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16.呼応するオカリナ②(怖さレベル:★★★)
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森君と小泉君も気づいたらしく、
三人そろって音の方へ視線を向けると、
「……んだ、アレ」
森君が、
ポカンと口を開けました。
浜辺から、
およそ五十メートルは先でしょうか。
その海上に、
何やら濃い青黒い影が見えたのです。
「んん……? 人……?」
小泉君も、
マジマジとそれを見つめています。
さんさんと照る太陽の真下にあるというのに、
その影はどこかぼんやりと揺らいでいて、
かろうじて人型だとわかる程度でした。
それは、腰から下を海中に浸し、
顔もわからないというのに、
ジッとこちらを見ているように感じられました。
「な……なんか、ヤベェんじゃねぇ……?」
森君が震えた声で言う通り、
あんな海の中、
直立不動で泳げる人間などいるはずもありません。
であれば、
それは一体なんなのか。
ホゥー、ホゥー、ホゥー
聞こえてくる、
オカリナのような音。
「……くち……?」
青黒い、その頭部。
その顔が存在するべきその中央が唐突にボロリと崩れ、
まるで大口を開いたかのように、
向こうの景色が透けたのです。
ホゥー、ホゥー、ホゥー
潮騒がその穴を通って、
あのオカリナに似た音が鳴っているようでした。
大きなその空洞。
空を舞うカモメが、
スイーッとその黒いトンネルを潜ろうとして、
「あっ」
ホゥー、ホゥー……バグン!
瞬間、
まるでエサを見つけたクリオネのような俊敏さで、
またたく間にカモメの身体がひしゃげたのです。
バキ、ボキッ
グシャ、グシャとつぶれていく無残なカモメが、
その空洞の中にズルンと吸い込まれました。
「バッ……バケモンだぁ!!」
森君のその叫び声に、
私たちはハッと正気に戻りました。
「にっ、逃げるよ、みきちゃん!」
「う……うんっ!」
まっ先に駆けだした森君に続いて、
私たち二人も慌ててその後を追いかけました。
私たちは家の立ち並ぶ住宅街まで
飛ぶように戻りました。
後ろを振り返っても、あの奇妙なバケモノはおらず、
私たちは互いにロクに言葉も交わせぬまま、
それぞれの家に逃げ帰ったのです。
「ああ、早いね。……あれ、オカリナ?」
「う、うん……」
炊事場で作業をしている祖母に
さきほどのできごとを話すのも憚られ、
私はその日一日うわの空のまま、
床につきました。
夜、広い祖父母のうちでは一人部屋が与えられていて、
ふだんであれば嬉しいそれも、
今日の今日ではどこかソワソワとしてしまいます。
寝苦しい夜、少し窓を開けて風を取り入れながら、
どうにか布団にこもって眠ろうと努力するものの、
意識が消えそうになるたびに、
フッとあの海で見た異形の姿がまぶたの裏に映るのです。
そのうえ、あのホゥー、ホゥーという音が、
まるで幻聴のように耳の奥でこだまするのです。
(あぁいやだ。早く忘れなきゃ)
人の形を成す、黒いもや。
海上で、
不気味にゆらぐその身体。
ホゥー、ホゥー
記憶と共に想起されるそれが、
絶え間ないほど、脳内に響きわたります。
ホゥー、ホゥー、ホゥー
その、幻聴。
「……え?」
それは、
すぐ近くから聞こえてきました。
さきほどまでの、
記憶の中のおぼろげな音などではない、
明瞭で確かな、あのオカリナに似た音色。
「う、そ……」
布団から上半身を起こし、
私はあわてて勉強机の上に放置してあったオカリナに視線を向けました。
――黒い、なにか。
「ひ、ぃい……っ?!」
その、オカリナ。
その吹き口から、黒いなにか――
ブワッ、と実態を伴った腕のようなものが見えたのです。
ホゥー、ホゥー、ホゥー
その音色は、
間違いなくあのオカリナから聞こえています。
恐怖に動けない私をしり目に、
そのもやもやとおぼろげな腕は、
ず、ずず、と外に少しずつ這い出始めました。
「あ……ああ……」
ぞわぞわと脈動するかのように、
腕、肘が、とても収まるはずのない小さなオカリナから、
ゆっくり、ゆっくりと這い出します。
ず、ずず……。
ホゥー、ホゥー、ホゥー
「……っ、い、いや……っ」
ズルリと伸びた黒い腕は、
今や肩口までオカリナから姿を現しています。
このままでは、頭が出る。
あの、海上で見たバケモノが、
完全に出てきてしまう――!
ホゥー、ホゥー、ホゥー
それはまるで、邪悪な笑い声のように室内に充満し、
私はその禍々しい協奏に、
今にも気が狂いだしそうになった、その時。
>>
三人そろって音の方へ視線を向けると、
「……んだ、アレ」
森君が、
ポカンと口を開けました。
浜辺から、
およそ五十メートルは先でしょうか。
その海上に、
何やら濃い青黒い影が見えたのです。
「んん……? 人……?」
小泉君も、
マジマジとそれを見つめています。
さんさんと照る太陽の真下にあるというのに、
その影はどこかぼんやりと揺らいでいて、
かろうじて人型だとわかる程度でした。
それは、腰から下を海中に浸し、
顔もわからないというのに、
ジッとこちらを見ているように感じられました。
「な……なんか、ヤベェんじゃねぇ……?」
森君が震えた声で言う通り、
あんな海の中、
直立不動で泳げる人間などいるはずもありません。
であれば、
それは一体なんなのか。
ホゥー、ホゥー、ホゥー
聞こえてくる、
オカリナのような音。
「……くち……?」
青黒い、その頭部。
その顔が存在するべきその中央が唐突にボロリと崩れ、
まるで大口を開いたかのように、
向こうの景色が透けたのです。
ホゥー、ホゥー、ホゥー
潮騒がその穴を通って、
あのオカリナに似た音が鳴っているようでした。
大きなその空洞。
空を舞うカモメが、
スイーッとその黒いトンネルを潜ろうとして、
「あっ」
ホゥー、ホゥー……バグン!
瞬間、
まるでエサを見つけたクリオネのような俊敏さで、
またたく間にカモメの身体がひしゃげたのです。
バキ、ボキッ
グシャ、グシャとつぶれていく無残なカモメが、
その空洞の中にズルンと吸い込まれました。
「バッ……バケモンだぁ!!」
森君のその叫び声に、
私たちはハッと正気に戻りました。
「にっ、逃げるよ、みきちゃん!」
「う……うんっ!」
まっ先に駆けだした森君に続いて、
私たち二人も慌ててその後を追いかけました。
私たちは家の立ち並ぶ住宅街まで
飛ぶように戻りました。
後ろを振り返っても、あの奇妙なバケモノはおらず、
私たちは互いにロクに言葉も交わせぬまま、
それぞれの家に逃げ帰ったのです。
「ああ、早いね。……あれ、オカリナ?」
「う、うん……」
炊事場で作業をしている祖母に
さきほどのできごとを話すのも憚られ、
私はその日一日うわの空のまま、
床につきました。
夜、広い祖父母のうちでは一人部屋が与えられていて、
ふだんであれば嬉しいそれも、
今日の今日ではどこかソワソワとしてしまいます。
寝苦しい夜、少し窓を開けて風を取り入れながら、
どうにか布団にこもって眠ろうと努力するものの、
意識が消えそうになるたびに、
フッとあの海で見た異形の姿がまぶたの裏に映るのです。
そのうえ、あのホゥー、ホゥーという音が、
まるで幻聴のように耳の奥でこだまするのです。
(あぁいやだ。早く忘れなきゃ)
人の形を成す、黒いもや。
海上で、
不気味にゆらぐその身体。
ホゥー、ホゥー
記憶と共に想起されるそれが、
絶え間ないほど、脳内に響きわたります。
ホゥー、ホゥー、ホゥー
その、幻聴。
「……え?」
それは、
すぐ近くから聞こえてきました。
さきほどまでの、
記憶の中のおぼろげな音などではない、
明瞭で確かな、あのオカリナに似た音色。
「う、そ……」
布団から上半身を起こし、
私はあわてて勉強机の上に放置してあったオカリナに視線を向けました。
――黒い、なにか。
「ひ、ぃい……っ?!」
その、オカリナ。
その吹き口から、黒いなにか――
ブワッ、と実態を伴った腕のようなものが見えたのです。
ホゥー、ホゥー、ホゥー
その音色は、
間違いなくあのオカリナから聞こえています。
恐怖に動けない私をしり目に、
そのもやもやとおぼろげな腕は、
ず、ずず、と外に少しずつ這い出始めました。
「あ……ああ……」
ぞわぞわと脈動するかのように、
腕、肘が、とても収まるはずのない小さなオカリナから、
ゆっくり、ゆっくりと這い出します。
ず、ずず……。
ホゥー、ホゥー、ホゥー
「……っ、い、いや……っ」
ズルリと伸びた黒い腕は、
今や肩口までオカリナから姿を現しています。
このままでは、頭が出る。
あの、海上で見たバケモノが、
完全に出てきてしまう――!
ホゥー、ホゥー、ホゥー
それはまるで、邪悪な笑い声のように室内に充満し、
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今にも気が狂いだしそうになった、その時。
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