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56.吊り橋で出会った子ども④(怖さレベル:★★★)
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大量のその光が、ボッ、
ボッと暗闇の中から湧き出してきているのです。
「……う、わっ」
それはまさに、人魂。
無数に湧き出すそれらは、その美しい光に反して、
ドロドロとも重い圧迫感を与えてきます。
「……、ッ……に……」
と、そんな中、すっかり意識から飛んでいた子どもの声が、
不意に耳に入ってきました。
「……た……に、……の……」
もごもごと、口元を動かすその動作。
ゆらゆらと不安定に揺れる不気味さに、恐怖が更に増幅されます。
「原ァ! まだかよっ!」
「うっせぇ、こっちだって必死に……お、来たぁ!」
ジャッ、とロックの解除される音がして、
俺たちはあちこち身体をぶつけ合いつつ、速攻で車に乗り込みました。
「木ノ下、運転大丈夫だろーな!?」
「や、やるよ、大丈夫……」
ブルン、と幸いエンジンは一発でかかり、
三人のみの閉鎖空間となった車に、俺は急いでアクセルを踏み込みました。
「早く!」
「エンジン全開で!!」
騒ぎ立てる外野を無言でスルーし、ライトをハイビームに設定して、
法定速度超過で山を下り始めたのです。
「……はあー……マジ、肝が冷えたわ……」
現地を離れてしばし。
ホッとしたのか、
原が助手席のシートにドッともたれかかりました。
「俺も……あの子どもも怖かったけど、
あの火の玉……あそこ、マジでヤバいスポットだったんだな……」
後部座席の水島も、残暑の影響だけではない汗を、
ごしごしとぬぐっていました。
「ファミレス行って、一晩明かそうぜ。……怖くてウチ帰れねぇや」
「……だなぁ」
と、二人はだいぶリラックスした様子で会話を続けています。
「……木ノ下。怖かったんだろーけど、なに黙ってんだよ。
そりゃあ、運転ばっかさせて悪いとは思ってるけどさぁ」
何も喋らぬこちらに気づいたらしく、
隣の席の原が絡んできました。
「……別に、怒ってるわけじゃねぇよ」
「そーかよ? それにしちゃ、ずいぶんダンマリ決め込んでんじゃん」
からかうように、ちょん、と腹が腕を小突いてきます。
「っ!?」
キキーッ、と。
うっかりブレーキを踏みこんでしまい、
タイヤがこすれる甲高い音を発しました。
「わっ、悪ィ」
「……い、いや、スマン」
「おいおい、木ノ下。マジでどーしたんだよ」
後ろの水島までもが、訝しがって身を乗り出してきました。
俺はわずかに逡巡した後、
観念して、深く息を吐きだしました。
「…………。……ついて、きてる」
「は?」
「……ついてきてるんだよ、子ども」
バックミラーに映る、車のガラス。
それにがっしりとしがみつく――あの子どもの、顔。
「ッ、うわぁあっ!?」
振り返った水島が、まっ正面に現れた子どもの
目を剥いたその形相に、腰を抜かしてズルズルと座席に沈みました。
「なっ、なんでだよ!?
あん時あいつ、まだあの橋のへんにいたじゃねぇか!」
原もガチガチと奥歯を鳴らしつつ、
両手を祈るように合わせています。
「や、山を下り始めた時、フッとバックミラーを見たら……
あいつ、両手で車体掴んで、ずっと……っ」
「お、おかしいだろ! 人間がこのスピードの車に、
ずっと引っ付いていられるわけ……!」
ガンッ
車体が、唐突に振動しました。
ガンッ、ガンッ
「う、わ……っ」
車体に貼りついた子どもが、
両肘をガンガンと窓ガラスに打ち付けているのです。
「ッ、わかるだろ! に、人間じゃ……アレは人間じゃねぇんだよ!」
グン、とアクセルを更に踏み込み、
山道においてはかなり危険なスピードでどんどん峠を下っていきます。
「あ、あいつ……全然離れねぇ、離れねぇよ!!」
半泣きの原は、両手を合わせてひたすらブツブツと泣き言を喚いています。
「人のいるトコいきゃ、消えるだろ……!
早く、コンビニでもファミレスでも、人のいるトコに……!!」
俺ももう無我夢中で、
ひたすら操作を誤らぬように必死でハンドルにすがりつき、
襲いくる急カーブをぐいぐいと曲がっていきます。
そして、ようやく山のふもとの方まで下りて、
「山、抜けた……っ!!」
山道を抜け、一般道へと合流しました。
「……よ、よし、一刻も早くどっかの店に……!」
すり減った精神になんとか喝を入れた時、
「あ! 消えた! あいつ消えてるよ!!」
助手席で震えていた原が、両手を叩いて歓声を上げました。
「マジか!?」
慌ててバックミラーに視線を向けると、確かに先ほどまでの
あの不気味な子どもの姿は、跡形もなく消え去っています。
「……はぁ~……」
原は、両手を上げて深々とため息を吐きました。
俺も少し気は緩んだものの、
油断した瞬間に再び襲われたらたまりません。
その上、後部座席で目を剥いて失神している水島を放置しておくわけにもいかず、
グッと唇を噛んで、気を緩めることなくファミレスへ直行しました。
「……死ぬかと、思った」
やたらと静かであった水島は、かなり早々と意識を飛ばしていたらしく、
ファミレスに連れ込んで、冷えたおしぼりの洗礼で目を覚ましたのち、
ボソリとそんなことを呟きました。
幸い、ファミレスの明かりの元、
恐々と検分した俺の車には異常はなく、
当然ながら、子どもがへばりついていた跡らしきものもありませんでした。
顔なじみの店員に、顔色の悪さをからかわれて、
ようやく現実に戻ってこられた気分になったものです。
「……あんな、ハッキリ見えるなんてな」
俺も、肩に感じる疲労のままにボソリと声をもらしました。
あの吊り橋からついてきた子どもなど、
まるきり本物の子どものような立体感でした。
途中で一瞬だけ見えた、青い人魂も――
「あーっ!!」
と、唐突に原が両手で頭を抱えました。
「な……なんだよ」
まさか、まだ何か見えたのかと、
テーブルに突っ伏す奴におそるおそる尋ねると、
「バッカ、ちげーよ! せっかく火の玉出たのに……写真、撮り忘れた!」
「……はァ?」
先ほど、アレだけ恐ろしい思いをしたというのにコレです。
俺と水島は、この原のたくましさに、
すっかりあきれ果ててしまいました。
そして、それ以後、
俺たちのところに怪異らしい怪異は起こっていません。
あの子どもも、人魂も、
おそらくあの山に憑いているものなのでしょう。
しかし、前回のガソリンスタンドに、今回の吊り橋。
俺たち三人の肝試しでは、妙に子どもにまつわるものが多いのです。
そうそう、他にも……っと、
これはまた、別の機会にお話することにしましょう。
ボッと暗闇の中から湧き出してきているのです。
「……う、わっ」
それはまさに、人魂。
無数に湧き出すそれらは、その美しい光に反して、
ドロドロとも重い圧迫感を与えてきます。
「……、ッ……に……」
と、そんな中、すっかり意識から飛んでいた子どもの声が、
不意に耳に入ってきました。
「……た……に、……の……」
もごもごと、口元を動かすその動作。
ゆらゆらと不安定に揺れる不気味さに、恐怖が更に増幅されます。
「原ァ! まだかよっ!」
「うっせぇ、こっちだって必死に……お、来たぁ!」
ジャッ、とロックの解除される音がして、
俺たちはあちこち身体をぶつけ合いつつ、速攻で車に乗り込みました。
「木ノ下、運転大丈夫だろーな!?」
「や、やるよ、大丈夫……」
ブルン、と幸いエンジンは一発でかかり、
三人のみの閉鎖空間となった車に、俺は急いでアクセルを踏み込みました。
「早く!」
「エンジン全開で!!」
騒ぎ立てる外野を無言でスルーし、ライトをハイビームに設定して、
法定速度超過で山を下り始めたのです。
「……はあー……マジ、肝が冷えたわ……」
現地を離れてしばし。
ホッとしたのか、
原が助手席のシートにドッともたれかかりました。
「俺も……あの子どもも怖かったけど、
あの火の玉……あそこ、マジでヤバいスポットだったんだな……」
後部座席の水島も、残暑の影響だけではない汗を、
ごしごしとぬぐっていました。
「ファミレス行って、一晩明かそうぜ。……怖くてウチ帰れねぇや」
「……だなぁ」
と、二人はだいぶリラックスした様子で会話を続けています。
「……木ノ下。怖かったんだろーけど、なに黙ってんだよ。
そりゃあ、運転ばっかさせて悪いとは思ってるけどさぁ」
何も喋らぬこちらに気づいたらしく、
隣の席の原が絡んできました。
「……別に、怒ってるわけじゃねぇよ」
「そーかよ? それにしちゃ、ずいぶんダンマリ決め込んでんじゃん」
からかうように、ちょん、と腹が腕を小突いてきます。
「っ!?」
キキーッ、と。
うっかりブレーキを踏みこんでしまい、
タイヤがこすれる甲高い音を発しました。
「わっ、悪ィ」
「……い、いや、スマン」
「おいおい、木ノ下。マジでどーしたんだよ」
後ろの水島までもが、訝しがって身を乗り出してきました。
俺はわずかに逡巡した後、
観念して、深く息を吐きだしました。
「…………。……ついて、きてる」
「は?」
「……ついてきてるんだよ、子ども」
バックミラーに映る、車のガラス。
それにがっしりとしがみつく――あの子どもの、顔。
「ッ、うわぁあっ!?」
振り返った水島が、まっ正面に現れた子どもの
目を剥いたその形相に、腰を抜かしてズルズルと座席に沈みました。
「なっ、なんでだよ!?
あん時あいつ、まだあの橋のへんにいたじゃねぇか!」
原もガチガチと奥歯を鳴らしつつ、
両手を祈るように合わせています。
「や、山を下り始めた時、フッとバックミラーを見たら……
あいつ、両手で車体掴んで、ずっと……っ」
「お、おかしいだろ! 人間がこのスピードの車に、
ずっと引っ付いていられるわけ……!」
ガンッ
車体が、唐突に振動しました。
ガンッ、ガンッ
「う、わ……っ」
車体に貼りついた子どもが、
両肘をガンガンと窓ガラスに打ち付けているのです。
「ッ、わかるだろ! に、人間じゃ……アレは人間じゃねぇんだよ!」
グン、とアクセルを更に踏み込み、
山道においてはかなり危険なスピードでどんどん峠を下っていきます。
「あ、あいつ……全然離れねぇ、離れねぇよ!!」
半泣きの原は、両手を合わせてひたすらブツブツと泣き言を喚いています。
「人のいるトコいきゃ、消えるだろ……!
早く、コンビニでもファミレスでも、人のいるトコに……!!」
俺ももう無我夢中で、
ひたすら操作を誤らぬように必死でハンドルにすがりつき、
襲いくる急カーブをぐいぐいと曲がっていきます。
そして、ようやく山のふもとの方まで下りて、
「山、抜けた……っ!!」
山道を抜け、一般道へと合流しました。
「……よ、よし、一刻も早くどっかの店に……!」
すり減った精神になんとか喝を入れた時、
「あ! 消えた! あいつ消えてるよ!!」
助手席で震えていた原が、両手を叩いて歓声を上げました。
「マジか!?」
慌ててバックミラーに視線を向けると、確かに先ほどまでの
あの不気味な子どもの姿は、跡形もなく消え去っています。
「……はぁ~……」
原は、両手を上げて深々とため息を吐きました。
俺も少し気は緩んだものの、
油断した瞬間に再び襲われたらたまりません。
その上、後部座席で目を剥いて失神している水島を放置しておくわけにもいかず、
グッと唇を噛んで、気を緩めることなくファミレスへ直行しました。
「……死ぬかと、思った」
やたらと静かであった水島は、かなり早々と意識を飛ばしていたらしく、
ファミレスに連れ込んで、冷えたおしぼりの洗礼で目を覚ましたのち、
ボソリとそんなことを呟きました。
幸い、ファミレスの明かりの元、
恐々と検分した俺の車には異常はなく、
当然ながら、子どもがへばりついていた跡らしきものもありませんでした。
顔なじみの店員に、顔色の悪さをからかわれて、
ようやく現実に戻ってこられた気分になったものです。
「……あんな、ハッキリ見えるなんてな」
俺も、肩に感じる疲労のままにボソリと声をもらしました。
あの吊り橋からついてきた子どもなど、
まるきり本物の子どものような立体感でした。
途中で一瞬だけ見えた、青い人魂も――
「あーっ!!」
と、唐突に原が両手で頭を抱えました。
「な……なんだよ」
まさか、まだ何か見えたのかと、
テーブルに突っ伏す奴におそるおそる尋ねると、
「バッカ、ちげーよ! せっかく火の玉出たのに……写真、撮り忘れた!」
「……はァ?」
先ほど、アレだけ恐ろしい思いをしたというのにコレです。
俺と水島は、この原のたくましさに、
すっかりあきれ果ててしまいました。
そして、それ以後、
俺たちのところに怪異らしい怪異は起こっていません。
あの子どもも、人魂も、
おそらくあの山に憑いているものなのでしょう。
しかし、前回のガソリンスタンドに、今回の吊り橋。
俺たち三人の肝試しでは、妙に子どもにまつわるものが多いのです。
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