる」

「頭大丈──」

「しつこい。……とりあえず整理させて」

「はい」

「えっと、まずは最初から──ガレイトさんはオーナーと知り合いです。ですが、何も知らずにオーナーの店であるうちで食事しました」

「はい」

「けど、料理を食べて、うちの店が、オーナーの店だとわかりました」

「はい」

「それで……なんで? なんで、うちの店がオーナーの店だってわかったの?」

「味です」

「味……て、そんなに特徴的だった?」

「はい、昨日いただいたシチューですが、ダグザさんに一度作っていただいたことがあって……」

「そうなの?」

「はい。食材こそ違いましたが、味付けはとても似ていました」

「そうなんだ……ついに、ブリがオーナーと同じ味を……」

「あと、何よりお店の名前〝オステリカ・オスタリカ・フランチェスカ・・・・・・・〟だったので、それが決め手になりました」

「なるほどね。たしかに、オーナーの名前はダグザ・フランチェスカ。そういう意味だと、やっぱり知り合いなんでしょう……」


 モニカはそこまで言うと、顎に手をあて、俯いた。


「つまり……うーん、だめだ。いまいち理解が追い付かない。オーナーと知り合いだったから、その孫のブリに乱暴しようとしたってこと?」

「ええ!? 乱暴って……そんな! 恩人のお孫さんであるブリギットさんに乱暴なんてするわけないじゃないですか!」

「ああ、そうだよね。でも、動機が分からなくてさ、ていうか恩人? オーナーって、ガレイトさんの恩人なの?」

「は、はい。話すとすこし長くなるのですが──」


 とりあえずガレイトは、簡潔に、自身が騎士出身であることを伏せながら──
 ダグザに助けられたこと。
 ダグザの料理を食べて感動したこと。
 そして現在、料理人を目指していることをモニカに話した。


「──なるほどね。そんなことが……」


 ガレイトから話を聞いたモニカは、すこしだけ頬をほころばせて笑った。


「オーナーってば、帰ってこないと思ったらそんな、西のほうまでほっつき歩いてたんだね……」

「ほっつき歩く?」

「うん。オーナーってば……、何年前だっけかな? たしか五年くらい前に『ちょっと散歩行ってくる』って言って、出て行ったきり、まだ帰ってきてないんだよね」

「え? そうなんですか!?」

「うん。ちょくちょく旅先の珍しい食材とか送ってきてくれたりするけど、たいてい輸送や検閲に時間かかってて腐ってるから、『もういらない』って、手紙で送りたいんだけど、そもそも住所知らないしで、八方ふさがりだったんだよね……」

「そ、そうだったんですか……」

「でもまあ、相変わらず元気そうで安心したよ」

「はい。すごく元気でしたよ」

「まあ、あの人がすぐ逝くなんて考えられないし……て、こういう話をしたかったんじゃなくて……」


 こほん。
 モニカが咳払いをする。


「ま、ともかく事情は分かったよ。それ以外の事はなんにもわかんないけど」

「きょ、恐縮です」

「それに、あのオーナーが助けた人を、ここで見捨てるってのもね……ちょっと考えさせてね」


 モニカはそう言って腕組みをすると、ひとりでブツブツとつぶやき始めた。


「……よし、じゃあ看守さん、この人釈放しちゃって」

「……は?」

「いや、『は?』じゃなくって、牢屋開けてってば」

「い、いやいや、そんな、無茶ですよ! 無茶無茶!」


 看守はブンブンと首を振りながら答える。
 モニカはため息をつき、腰に手を当てると、首を静かに横に振った。


「……あのねぇ、無茶も何も、あんたたちが閉じ込めてるのは、ただの無害な観光客かもしれないんだよ?」

「で、ですが……それでも、ボスになんて言えばいいか……」

「責任問題なのもわかるけど、そんなんじゃ出世できないよ、あんた?」

「いやいや、俺ひとりの独断で決められることじゃないですよ! 無茶言わないでくださいってば!」

「あ、の、ねぇ。……わかってないようだから言っとくけど、あんたが後で怒られるのと、あんたが後で、この件でいろんな方面から圧力かけられて、組織そのものが危うくなるのと、どっちがマシなのかって聞いてるんだよ」

「へ?」

「これ、最悪、国際問題にも発展しかねないんだからね?」

「そ、それは……」

「あーあ、知らないよ? あとであんたのボスに怒られても? もっと自分の頭で考えて行動できないのか、て」

「ぐぬぬ……」

「ほら、わかったらさっさと開ける! もたもたしない!」

「は、はい!」


 モニカがそう言うと、看守はパタパタと慌てながら牢屋の扉を開けた。
 ガレイトは確認するようにモニカを見ると、彼女は悪戯ぽくウィンクをしてみせる。


「あ、開けました!」

「ふふ、ごくろうである!」


 モニカが楽しそうに言う。


「くっ……出ていいぞ、観光客!」

「は、はい……」


 ガレイトは身を屈めながら、おずおずと牢屋から出てきた。
 ぽんぽん。
 モニカは、そんなガレイトの背中を二度叩く。


「……うん、ともかく、まだブリが起きてないから何とも言えないけど、暫定的に不起訴処分ってことで」

「本当に、よろしいのですか?」

「いいのいいの。……ただ、あくまでも〝暫定的に〟ね。もちろんガレイトさんが蹴り破った扉や、突き破った天井の弁償はしてもらうよ?」

「は、はい! それはもう! 是非、弁償させてください!」

「いや、『ぜひ、弁償させてください!』もちょっと違うんじゃない?」

「え?」

「……とにかく、それもこれも全部ブリの事を思って行動してくれたってことでしょう?」

「は、はい……」

「なら、逆に感謝しないとね。……でも、もしブリが起きて、『ガレイトさんに乱暴されかけました』なんて言った日には、即死刑にしてもらうから、覚悟しといてね」

「もちろんです!」

「いや、『もちろんです!』も……まあ、いいや。とにかく、わかってるとは思うけど、ブリが起きるまでこの街から出ないでね」


 モニカはそれだけ言うと踵を返し、牢屋を後にした。
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