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35.湖の上の白無垢①(怖さレベル:★★☆)
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(怖さレベル:★★☆:ふつうに怖い話)
あれはもう、今から二十年くらい前のことです。
まぁ、昔すぎて記憶違いしているトコもあるかもしれませんが、
友人と一緒に体験して、
奴も忘れられないって呻いてたんで、
たぶん大筋は合ってると思うんですよ。
あれは私と友人が、若者のありあまる元気を使って、
バイク旅に出かけた時のコトです。
季節は夏の頃。
金曜日の仕事終わりに合流して、
山に走りがてらキャンプに行こうって話を
友人に持ち掛けられたんです。
彼女もいなくてヒマしていた私は喜んで賛成し、
その友人である川瀬と共に、
有名なキャンプ場のある山への旅行に行くことにしたんです。
金曜の夜ともなれば、
いくら田舎道であろうともすれ違う車はボチボチ存在し、
思いの他スピードが出せず、
キャンプ場までかなり近くに来たものの、
二人そろって、消化不良感を持て余していました。
「来る時間早すぎたなぁ」
道中のコンビニでアイスコーヒーを片手にため息をつきます。
「やっぱ夏だし、夜出る奴多いんだなぁ。どうする?」
「ここまで来たけど、このままキャンプインするってのもなぁ……」
と、二人で悩んでいると、
川瀬がハッと閃いたように指を鳴らしました。
「そーだ! このキャンプ場通り越してしばらく走ると、
でっかい湖があるんだよ。そっち、あんまり
観光向けになってねぇし、わりと穴場だぜ」
と魅力的な提案をしてきました。
「へぇ……湖か。いいかもな」
どうせ明日は休み。
多少夜が遅くなっても、なんの問題もありません。
「ノリ気だな? よし、じゃあ行こーぜ」
川瀬は完全にスピードを出す気まんまんでヘルメットを手にしています。
私も苦笑しつつ、でもその湖まで気持ちよく吹っ飛ばせるのならと、
心躍る気持ちで彼の後に続きました。
友人の推測通り、例のキャンプ場のその先、湖へ続く参道は、
照明器具すらろくに置かれていない、完全なる山道。
歩道もなく、走る車とすれ違いもしない細道に、
山登りの疑似気分を味わえる急斜面の連続で、
私と友人はツーリングをたっぷりと満喫しました。
が、ここは本題とはあまり関係がないのでサクッと割愛して、
――その、例の湖に到着してからのことです。
「……湖、って……ここか?」
「真っ暗だろー? もうちょっと観光向けになんかすりゃいいのになぁ」
そういう友人の言う通り、
そこは明かり一つなく、湖が広がっています。
今日はまだ、月明かりでその全容がぼんやりと見渡せるものの、
新月の日などはきっと、ろくに前後もわからないくらいでしょう。
申し訳程度の駐車場と、簡易トイレが二つあるものの、
鬱蒼と生い茂った木と雑草で、
長いこと管理がされていないことがわかります。
「ま、静かでいいけどな」
のんびりとした口調で、川瀬がバイクを端に停めました。
「つーか、ちょっとトイレ寄ってこうぜ」
「あー……だな」
コンビニで飲んだコーヒーの影響か、
言われてみれば途端に尿意が催してきます。
私も続いてバイクを停め、
友人に続いてそそくさと簡易トイレへと向かったのですが。
「……ん?」
ほの暗い、その湖の中央。
僅かばかりの月明かりでかろうじて見渡せる、
その水上の中ほどに――ポツン、となにかが浮いているのが見えたのです。
「な、なぁ……あれ」
「あー?」
先を歩く友人に思わず声をかければ、
彼も首を伸ばすようにして湖の方を見つめ、
「なんだあれ……ボート?」
と、私と同じものに気づきました。
そう、その広い面積に一隻、
ボートのような、小さな細長い物体が浮かんでいるのです。
「なんか……人? も、いるよな」
川瀬の呟いた通り、うっすらと湖全体を覆うモヤで
はっきりと姿形まではわからぬものの、
白っぽい人影のようなものが、その上に立っているのが見えました。
「は……はは。こんな夜中だぜ? つ、釣りでもしてるってのか……?」
にわかに浮いたイヤな想像を消し去るように、
あえて茶化すようにそんなことを口に出します。
「なっ……なんにせよ、関わんねえほうがいいわ。
……さっさとトイレ行って、キャンプ場もどろーぜ」
「そ……そう、だな」
そそくさと速足になった川瀬に遅れないよう、
続いてトイレに向かいます。
例のボートには目を向けぬよう、
とにかく用を足そうとトイレの入口まで近づいた時。
カタン。
トイレの方から、音がしました。
「……今の」
ピタリと動きを止めた友人に、
私は恐る恐る声をかけました。
「……だれか、いますか?」
川瀬は、私の問いかけをスルーして、
目の前にあるトイレに向かって声をかけました。
「…………」
「…………」
返事はありません。
「聞き間違い……かな」
「いや……でも、動物とかじゃねぇかな。ほら、ここ森みたいなもんだし」
そう答える川瀬の声は、
気丈なセリフに反して、わずかに揺れています。
「ヘビとか……イノシシとかだったらヤバイけど……」
「こんな狭いとこ、イノシシは入れねぇよ。ヘビは気ィつけねぇとだけど」
と、怖さを紛らわすように軽口をたたきつつ、
イヤイヤながらも慎重にトイレの扉を開けました。
>>
あれはもう、今から二十年くらい前のことです。
まぁ、昔すぎて記憶違いしているトコもあるかもしれませんが、
友人と一緒に体験して、
奴も忘れられないって呻いてたんで、
たぶん大筋は合ってると思うんですよ。
あれは私と友人が、若者のありあまる元気を使って、
バイク旅に出かけた時のコトです。
季節は夏の頃。
金曜日の仕事終わりに合流して、
山に走りがてらキャンプに行こうって話を
友人に持ち掛けられたんです。
彼女もいなくてヒマしていた私は喜んで賛成し、
その友人である川瀬と共に、
有名なキャンプ場のある山への旅行に行くことにしたんです。
金曜の夜ともなれば、
いくら田舎道であろうともすれ違う車はボチボチ存在し、
思いの他スピードが出せず、
キャンプ場までかなり近くに来たものの、
二人そろって、消化不良感を持て余していました。
「来る時間早すぎたなぁ」
道中のコンビニでアイスコーヒーを片手にため息をつきます。
「やっぱ夏だし、夜出る奴多いんだなぁ。どうする?」
「ここまで来たけど、このままキャンプインするってのもなぁ……」
と、二人で悩んでいると、
川瀬がハッと閃いたように指を鳴らしました。
「そーだ! このキャンプ場通り越してしばらく走ると、
でっかい湖があるんだよ。そっち、あんまり
観光向けになってねぇし、わりと穴場だぜ」
と魅力的な提案をしてきました。
「へぇ……湖か。いいかもな」
どうせ明日は休み。
多少夜が遅くなっても、なんの問題もありません。
「ノリ気だな? よし、じゃあ行こーぜ」
川瀬は完全にスピードを出す気まんまんでヘルメットを手にしています。
私も苦笑しつつ、でもその湖まで気持ちよく吹っ飛ばせるのならと、
心躍る気持ちで彼の後に続きました。
友人の推測通り、例のキャンプ場のその先、湖へ続く参道は、
照明器具すらろくに置かれていない、完全なる山道。
歩道もなく、走る車とすれ違いもしない細道に、
山登りの疑似気分を味わえる急斜面の連続で、
私と友人はツーリングをたっぷりと満喫しました。
が、ここは本題とはあまり関係がないのでサクッと割愛して、
――その、例の湖に到着してからのことです。
「……湖、って……ここか?」
「真っ暗だろー? もうちょっと観光向けになんかすりゃいいのになぁ」
そういう友人の言う通り、
そこは明かり一つなく、湖が広がっています。
今日はまだ、月明かりでその全容がぼんやりと見渡せるものの、
新月の日などはきっと、ろくに前後もわからないくらいでしょう。
申し訳程度の駐車場と、簡易トイレが二つあるものの、
鬱蒼と生い茂った木と雑草で、
長いこと管理がされていないことがわかります。
「ま、静かでいいけどな」
のんびりとした口調で、川瀬がバイクを端に停めました。
「つーか、ちょっとトイレ寄ってこうぜ」
「あー……だな」
コンビニで飲んだコーヒーの影響か、
言われてみれば途端に尿意が催してきます。
私も続いてバイクを停め、
友人に続いてそそくさと簡易トイレへと向かったのですが。
「……ん?」
ほの暗い、その湖の中央。
僅かばかりの月明かりでかろうじて見渡せる、
その水上の中ほどに――ポツン、となにかが浮いているのが見えたのです。
「な、なぁ……あれ」
「あー?」
先を歩く友人に思わず声をかければ、
彼も首を伸ばすようにして湖の方を見つめ、
「なんだあれ……ボート?」
と、私と同じものに気づきました。
そう、その広い面積に一隻、
ボートのような、小さな細長い物体が浮かんでいるのです。
「なんか……人? も、いるよな」
川瀬の呟いた通り、うっすらと湖全体を覆うモヤで
はっきりと姿形まではわからぬものの、
白っぽい人影のようなものが、その上に立っているのが見えました。
「は……はは。こんな夜中だぜ? つ、釣りでもしてるってのか……?」
にわかに浮いたイヤな想像を消し去るように、
あえて茶化すようにそんなことを口に出します。
「なっ……なんにせよ、関わんねえほうがいいわ。
……さっさとトイレ行って、キャンプ場もどろーぜ」
「そ……そう、だな」
そそくさと速足になった川瀬に遅れないよう、
続いてトイレに向かいます。
例のボートには目を向けぬよう、
とにかく用を足そうとトイレの入口まで近づいた時。
カタン。
トイレの方から、音がしました。
「……今の」
ピタリと動きを止めた友人に、
私は恐る恐る声をかけました。
「……だれか、いますか?」
川瀬は、私の問いかけをスルーして、
目の前にあるトイレに向かって声をかけました。
「…………」
「…………」
返事はありません。
「聞き間違い……かな」
「いや……でも、動物とかじゃねぇかな。ほら、ここ森みたいなもんだし」
そう答える川瀬の声は、
気丈なセリフに反して、わずかに揺れています。
「ヘビとか……イノシシとかだったらヤバイけど……」
「こんな狭いとこ、イノシシは入れねぇよ。ヘビは気ィつけねぇとだけど」
と、怖さを紛らわすように軽口をたたきつつ、
イヤイヤながらも慎重にトイレの扉を開けました。
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