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6.バイト先の先輩①(怖さレベル:★★☆)
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(怖さレベル:★★☆:ふつうに怖い話)
『20代男性 滝谷さん(仮名)』
ええと、そうですね……。
僕があの体験をしたのは、
大学三年生の秋ごろだったかと思います。
アルバイト先に、
同年代の柿田という男がいました。
彼は大学生ではなく、アルバイトを掛け持ちしている、
いわゆるフリーターで、
当時、単身この地に来たばかりの僕に、
いろいろな遊びや、穴場などを教えてくれました。
そして、柿田はとても、なんといいますか、
顔が良い上に、とても気が利くヤツであったので、
彼女を切らすことがないいわゆるプレイボーイという男でした。
その日も、アルバイトが終わり、
二人でファミレスに入ってだべっていると、
柿田の携帯に着信が入ったのです。
「あ、わりぃ。彼女からだわ」
一言断った柿田が、サッと電話に出ました。
「あーヨウコか? 今、ファミレスだよ。
ん、滝谷と一緒で……え? なにいってんだ、お前」
朗らかに応対していた彼が、怪訝そうな表情に変わります。
「嘘じゃねぇって。
ああ、なんなら代ろうか? おー、ちょっと待って」
首を傾げた柿田が、
携帯をこちらに放り投げました。
「なんか、若い女の声がするってんだよ。
浮気じゃないかって疑ってっから代わってくれ」
「ええ、女の声ですか?」
周囲を見回しても、近くの席は家族連ればかりで、
若い、といえるほどの女性はおりません。
とはいえ、彼が疑われたままというのもかわいそうなので、
放られた携帯を耳に当てます。
「あ、ヨウコさんですか? 僕です、滝谷です」
『あ、滝谷くん……ほんとだ、嘘じゃなかったんだ』
「今、ファミレスにいるんですよ。
人が多いから、声が入っちゃったんですかね?」
訝し気な声のヨウコさんをなだめるように説明するも、
『そういう声じゃないんだけど……あ、ほら、もー。
滝谷君まで嘘ついてるの?』
「え、ヨウコさん?」
『隣にいるんでしょ、女の子。
……だって、さっきからずっと笑ってるじゃない』
「……え?」
笑っている? 女の子が?
サッと素早くあたりを見回すも、
周囲の様子は変わりません。
僕の様子を見て、
柿田もますます首を傾げています。
「ヨウコさん、じ、冗談ですよね?」
『はー? 滝谷君までしらばっくれるわけ?
ああ、もういい!!』
「あ、ちょっ」
ブツン! と通話が切れてしまいました。
「おいおい、ヨウコ、なんつってた?」
「えっと、なんか……女の人の声がするって」
「いねぇよなぁ、若い女なんて。携帯壊れたかな?」
ぶつぶつと文句を言いながら携帯をしまう彼に、
そんなこともあるか、とその日はそれで終わりました。
次の日のことです。
いつも通りバイトに出ると、
同じシフトに出てきた柿田が、
仕事中、しきりに携帯を気にしています。
「どうしたんです?」
バイト終わりに気になって尋ねると、
「いや……なんかなー。ほら、昨日彼女が変なこと言ってただろ?」
「ああ、女の声が聞こえるだとかなんとか」
「そうそう。で、今朝、別の友だちから連絡入ったんだけどさ、
そん時にも言われたんだよ。さすがに不気味だろ?
修理出しに行こうかなーって思ってんだけどさ」
言いつつ、
柿田の表情はあまり気乗りしていません。
確かに携帯を修理に出すと、
内容によってはけっこうな出費になりますし、
フリーターの彼にとってはかなり手痛いものだったようです。
「あ、じゃあ、僕もちょっとかけてみましょうか」
「え? ここでか?」
バイトしている食品店から出たばかりの道端です。
時期的に寒くはないとはいえ、
確かにどこかに移動してからの方がいいかとも思いましたが、
「修理出すにしても、
症状が詳しく分かったほうがいいじゃないですか」
女の声がする、
なんてオカルト染みた内容です。
どうせ、混線しやすくなっているとか、
周囲の音を拾いやすくなっているとか、
そんなモノだろうと、自分の端末から柿田の番号をプッシュしました。
「お、きたきた。出るぞー」
ポップな着信が鳴ったと同時に、
彼が通話モードに入ります。
「もしもーし、聞こえますか?」
真正面にいる相手にかけるという状況のおかしさに、
半笑いしつつ問えば、
向かいの柿田も苦笑いしつつ、
『はいはい、聞こえてるぞー……アハッ』
「……え」
最後、明らかに柿田の声でないものが入りました。
「か、柿田さん、やっぱ声、入ってます」
『え? どんな声よ? ……フフ、アハハッ』
若い女性の、
朗らかな笑い声。
まるでおかしくてたまらないとでもいいたげな、それ。
「あ、な、なんかけっこう若い人の声っぽいです……」
『あーマジか。やっぱ修理ださねぇとかなぁ……フフッ、しね』
「え、なんて……?」
予想だにせぬ単語を耳が拾い、
思わず問い返せば、
『ん? とりあえず切るぞー……死ね』
「え……」
プチ、と柿田が通話を終わらせる直前。
明確に悪意を含んだ声が、
再び恐ろしい単語をつぶやきました。
「どーした? 妙な顔して」
携帯につけたキーホルダーをプラプラと揺らしながら、
柿田がこちらを見て首を傾げます。
「え……っと、その……なんか、
言葉が聞こえたような気がして」
「言葉? なんか言ってたのか」
「あ、よ……よく、聞こえなかったんですけど」
アレをそのまま伝える気にはならず、
ついごまかしてしまいました。
「柿田さん……携帯、修理じゃなくって、
思い切って変えちゃったほうがいいんじゃないですか」
「え、そんなヤバイ感じ?
まいったなぁ……今月出費多いんだよなぁ」
ブツブツとぼやく彼は、
セリフの割にさほどヤバイとは思っていないようでした。
僕はといえば、それ以上強制することもできず、
かといってあの『死ね』という声のことを伝えることもはばかられ、
耳の奥に残る笑い声を忘れようと、
その日はバカみたいにお酒を飲んで寝てしまいました。
>>
『20代男性 滝谷さん(仮名)』
ええと、そうですね……。
僕があの体験をしたのは、
大学三年生の秋ごろだったかと思います。
アルバイト先に、
同年代の柿田という男がいました。
彼は大学生ではなく、アルバイトを掛け持ちしている、
いわゆるフリーターで、
当時、単身この地に来たばかりの僕に、
いろいろな遊びや、穴場などを教えてくれました。
そして、柿田はとても、なんといいますか、
顔が良い上に、とても気が利くヤツであったので、
彼女を切らすことがないいわゆるプレイボーイという男でした。
その日も、アルバイトが終わり、
二人でファミレスに入ってだべっていると、
柿田の携帯に着信が入ったのです。
「あ、わりぃ。彼女からだわ」
一言断った柿田が、サッと電話に出ました。
「あーヨウコか? 今、ファミレスだよ。
ん、滝谷と一緒で……え? なにいってんだ、お前」
朗らかに応対していた彼が、怪訝そうな表情に変わります。
「嘘じゃねぇって。
ああ、なんなら代ろうか? おー、ちょっと待って」
首を傾げた柿田が、
携帯をこちらに放り投げました。
「なんか、若い女の声がするってんだよ。
浮気じゃないかって疑ってっから代わってくれ」
「ええ、女の声ですか?」
周囲を見回しても、近くの席は家族連ればかりで、
若い、といえるほどの女性はおりません。
とはいえ、彼が疑われたままというのもかわいそうなので、
放られた携帯を耳に当てます。
「あ、ヨウコさんですか? 僕です、滝谷です」
『あ、滝谷くん……ほんとだ、嘘じゃなかったんだ』
「今、ファミレスにいるんですよ。
人が多いから、声が入っちゃったんですかね?」
訝し気な声のヨウコさんをなだめるように説明するも、
『そういう声じゃないんだけど……あ、ほら、もー。
滝谷君まで嘘ついてるの?』
「え、ヨウコさん?」
『隣にいるんでしょ、女の子。
……だって、さっきからずっと笑ってるじゃない』
「……え?」
笑っている? 女の子が?
サッと素早くあたりを見回すも、
周囲の様子は変わりません。
僕の様子を見て、
柿田もますます首を傾げています。
「ヨウコさん、じ、冗談ですよね?」
『はー? 滝谷君までしらばっくれるわけ?
ああ、もういい!!』
「あ、ちょっ」
ブツン! と通話が切れてしまいました。
「おいおい、ヨウコ、なんつってた?」
「えっと、なんか……女の人の声がするって」
「いねぇよなぁ、若い女なんて。携帯壊れたかな?」
ぶつぶつと文句を言いながら携帯をしまう彼に、
そんなこともあるか、とその日はそれで終わりました。
次の日のことです。
いつも通りバイトに出ると、
同じシフトに出てきた柿田が、
仕事中、しきりに携帯を気にしています。
「どうしたんです?」
バイト終わりに気になって尋ねると、
「いや……なんかなー。ほら、昨日彼女が変なこと言ってただろ?」
「ああ、女の声が聞こえるだとかなんとか」
「そうそう。で、今朝、別の友だちから連絡入ったんだけどさ、
そん時にも言われたんだよ。さすがに不気味だろ?
修理出しに行こうかなーって思ってんだけどさ」
言いつつ、
柿田の表情はあまり気乗りしていません。
確かに携帯を修理に出すと、
内容によってはけっこうな出費になりますし、
フリーターの彼にとってはかなり手痛いものだったようです。
「あ、じゃあ、僕もちょっとかけてみましょうか」
「え? ここでか?」
バイトしている食品店から出たばかりの道端です。
時期的に寒くはないとはいえ、
確かにどこかに移動してからの方がいいかとも思いましたが、
「修理出すにしても、
症状が詳しく分かったほうがいいじゃないですか」
女の声がする、
なんてオカルト染みた内容です。
どうせ、混線しやすくなっているとか、
周囲の音を拾いやすくなっているとか、
そんなモノだろうと、自分の端末から柿田の番号をプッシュしました。
「お、きたきた。出るぞー」
ポップな着信が鳴ったと同時に、
彼が通話モードに入ります。
「もしもーし、聞こえますか?」
真正面にいる相手にかけるという状況のおかしさに、
半笑いしつつ問えば、
向かいの柿田も苦笑いしつつ、
『はいはい、聞こえてるぞー……アハッ』
「……え」
最後、明らかに柿田の声でないものが入りました。
「か、柿田さん、やっぱ声、入ってます」
『え? どんな声よ? ……フフ、アハハッ』
若い女性の、
朗らかな笑い声。
まるでおかしくてたまらないとでもいいたげな、それ。
「あ、な、なんかけっこう若い人の声っぽいです……」
『あーマジか。やっぱ修理ださねぇとかなぁ……フフッ、しね』
「え、なんて……?」
予想だにせぬ単語を耳が拾い、
思わず問い返せば、
『ん? とりあえず切るぞー……死ね』
「え……」
プチ、と柿田が通話を終わらせる直前。
明確に悪意を含んだ声が、
再び恐ろしい単語をつぶやきました。
「どーした? 妙な顔して」
携帯につけたキーホルダーをプラプラと揺らしながら、
柿田がこちらを見て首を傾げます。
「え……っと、その……なんか、
言葉が聞こえたような気がして」
「言葉? なんか言ってたのか」
「あ、よ……よく、聞こえなかったんですけど」
アレをそのまま伝える気にはならず、
ついごまかしてしまいました。
「柿田さん……携帯、修理じゃなくって、
思い切って変えちゃったほうがいいんじゃないですか」
「え、そんなヤバイ感じ?
まいったなぁ……今月出費多いんだよなぁ」
ブツブツとぼやく彼は、
セリフの割にさほどヤバイとは思っていないようでした。
僕はといえば、それ以上強制することもできず、
かといってあの『死ね』という声のことを伝えることもはばかられ、
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その日はバカみたいにお酒を飲んで寝てしまいました。
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