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40.アパート103号室①(怖さレベル:★★☆)
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(怖さレベル:★★☆:ふつうに怖い話)
『30代女性 野口さん(仮)』
私の友人に、
ユキという女の子がいるんです。
同じ高校に入学して、
意気投合して仲良くなって、
社会人になっても変わらぬ友人付き合いが続いていました。
私が結婚をした時も、
友人代表のスピーチをお願いしたりして、
一生このまま変わらぬ友人関係が続いていくと思っていました。
しかし最近は、年末年始や会社の決算期などで
バタバタと忙しく、会えない日々が続いていました。
私が結婚をして、前ほど気楽に外へ
遊びに出られなくなってしまったことも要因の一つであったかもしれません。
申し訳ないという気持ちも抱えつつ、
久しぶりに彼女に会いたくてメッセージを送ったところ、
彼女の方も仕事が一段落したとかで、
二つ返事で「OK」の回答が返ってきました。
私は気の置けない友人に久々に会えるのがうれしくて、
仕事や家事にいつも以上に捗ったものでした。
「のんちゃん、久しぶりー!」
高校生の時からお世話になっているカフェに、
のんびりとカフェオレ片手に待っていると、
聞き覚えのある声と共に、
真向いに座る人がありました。
「あ、ユキ。久しぶ……えっ」
私は現れた友人を前にして、
言葉を失いました。
彼女はもともと、本人自体が食べることが好きと公言しており、
わりと体格の良い女の子であったのですが、
その彼女の身体は――別人のように細くなっていたのです。
「あ、やっぱりビックリした? すごいでしょ、
ダイエットに成功したんだあ」
と朗らかに笑う彼女に、
私はあいまいに頷くことしかできません。
ダイエット、なんて可愛い痩せ方ではありません。
なにせ目の前の彼女の様相は、
まさに骨と皮。
栄養失調なのではと心配になるほどの
ガリガリっぷりなのです。
「ユキ、その……なにかあったの? ダイエットの理由、とか……」
私はニコニコと上機嫌な彼女の気を害さないよう、
極力明るい口調でサラリと尋ねました。
「まあね。ありがちな話だけど……その、恋、してさ」
アハハ、と笑う彼女に、私は彼女の恋愛遍歴のことを思い出していました。
彼女は思い込んだら一直線、というタイプで、
一人の人を好きになると、周りが見えないくらいにのめり込み、
付き合った相手の好みに
どんどん自分を合わせていくようなタイプだったのです。
彼女はたいそう尽くす人であったので、
相手によってはDVまがいの目にあったり、
逆にドン引かれてしまったりすることもあったりして、
今まで相性の合う人がいなかったのです。
「今付き合ってる人が……その、ダイスケっていうんだけど。
あたしが仕事でヤなコトあってドカ食いしちゃおうとしても、
やさしく慰めて止めてくれてね」
彼女は、夢見るような表情で、
つらつらと彼氏のことを語り始めました。
「ダイスケさん、って言うんだ……えっと、いつから?」
「えっと、三か月くらい前かな?
ほんと、すっごく優しい人で……良い人なんだぁ」
と、痩せすぎて落ちくぼんだ眼の奥、
どこかギラついた眼差しで笑います。
「へ、へえ……そうなんだ」
どこか崇拝すら感じさせる口調に、
その彼氏が危険な男なのではと気になり、
「き、気になるなぁ、ユキの恋人」
それとなく伝えれば、
「ぜったいのんちゃんも気に入ってくれるよ! ホントに素敵な人だから」
と、彼女も乗り気で頷いてきました。
私は、彼女をここまでガリガリにしたという相手が、
うさん臭くて仕方ありませんでした。
しかし、会ってもいないのに口出しすることなどできず、
一度面と向かってどんな人物か見極めてやる、と、
今思えば一人で無謀極まりないことを考えてしまったのでした。
「う、わあ……」
彼女から送られてきたメッセージの住所にたどり着いて早々、
そんな声が漏れるほど、そこはひどいあり様でした。
住居として成立してることがおどろくほど、
みすぼらしくツタのはった外壁。
女性の一人暮らしとしては不用心すぎるほど低いベランダに、
高い建物で両脇を挟まれ、
日の差し込まない薄暗い立地。
彼氏うんぬん以前に、
私はすでに怖気づいていました。
(だ……大丈夫なの、ここ)
彼女が痩せた理由も、彼氏のせいではなく、
ここの住居環境のせいではないかと
思えてくる始末です。
私はそっと足音を殺しつつ、
彼女に教えられた、103号室の扉をノックしました。
「ゆ……ユキちゃーん……来たよー……」
「はーい」
ガチャっ、と軽快に扉が開き、
開いた隙間から、朗らかな笑顔の彼女の顔が除きました。
「さ、入って入ってー」
「はい、お邪魔します……」
相変わらずのやせこけた彼女に促されるがまま、
彼女の自宅へと足を踏み入れます、が。
ゴー……ッ
(うっ)
中に入った途端、
やたら低い、耳鳴りが脳内にこだましました。
グラッ、と頭を揺さぶられるほどの
普段は感じない、耳の詰まったかのような、低音の周波数。
(あれ……どうしたんだろ……)
つられて痛み始める側頭部を撫でつつ、
彼女に続いて居間へ入りました。
「今ね、彼氏と同棲してるんだー」
「へ、へえ~」
なんて上機嫌で話す友人の言葉は、
ほぼほぼ耳に入ってきません。
まるで赤べこのような首振り人形状態と化しつつ、
私は止まない耳鳴りに、気持ち悪ささえ覚えてきました。
「シャイだからさ、なかなか出てこないんだよねぇ。
悪いけど、ちょっとくつろいでて。呼んでくるから~」
「ん、わかった……」
私は彼女の相手に会ったら、
体調が悪いことを伝えて早く帰ろう、と
考えつつ、出された珈琲に口を付けました。
>>
『30代女性 野口さん(仮)』
私の友人に、
ユキという女の子がいるんです。
同じ高校に入学して、
意気投合して仲良くなって、
社会人になっても変わらぬ友人付き合いが続いていました。
私が結婚をした時も、
友人代表のスピーチをお願いしたりして、
一生このまま変わらぬ友人関係が続いていくと思っていました。
しかし最近は、年末年始や会社の決算期などで
バタバタと忙しく、会えない日々が続いていました。
私が結婚をして、前ほど気楽に外へ
遊びに出られなくなってしまったことも要因の一つであったかもしれません。
申し訳ないという気持ちも抱えつつ、
久しぶりに彼女に会いたくてメッセージを送ったところ、
彼女の方も仕事が一段落したとかで、
二つ返事で「OK」の回答が返ってきました。
私は気の置けない友人に久々に会えるのがうれしくて、
仕事や家事にいつも以上に捗ったものでした。
「のんちゃん、久しぶりー!」
高校生の時からお世話になっているカフェに、
のんびりとカフェオレ片手に待っていると、
聞き覚えのある声と共に、
真向いに座る人がありました。
「あ、ユキ。久しぶ……えっ」
私は現れた友人を前にして、
言葉を失いました。
彼女はもともと、本人自体が食べることが好きと公言しており、
わりと体格の良い女の子であったのですが、
その彼女の身体は――別人のように細くなっていたのです。
「あ、やっぱりビックリした? すごいでしょ、
ダイエットに成功したんだあ」
と朗らかに笑う彼女に、
私はあいまいに頷くことしかできません。
ダイエット、なんて可愛い痩せ方ではありません。
なにせ目の前の彼女の様相は、
まさに骨と皮。
栄養失調なのではと心配になるほどの
ガリガリっぷりなのです。
「ユキ、その……なにかあったの? ダイエットの理由、とか……」
私はニコニコと上機嫌な彼女の気を害さないよう、
極力明るい口調でサラリと尋ねました。
「まあね。ありがちな話だけど……その、恋、してさ」
アハハ、と笑う彼女に、私は彼女の恋愛遍歴のことを思い出していました。
彼女は思い込んだら一直線、というタイプで、
一人の人を好きになると、周りが見えないくらいにのめり込み、
付き合った相手の好みに
どんどん自分を合わせていくようなタイプだったのです。
彼女はたいそう尽くす人であったので、
相手によってはDVまがいの目にあったり、
逆にドン引かれてしまったりすることもあったりして、
今まで相性の合う人がいなかったのです。
「今付き合ってる人が……その、ダイスケっていうんだけど。
あたしが仕事でヤなコトあってドカ食いしちゃおうとしても、
やさしく慰めて止めてくれてね」
彼女は、夢見るような表情で、
つらつらと彼氏のことを語り始めました。
「ダイスケさん、って言うんだ……えっと、いつから?」
「えっと、三か月くらい前かな?
ほんと、すっごく優しい人で……良い人なんだぁ」
と、痩せすぎて落ちくぼんだ眼の奥、
どこかギラついた眼差しで笑います。
「へ、へえ……そうなんだ」
どこか崇拝すら感じさせる口調に、
その彼氏が危険な男なのではと気になり、
「き、気になるなぁ、ユキの恋人」
それとなく伝えれば、
「ぜったいのんちゃんも気に入ってくれるよ! ホントに素敵な人だから」
と、彼女も乗り気で頷いてきました。
私は、彼女をここまでガリガリにしたという相手が、
うさん臭くて仕方ありませんでした。
しかし、会ってもいないのに口出しすることなどできず、
一度面と向かってどんな人物か見極めてやる、と、
今思えば一人で無謀極まりないことを考えてしまったのでした。
「う、わあ……」
彼女から送られてきたメッセージの住所にたどり着いて早々、
そんな声が漏れるほど、そこはひどいあり様でした。
住居として成立してることがおどろくほど、
みすぼらしくツタのはった外壁。
女性の一人暮らしとしては不用心すぎるほど低いベランダに、
高い建物で両脇を挟まれ、
日の差し込まない薄暗い立地。
彼氏うんぬん以前に、
私はすでに怖気づいていました。
(だ……大丈夫なの、ここ)
彼女が痩せた理由も、彼氏のせいではなく、
ここの住居環境のせいではないかと
思えてくる始末です。
私はそっと足音を殺しつつ、
彼女に教えられた、103号室の扉をノックしました。
「ゆ……ユキちゃーん……来たよー……」
「はーい」
ガチャっ、と軽快に扉が開き、
開いた隙間から、朗らかな笑顔の彼女の顔が除きました。
「さ、入って入ってー」
「はい、お邪魔します……」
相変わらずのやせこけた彼女に促されるがまま、
彼女の自宅へと足を踏み入れます、が。
ゴー……ッ
(うっ)
中に入った途端、
やたら低い、耳鳴りが脳内にこだましました。
グラッ、と頭を揺さぶられるほどの
普段は感じない、耳の詰まったかのような、低音の周波数。
(あれ……どうしたんだろ……)
つられて痛み始める側頭部を撫でつつ、
彼女に続いて居間へ入りました。
「今ね、彼氏と同棲してるんだー」
「へ、へえ~」
なんて上機嫌で話す友人の言葉は、
ほぼほぼ耳に入ってきません。
まるで赤べこのような首振り人形状態と化しつつ、
私は止まない耳鳴りに、気持ち悪ささえ覚えてきました。
「シャイだからさ、なかなか出てこないんだよねぇ。
悪いけど、ちょっとくつろいでて。呼んでくるから~」
「ん、わかった……」
私は彼女の相手に会ったら、
体調が悪いことを伝えて早く帰ろう、と
考えつつ、出された珈琲に口を付けました。
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