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17.縦じまTシャツの男①(怖さレベル:★★☆)
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(怖さレベル:★★☆:ふつうに怖い話)
『50代男性 戸塚さん(仮名)』
これは……今まさに、
勤めている会社で起こったこと、なんですがね。
……ああ、話していいのかって?
いいんですよ、
誰も信じやしない。
それに、もし会社の人が見たって、
別に秘密にしてるもんでもないし。
さあ……それで、本題です。
うちは、業務用の設備とかをやっているトコでして、
電気工事士の資格を持っていた私は、
中途採用でそこに入社したんです。
さほど規模の大きくない、
いわゆる中小企業。
給与はあまりよくありませんが、
キツいノルマや煩わしい上下関係もほとんどなく、
良いところが見つかった、と
就職三か月の時点で、ホッと一安心していました。
そんな、ある日の午後でした。
「そういえば……戸塚さん、知ってる?」
客先から戻ってきて、
お茶を飲んで休憩していた時。
事務作業をしているパートの女性が、
お茶菓子を配りつつ、話しかけてきたのです。
「ここねぇ、幽霊が出るんだよ」
「ゆ……ユーレイ、ですか?」
突拍子もないその話に、
私が思わず半笑いになったのがわかったのでしょう。
事務の女性はさらに言葉を重ねてきます。
「ウソだと思ってるでしょ。他の担当さんにも聞いてみてよ。
みんな知ってるんだから」
「あはは、すいません……どうにも疑り深くって。
ええと、どんな幽霊なんです?」
半信半疑、どころかほぼほぼ信じていませんでしたが、
彼女の調子に合わせて頷きました。
「えっと……ほら、給湯室、あるじゃない」
彼女の言う給湯室は、
この四階建てのビルの頂上階にあるうちの会社の、
仕切り扉を出て、避難階段のすぐそばの場所にありました。
「ああ、さっきお茶いれてきましたよ」
「うんうん。それで……そこにね、縦じまTシャツの男が出るの!」
「……縦じま、Tシャツ」
給湯室に出る、
縦じまTシャツの幽霊(男)。
「えっと……ぜんぜん怖くないですよね?」
「あーっ、戸塚さん、そういうコト言う……!
たしかに、言葉にしたらちょっとマヌケだけど、実際見たら怖いんだからね!」
ちょっと笑いながら言う彼女に、
私は浮かんだ疑問をそのままぶつけました。
「もしかして……見たんですか?」
「わ、私はないけど。……同じ事務の後輩の子とか、
戸塚さんの隣の席の宮下さんも見てるって」
「……宮下さんが?」
私よりも五つ年上の宮下さんは、
この会社の創業当初からいるという古株の方です。
カチッと七三分けして銀フレームのメガネをかけた彼は、
とても幽霊だの霊現象だのと騒ぐような人とは思えませんでした。
「宮下さんが、やっぱり一番見てるんじゃない?
なにせ長いし……あっ! ウワサをすれば」
パタン、と仕切り扉が開いて、
ネクタイを緩めながら彼が入ってきました。
「おかえりなさい、宮下さん。ちょうどウワサしてたんですよ!」
「ウワサ? なんの話をしてたんだい」
「アレですよ。給湯室の幽霊! 戸塚さん、聞いてないっていうから」
「……ああ、なるほど」
彼は小さく頷いて、
チラリとこちらに視線を向けました。
「戸塚くん……お化けとか見たことあるかい?」
「い、いえ……ありません」
「そっか。じゃ、あんまり気にすることないと思うよ。
別になにか害があるわけじゃないしね……あっちのは」
「えっ?」
「ああいや、なんでも」
含みのある台詞に首を傾げるも、
宮下はごまかすように笑って、
「あ、冷たいお茶お願いしていいかな。汗かいちゃったよ」
「はーい。お持ちしまーす」
間延びした声を残して、
彼女はゆうゆうと給湯室へ向かっていきました。
あんなことを言いつつ、
まるで怖がらずにお茶出しできるんだから大丈夫じゃないか、
と少々呆れつつ自分の机に戻ると、
「……あ、戸塚くん」
「ハイ?」
隣席についた宮下が、
思い出したかのように声をかけてきました。
「君、三か月だっけ? これから残業とか、遅番とかもあると思うけど……
夜七時を過ぎたら、この四階のトイレ、入らないほうがいいよ」
「えっ……どうしてですか」
「ハハ……七時過ぎるとね、設備の関係か、照明の調子が悪くなるんだ。
真っ暗なトイレを使いたくはないだろう?
もし催したら、下の階で借りればいいよ。その辺は会社違っても平気だから」
「は、ハァ……」
そんなこともあるか、とあいまいに頷いて、
その時の話は終わりました。
>>
『50代男性 戸塚さん(仮名)』
これは……今まさに、
勤めている会社で起こったこと、なんですがね。
……ああ、話していいのかって?
いいんですよ、
誰も信じやしない。
それに、もし会社の人が見たって、
別に秘密にしてるもんでもないし。
さあ……それで、本題です。
うちは、業務用の設備とかをやっているトコでして、
電気工事士の資格を持っていた私は、
中途採用でそこに入社したんです。
さほど規模の大きくない、
いわゆる中小企業。
給与はあまりよくありませんが、
キツいノルマや煩わしい上下関係もほとんどなく、
良いところが見つかった、と
就職三か月の時点で、ホッと一安心していました。
そんな、ある日の午後でした。
「そういえば……戸塚さん、知ってる?」
客先から戻ってきて、
お茶を飲んで休憩していた時。
事務作業をしているパートの女性が、
お茶菓子を配りつつ、話しかけてきたのです。
「ここねぇ、幽霊が出るんだよ」
「ゆ……ユーレイ、ですか?」
突拍子もないその話に、
私が思わず半笑いになったのがわかったのでしょう。
事務の女性はさらに言葉を重ねてきます。
「ウソだと思ってるでしょ。他の担当さんにも聞いてみてよ。
みんな知ってるんだから」
「あはは、すいません……どうにも疑り深くって。
ええと、どんな幽霊なんです?」
半信半疑、どころかほぼほぼ信じていませんでしたが、
彼女の調子に合わせて頷きました。
「えっと……ほら、給湯室、あるじゃない」
彼女の言う給湯室は、
この四階建てのビルの頂上階にあるうちの会社の、
仕切り扉を出て、避難階段のすぐそばの場所にありました。
「ああ、さっきお茶いれてきましたよ」
「うんうん。それで……そこにね、縦じまTシャツの男が出るの!」
「……縦じま、Tシャツ」
給湯室に出る、
縦じまTシャツの幽霊(男)。
「えっと……ぜんぜん怖くないですよね?」
「あーっ、戸塚さん、そういうコト言う……!
たしかに、言葉にしたらちょっとマヌケだけど、実際見たら怖いんだからね!」
ちょっと笑いながら言う彼女に、
私は浮かんだ疑問をそのままぶつけました。
「もしかして……見たんですか?」
「わ、私はないけど。……同じ事務の後輩の子とか、
戸塚さんの隣の席の宮下さんも見てるって」
「……宮下さんが?」
私よりも五つ年上の宮下さんは、
この会社の創業当初からいるという古株の方です。
カチッと七三分けして銀フレームのメガネをかけた彼は、
とても幽霊だの霊現象だのと騒ぐような人とは思えませんでした。
「宮下さんが、やっぱり一番見てるんじゃない?
なにせ長いし……あっ! ウワサをすれば」
パタン、と仕切り扉が開いて、
ネクタイを緩めながら彼が入ってきました。
「おかえりなさい、宮下さん。ちょうどウワサしてたんですよ!」
「ウワサ? なんの話をしてたんだい」
「アレですよ。給湯室の幽霊! 戸塚さん、聞いてないっていうから」
「……ああ、なるほど」
彼は小さく頷いて、
チラリとこちらに視線を向けました。
「戸塚くん……お化けとか見たことあるかい?」
「い、いえ……ありません」
「そっか。じゃ、あんまり気にすることないと思うよ。
別になにか害があるわけじゃないしね……あっちのは」
「えっ?」
「ああいや、なんでも」
含みのある台詞に首を傾げるも、
宮下はごまかすように笑って、
「あ、冷たいお茶お願いしていいかな。汗かいちゃったよ」
「はーい。お持ちしまーす」
間延びした声を残して、
彼女はゆうゆうと給湯室へ向かっていきました。
あんなことを言いつつ、
まるで怖がらずにお茶出しできるんだから大丈夫じゃないか、
と少々呆れつつ自分の机に戻ると、
「……あ、戸塚くん」
「ハイ?」
隣席についた宮下が、
思い出したかのように声をかけてきました。
「君、三か月だっけ? これから残業とか、遅番とかもあると思うけど……
夜七時を過ぎたら、この四階のトイレ、入らないほうがいいよ」
「えっ……どうしてですか」
「ハハ……七時過ぎるとね、設備の関係か、照明の調子が悪くなるんだ。
真っ暗なトイレを使いたくはないだろう?
もし催したら、下の階で借りればいいよ。その辺は会社違っても平気だから」
「は、ハァ……」
そんなこともあるか、とあいまいに頷いて、
その時の話は終わりました。
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