92 / 415
42.スポーツジムの水死体①(怖さレベル:★★★)
しおりを挟む
(怖さレベル:★★★:旧2ch 洒落怖くらいの話)
『40代男性 大矢さん(仮)』
今から、だいたい三年くらい前だったですかねぇ……。
膨らんできた腹に、運動不足。
不摂生な生活リズムに、油もんばかりの食生活。
オマケに、ちょいと走れば筋肉痛と、
年を重ねるに伴って太ってきた己の身体に、
これはなんとかしなければ、と危機感を覚えまして。
ちょうどファミレスでもらっていた入会金割引のチラシを見つけ、
これはいい機会だと、近所のジムに通うことを決めたんです。
とはいっても、最初はホント、
情けないくらいなんにもできなくって。
学生の頃だって、体育の授業なんて大の苦手で、
成績だって手心を加えてもらって、ようやく平均の3、くらいのレベル。
体験入会の期間でどうせ終わってしまうかな、
なんて諦めモードで通い続け、一か月。
意外や意外、案外これが楽しくて。
何ていうんですかね……授業のように強要されるわけでもなく、
自分のペースでできるそれは、誰にも何も言われない代わりに、
自分で自分をコントロールしなきゃならない。
でも、そんな孤高の戦いが、案外やる気に火をつけて、
私はモチベーションを落とすことなく、通い続けることができたのです。
そのジムは、都会へのベッドタウンという、
微妙に田舎の安い土地を存分に生かした広さで、
鍛錬用のマシーンが置かれたフロアの他に、
ちょっとしたスパ施設のような入浴施設、
それに、水泳用のプールが併設されていました。
筋トレに慣れた半年後、ようやく身体に少々の自信が付き始めてきた私は、
そろそろプールに挑戦しよう、と思い立ったのです。
「うお、広い……」
最初の施設案内の時にチラ見しただけだったそこを、
改めて水着姿で眺めれば、なかなかの広さを誇っています。
長さは25mですが、レーンがだいたい9つくらい。
奥の数レーンは、時間帯によってフィットネス教室として使用されるらしく、
使用できない場合があると注意書きが記されています。
しかし、そこ以外は個人で自由に遊泳できるとあって、
けっこうな人数の人たちが、代わる代わる泳いでいるのが見えました。
「……よし! 泳ぐぞ」
自らに気合いを入れ、なんとか人様に見せても
みっともなく思われぬくらいに凹んだ腹を引き締め、
プールレーンを確認します。
いくらレーンの数が多いとはいえ、平日の夜は込み合っていて、
なかなか人の切れ目がありません。
(何人か泳いでるトコに入れてもらうしかないな……)
と、仕方なくため息をつき、
どこに入れてもらおうか様子見をしていると、
「……あれ? 人がいない」
中ほどにある、6レーン目。
そこだけ、なぜかガランと空っぽなのです。
(何かで使う? それとも誰かが貸し切ってる?)
周囲が込み合っているのに、そこだけポッカリ開いているのが不思議で、
うーんと首を傾げていると、
「そこ、泳がないんですか?」
と、若い青年から声がかかりました。
「あ、えぇ……なんか、他に誰も使ってないから、良いのかなぁと」
「ここ、教室用じゃないから良いんじゃないですかね?
他がいっぱいだし……先、泳いで良いなら、オレ行きますけど」
爽やかにニカっと笑みを浮かべた青年に、
私は先を譲りました。
「ああ、どうぞ。私は泳ぐのも遅いから、お先に行って下さい」
「そーですか? じゃ、遠慮なく」
青年は元気よく返事をして、
美しいフォームで6レーン目に飛び込んでいきました。
(ハァ……なにためらってんだ。彼の言う通り、
他は混んでるんだし、ラッキーじゃないか。せっかくだし……泳ごう)
妙に怖気づく自分自身を叱咤し、ゆっくりと
足先をプールの水に浸した時。
「痛……ッ」
不意に、頭の側面に頭痛が走りました。
(なんだ、急に……)
先ほどまではなんともなかったのに、
まさか、プールの塩素か、もしくは水圧で?
と、わけがわからず頭を押さえた私の視界に――
突如、妙なものが目に入りました。
チャプ、チャプ……トプンッ
6レーン。
25mプールの、ちょうど真ん中。
そこに、水中から何か生えています。
「……ひ、えっ」
引きつった声が喉から零れます。
そこに現れたのは、男の上半身。
しかし、健康的な人間ではありえないほど、
ぶよぶよと肌が伸びきり、血の気の失せた――人の。
(なんだ、なんなんだアレは……っ!!)
プールに入る前までには、あんなもの、
まったく目に入りませんでした。
誰一人、ここには人がいなかったし、
あの若い青年だって、こんな。
と、そこまで考えたところで、ハッと気づきました。
>>
『40代男性 大矢さん(仮)』
今から、だいたい三年くらい前だったですかねぇ……。
膨らんできた腹に、運動不足。
不摂生な生活リズムに、油もんばかりの食生活。
オマケに、ちょいと走れば筋肉痛と、
年を重ねるに伴って太ってきた己の身体に、
これはなんとかしなければ、と危機感を覚えまして。
ちょうどファミレスでもらっていた入会金割引のチラシを見つけ、
これはいい機会だと、近所のジムに通うことを決めたんです。
とはいっても、最初はホント、
情けないくらいなんにもできなくって。
学生の頃だって、体育の授業なんて大の苦手で、
成績だって手心を加えてもらって、ようやく平均の3、くらいのレベル。
体験入会の期間でどうせ終わってしまうかな、
なんて諦めモードで通い続け、一か月。
意外や意外、案外これが楽しくて。
何ていうんですかね……授業のように強要されるわけでもなく、
自分のペースでできるそれは、誰にも何も言われない代わりに、
自分で自分をコントロールしなきゃならない。
でも、そんな孤高の戦いが、案外やる気に火をつけて、
私はモチベーションを落とすことなく、通い続けることができたのです。
そのジムは、都会へのベッドタウンという、
微妙に田舎の安い土地を存分に生かした広さで、
鍛錬用のマシーンが置かれたフロアの他に、
ちょっとしたスパ施設のような入浴施設、
それに、水泳用のプールが併設されていました。
筋トレに慣れた半年後、ようやく身体に少々の自信が付き始めてきた私は、
そろそろプールに挑戦しよう、と思い立ったのです。
「うお、広い……」
最初の施設案内の時にチラ見しただけだったそこを、
改めて水着姿で眺めれば、なかなかの広さを誇っています。
長さは25mですが、レーンがだいたい9つくらい。
奥の数レーンは、時間帯によってフィットネス教室として使用されるらしく、
使用できない場合があると注意書きが記されています。
しかし、そこ以外は個人で自由に遊泳できるとあって、
けっこうな人数の人たちが、代わる代わる泳いでいるのが見えました。
「……よし! 泳ぐぞ」
自らに気合いを入れ、なんとか人様に見せても
みっともなく思われぬくらいに凹んだ腹を引き締め、
プールレーンを確認します。
いくらレーンの数が多いとはいえ、平日の夜は込み合っていて、
なかなか人の切れ目がありません。
(何人か泳いでるトコに入れてもらうしかないな……)
と、仕方なくため息をつき、
どこに入れてもらおうか様子見をしていると、
「……あれ? 人がいない」
中ほどにある、6レーン目。
そこだけ、なぜかガランと空っぽなのです。
(何かで使う? それとも誰かが貸し切ってる?)
周囲が込み合っているのに、そこだけポッカリ開いているのが不思議で、
うーんと首を傾げていると、
「そこ、泳がないんですか?」
と、若い青年から声がかかりました。
「あ、えぇ……なんか、他に誰も使ってないから、良いのかなぁと」
「ここ、教室用じゃないから良いんじゃないですかね?
他がいっぱいだし……先、泳いで良いなら、オレ行きますけど」
爽やかにニカっと笑みを浮かべた青年に、
私は先を譲りました。
「ああ、どうぞ。私は泳ぐのも遅いから、お先に行って下さい」
「そーですか? じゃ、遠慮なく」
青年は元気よく返事をして、
美しいフォームで6レーン目に飛び込んでいきました。
(ハァ……なにためらってんだ。彼の言う通り、
他は混んでるんだし、ラッキーじゃないか。せっかくだし……泳ごう)
妙に怖気づく自分自身を叱咤し、ゆっくりと
足先をプールの水に浸した時。
「痛……ッ」
不意に、頭の側面に頭痛が走りました。
(なんだ、急に……)
先ほどまではなんともなかったのに、
まさか、プールの塩素か、もしくは水圧で?
と、わけがわからず頭を押さえた私の視界に――
突如、妙なものが目に入りました。
チャプ、チャプ……トプンッ
6レーン。
25mプールの、ちょうど真ん中。
そこに、水中から何か生えています。
「……ひ、えっ」
引きつった声が喉から零れます。
そこに現れたのは、男の上半身。
しかし、健康的な人間ではありえないほど、
ぶよぶよと肌が伸びきり、血の気の失せた――人の。
(なんだ、なんなんだアレは……っ!!)
プールに入る前までには、あんなもの、
まったく目に入りませんでした。
誰一人、ここには人がいなかったし、
あの若い青年だって、こんな。
と、そこまで考えたところで、ハッと気づきました。
>>
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママが呼んでいる
杏樹まじゅ
ホラー
鐘が鳴る。夜が来る。──ママが彼らを呼んでいる。
京都の大学に通う九条マコト(くじょうまこと)と恋人の新田ヒナ(あらたひな)は或る日、所属するオカルトサークルの仲間と、島根にあるという小さな寒村、真理弥村(まりやむら)に向かう。隠れキリシタンの末裔が暮らすというその村には百年前まで、教会に人身御供を捧げていたという伝承があるのだった。その時、教会の鐘が大きな音を立てて鳴り響く。そして二人は目撃する。彼らを待ち受ける、村の「夜」の姿を──。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/1/2:『そうしき』の章を追加。2026/1/9の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/1:『いえい』の章を追加。2026/1/8の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
百の話を語り終えたなら
コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」
これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。
誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。
日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。
そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき——
あなたは、もう後戻りできない。
■1話完結の百物語形式
■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ
■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感
最後の一話を読んだとき、
霊和怪異譚 野花と野薔薇
野花マリオ
ホラー
その“語り”が始まったとき、世界に異変が芽吹く。
静かな町、ふとした日常、どこにでもあるはずの風景に咲きはじめる、奇妙な花々――。
『霊和怪異譚 野花と野薔薇』は、不思議な力を持つ語り部・八木楓と鐘技友紀以下彼女達が語る怪異を描く、短編連作形式の怪異譚シリーズ。
一話ごとに異なる舞台、異なる登場人物、異なる恐怖。それでも、語りが始まるたび、必ず“何か”が咲く――。
語られる怪談はただの物語ではない。
それを「聞いた者」に忍び寄る異変、染みわたる不安。
やがて読者自身の身にも、“あの花”が咲くかもしれない。
日常にひっそりと紛れ込む、静かで妖しいホラー。
あなたも一席、語りを聞いてみませんか?
完結いたしました。
タイトル変更しました。
旧 彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる
※この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体、名称などは一切関係ありません。
エブリスタにも公開してますがアルファポリス の方がボリュームあります。
表紙イラストは生成AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる