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39.眠るタロットカード③(怖さレベル:★☆☆)
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「ああ、そうだったんですね。
私、以前こちらでタロットカードを譲っていただいたことがあったので」
と、頭を下げつつ説明しました。
すると、目前の老婆はフッと表情を真剣なものに変え、
ジッとこちらを見つめてきたのです。
「タロットカード……あんたソレ、いつだい」
「え……? 十五年ほど、前ですが」
と、記憶を遡りながら答えると、
「ああ……あの時のか」
老婆は妙に感心したように頷いています。
「あの……なにか……?」
「いやあ? あんたが無事でいるのがなによりの幸運。
きちんと言いつけを守ってくれたんだねぇ」
と、さらに気味の悪い言葉を続けるのです。
「え……あの、それってどういう」
「おや? 曰くつきのモンって聞かなかったかい?」
「あ……一応、呪われてる、とは」
ほぼほぼ信じていなかったその内容を、
おそるおそる伝えると、彼女は何度も頷きました。
「そうだろう。……使うな、って言われただろ?
あれはねぇ……持ち主の運命を狂わせる恐ろしいモンさ」
まるでファンシーな内容を、唐突に老婆は語り始めました。
「え、えっと……?」
「信じる信じないは勝手さぁね。アレは、占いにも予言にも使えない、
ただの呪いの法具なんだ。でも、見る分には……
ただ飾る分にはなんの影響もない。現にあんたは元気だ。そうだろ?」
「あ、あの……運命を狂わせる、ってどういう」
以前聞いたときは、悪いことが起きる、くらいの
ふわっとしたニュアンスでしか話を聞いていませんでした。
しかし、今の感じでは、さらに異質な、
それこそ病気や死を誘発するようなモノのように思えたのです。
「ま、すぐ分かるんじゃないかい?」
「え……?」
老婆は、諦めたように小さくため息をつきました。
「他の人に譲ったんだろ? 残念だけど……もうダメだね」
「なっ、なんで知って」
一言もそんなこと口に出していないはずなのにどうして、
とさらに質問を重ねようとしたその時。
ピッピッピッ。
携帯が着信を知らせてきました。
「すっ、すいません」
慌てて店外へ出て、液晶に表示された名前を見れば、
『白山さん』という文字がありました。
「いや……まさか……」
ついさきほどの店主とのやり取りに不吉な思いを抱きつつ、
すぐさま通話に出れば、
「もしもし!? 白山さん!?」
『あ……ザザ……店長さ……ザッ』
ガリガリとノイズに遮られた彼女の声が、
かすかにスピーカーから流れてきます。
「ど……どうしたんですか? それに、なんか電話、おかしいんじゃ……」
『ザッ……タロット……ごめんなさ……ザザ……』
「し……白山さん……?」
通話口から聞こえる彼女の声は、
雑音と混ざり合ってまるで彼女の声ではないかのような、
不気味な響きで伝わってきます。
『……あれ……私、使ってしまって……ザザ……』
「え……? だ、ダメって言ったのに……!」
思わず責めるような声がもれました。
確かに、譲ったのは間違いなくあたし自身ですが、
その時に使ってはいけない、と念押しをしていたはずです。
「魅入られたんだろうねぇ」
「え……?」
いつの間に出てきたのやら、
店の外にあの老婆が竹ホウキ片手にこちらをジッと見つめていました。
「あんたはあのカードに気に入られていたから平気だったんだ。
でも、その娘は……まぁ、なんて言えばいいかねぇ……
供物に認定されちまったんだろう」
「く……はっ!?」
まるきりファンタジー世界の、
魔女のようなことを老婆は言い放ちます。
『ザッ……もう……カードぜんぶ……真っ暗で……、
なんのカードを引いても……塔のカードすら……真っ黒で……ザザッ』
「白山さん! 気をよく持って!
そんな、タロットカード一つでなにかが起きるなんてありえないでしょ!」
私が携帯をギュッと握りしめ、恥も外聞もなく叫んだその時です。
『あるよ』
「えっ……?」
ノイズだらけの通話の中、その単語だけがハッキリと耳に届きました。
そして、
『う”っ……げ、ぶっ』
「し、白山さん!?」
明らかに異常な彼女の声と共に、
『ガッ……ズドンッ!!』
「わ、っ……!?」
重い衝撃音に思わず通話口から耳を話してしまった僅かの間に、
プッ
と電話は切れてしまいました。
「し……白山さ……」
呆然と、何も考えられずただ携帯を握りしめるだけの私の隣で、
老婆はポツリと漏らしました。
「……連れていかれちまったか」
と。
そのあと、私は警察に呼び出されました。
彼女の亡くなる数秒前、私と通話をしていたからです。
しかし、それがおかしいのです。
あたしが白山さんと話をしたのは、あのリサイクルショップでした。
しかし、彼女が亡くなったのは――
あたしがそのリサイクルショップの方の道に迂回せざるを得なくなった、
あの事故のタイミングであったのです。
ええと、意味がわかりませんよね。
あたしがあのリサイクルショップに行こうとしたのって、
いつもの帰り道が事故渋滞していたからでした。
しかし、彼女が亡くなったのは――
その事故に巻き込まれた、その時であったのです。
つまり彼女があたしに電話したのは、
亡くなった後、ということになります。
そんなコト、それこそ時空がゆがみでもしない限り、起きるわけがないのに。
そのせいで、警察には必要以上と思われるような聴取を受けました。
でも、あたしが答えられることなんて、
ただ経営していた店のお客であった、ことくらいです。
まさか、タロットカードを譲ったせいで彼女が死んだ、
なんて話したって、捜査をかく乱させようとしていると
思われるのが関の山ですから。
そして、あのタロットカード……ですが。
ちらりと伺ったところ、
彼女の最後の所持品の一つであったそうで、
どうも彼女の血を浴びて真っ赤に汚れ――
今は遺留品として警察の方で保管しているようでした。
あの日、あたしが通話を終えて、
呆然自失状態で立ちすくんでいたところ、
「まぁ、気にしなさんな。あんたのせいじゃない。
その彼女、初めっから連れていかれる運命だったんだろう」
なんて、老婆には慰めともつかない声をかけられました。
確かに、あたしは彼女が欲しがった
タロットカードをそのまま受け渡したにすぎません。
使ってはいけない、と忠告もして、
呪われてたものである、と説明もしました。
しかし、だからといって、
責任がない、なんてとても思うことはできません。
あたしは、あのタロットカードが彼女の家族の元に戻されたら、
譲ってもらうよう伝えるつもりでいます。
あれは――世間に出回らせていいものではありません。
あたし自身が死ぬその時に棺に入れて、あの世まで持っていきます。
それがせめてもの……贖罪です。
私、以前こちらでタロットカードを譲っていただいたことがあったので」
と、頭を下げつつ説明しました。
すると、目前の老婆はフッと表情を真剣なものに変え、
ジッとこちらを見つめてきたのです。
「タロットカード……あんたソレ、いつだい」
「え……? 十五年ほど、前ですが」
と、記憶を遡りながら答えると、
「ああ……あの時のか」
老婆は妙に感心したように頷いています。
「あの……なにか……?」
「いやあ? あんたが無事でいるのがなによりの幸運。
きちんと言いつけを守ってくれたんだねぇ」
と、さらに気味の悪い言葉を続けるのです。
「え……あの、それってどういう」
「おや? 曰くつきのモンって聞かなかったかい?」
「あ……一応、呪われてる、とは」
ほぼほぼ信じていなかったその内容を、
おそるおそる伝えると、彼女は何度も頷きました。
「そうだろう。……使うな、って言われただろ?
あれはねぇ……持ち主の運命を狂わせる恐ろしいモンさ」
まるでファンシーな内容を、唐突に老婆は語り始めました。
「え、えっと……?」
「信じる信じないは勝手さぁね。アレは、占いにも予言にも使えない、
ただの呪いの法具なんだ。でも、見る分には……
ただ飾る分にはなんの影響もない。現にあんたは元気だ。そうだろ?」
「あ、あの……運命を狂わせる、ってどういう」
以前聞いたときは、悪いことが起きる、くらいの
ふわっとしたニュアンスでしか話を聞いていませんでした。
しかし、今の感じでは、さらに異質な、
それこそ病気や死を誘発するようなモノのように思えたのです。
「ま、すぐ分かるんじゃないかい?」
「え……?」
老婆は、諦めたように小さくため息をつきました。
「他の人に譲ったんだろ? 残念だけど……もうダメだね」
「なっ、なんで知って」
一言もそんなこと口に出していないはずなのにどうして、
とさらに質問を重ねようとしたその時。
ピッピッピッ。
携帯が着信を知らせてきました。
「すっ、すいません」
慌てて店外へ出て、液晶に表示された名前を見れば、
『白山さん』という文字がありました。
「いや……まさか……」
ついさきほどの店主とのやり取りに不吉な思いを抱きつつ、
すぐさま通話に出れば、
「もしもし!? 白山さん!?」
『あ……ザザ……店長さ……ザッ』
ガリガリとノイズに遮られた彼女の声が、
かすかにスピーカーから流れてきます。
「ど……どうしたんですか? それに、なんか電話、おかしいんじゃ……」
『ザッ……タロット……ごめんなさ……ザザ……』
「し……白山さん……?」
通話口から聞こえる彼女の声は、
雑音と混ざり合ってまるで彼女の声ではないかのような、
不気味な響きで伝わってきます。
『……あれ……私、使ってしまって……ザザ……』
「え……? だ、ダメって言ったのに……!」
思わず責めるような声がもれました。
確かに、譲ったのは間違いなくあたし自身ですが、
その時に使ってはいけない、と念押しをしていたはずです。
「魅入られたんだろうねぇ」
「え……?」
いつの間に出てきたのやら、
店の外にあの老婆が竹ホウキ片手にこちらをジッと見つめていました。
「あんたはあのカードに気に入られていたから平気だったんだ。
でも、その娘は……まぁ、なんて言えばいいかねぇ……
供物に認定されちまったんだろう」
「く……はっ!?」
まるきりファンタジー世界の、
魔女のようなことを老婆は言い放ちます。
『ザッ……もう……カードぜんぶ……真っ暗で……、
なんのカードを引いても……塔のカードすら……真っ黒で……ザザッ』
「白山さん! 気をよく持って!
そんな、タロットカード一つでなにかが起きるなんてありえないでしょ!」
私が携帯をギュッと握りしめ、恥も外聞もなく叫んだその時です。
『あるよ』
「えっ……?」
ノイズだらけの通話の中、その単語だけがハッキリと耳に届きました。
そして、
『う”っ……げ、ぶっ』
「し、白山さん!?」
明らかに異常な彼女の声と共に、
『ガッ……ズドンッ!!』
「わ、っ……!?」
重い衝撃音に思わず通話口から耳を話してしまった僅かの間に、
プッ
と電話は切れてしまいました。
「し……白山さ……」
呆然と、何も考えられずただ携帯を握りしめるだけの私の隣で、
老婆はポツリと漏らしました。
「……連れていかれちまったか」
と。
そのあと、私は警察に呼び出されました。
彼女の亡くなる数秒前、私と通話をしていたからです。
しかし、それがおかしいのです。
あたしが白山さんと話をしたのは、あのリサイクルショップでした。
しかし、彼女が亡くなったのは――
あたしがそのリサイクルショップの方の道に迂回せざるを得なくなった、
あの事故のタイミングであったのです。
ええと、意味がわかりませんよね。
あたしがあのリサイクルショップに行こうとしたのって、
いつもの帰り道が事故渋滞していたからでした。
しかし、彼女が亡くなったのは――
その事故に巻き込まれた、その時であったのです。
つまり彼女があたしに電話したのは、
亡くなった後、ということになります。
そんなコト、それこそ時空がゆがみでもしない限り、起きるわけがないのに。
そのせいで、警察には必要以上と思われるような聴取を受けました。
でも、あたしが答えられることなんて、
ただ経営していた店のお客であった、ことくらいです。
まさか、タロットカードを譲ったせいで彼女が死んだ、
なんて話したって、捜査をかく乱させようとしていると
思われるのが関の山ですから。
そして、あのタロットカード……ですが。
ちらりと伺ったところ、
彼女の最後の所持品の一つであったそうで、
どうも彼女の血を浴びて真っ赤に汚れ――
今は遺留品として警察の方で保管しているようでした。
あの日、あたしが通話を終えて、
呆然自失状態で立ちすくんでいたところ、
「まぁ、気にしなさんな。あんたのせいじゃない。
その彼女、初めっから連れていかれる運命だったんだろう」
なんて、老婆には慰めともつかない声をかけられました。
確かに、あたしは彼女が欲しがった
タロットカードをそのまま受け渡したにすぎません。
使ってはいけない、と忠告もして、
呪われてたものである、と説明もしました。
しかし、だからといって、
責任がない、なんてとても思うことはできません。
あたしは、あのタロットカードが彼女の家族の元に戻されたら、
譲ってもらうよう伝えるつもりでいます。
あれは――世間に出回らせていいものではありません。
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