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90.合宿所の夜①(怖さレベル:★★☆)
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『10代女性 堀米様(仮名)』
そう。あれは高校生の夏休みに起きた、不思議なできごとです。
私は卓球部に所属していて、
その夏は合宿の為、部活メンバー皆でとある
山奥の練習場へ訪れることになりました。
部員全員となるとなかなかの大所帯で、
宿泊用の部屋も、男女別とはいえ、大広間の部屋。
泊まる日数は三日程度ではあるものの、
スケジュール表にはびっしり練習の予定が組み込まれていて、
少々憂鬱にもなったものです。
初日。
現地に到着してすぐに卓球台のセッティングに入り、昼食前に軽めの運動。
その後、食事をとって昼休憩になったその間に、私たち女子部員十名は、
寝室として宛がわれている大広間へと荷物を置くために向かいました。
「わっ……なんていうか……古い……」
友人のリカが、入室してすぐにボソッと感想を漏らしました。
確かに彼女がそう呟くのも共感できるほど、
そこは古びた雰囲気を放っていました。
ところどころ違う畳の色、剥げかけてそのままにされた壁の塗装。
ヒュウヒュウとどこからか吹き込む隙間風に、
エアコンのない扇風機だけが設置された部屋。
公立高校の悲しさか、予算の都合なのでしょうが、
なかなかのオンボロ具合です。
「えーっ、ここで寝るのぉ?」
「うちのバァちゃんちより古いよ、これ」
他のメンバーも口々に文句を言いつつも、
来てしまったものはどうしようもありません。
仕方なしに、しぶしぶと壁際に荷物を寄せていると、
「……ねぇ、なんかさぁ。あそこの壁のシミ、人の形みたいじゃない?」
さきに荷物を下ろしたリカが、部屋のある一点を指さしました。
「ひ、人の形……?」
彼女が見ているのは、この大広間の入口の隅。
ちょうど四隅の北側にあたる場所です。
「うわっ……ホントだ!」
「え~っ、それっぽく見えるだけじゃない?」
他の部員たちも興味を持ったらしく、
そろって皆の視線がそちらへと向かいました。
視線の的、薄茶けたその壁には、
確かに濃い茶色のシミがぼんやりと浮かび上がっています。
形は、彼女の言った通り、長髪の女性が猫背気味に横を
向いているようにも見える、曖昧なシルエットでした。
「もーっ、リカ! 変なコト言わないでよ」
今日からここで寝泊まりするというのに、と彼女のおでこを
つつくも、リカは悪びれもなく笑いつつ、
「ゴメンゴメン。……でもさぁ、こういうトコって、
どうしたって怖い雰囲気あるじゃん?
もしかしたら……畳の裏とかに、お札貼ってあったりして!」
「い、いやいや……ないでしょ。ない、って」
そんな現実離れしたことあってたまるかと全力で首を振れば、
彼女はニヤリと上目遣いに腕を組んで、
「そーかなぁ? 卒業しちゃった先輩に聞いたら、
いつだったかの合宿先で、額縁の裏にマジで見つけた、って話だよ」
「えっ……ほんと?」
そんなできごとがリアルにあるなんて、と皆がビビりつつ、
なるべくそのシミを目に入れぬよう、慌てて荷物を片付けたのでした。
そして、その日の就寝時。
消灯時刻は夜の十時、などと決められていましたが、そこは高校生。
部活の仲間たちと一緒、などという状況で、
素直にさぁ寝よう、なんてなるはずもありません。
布団を円形にぐるりと敷き、おしゃべりに花を咲かせていました。
「あの後輩の子さぁ、テニス部の子が好きらしいよ~」
「へぇー! でも、その子、もう付き合ってんじゃなかったっけ?」
「あれでしょ? 生徒会の子だっけ? めっちゃ難関大学進学するって聞いたけど……」
などという、取り留めもない会話で盛り上がっていたのですが、
「ねぇ、なーちゃんはどう思……って、もう寝てるし」
「あ、こっちのユキもだ」
なにせ、過密スケジュールで疲れ切った日の夜です。
ワイワイとはしゃいでいた声が、いつの間にやら、
一人、また一人と減っていきました。
「みんな、寝ちゃったねぇ」
「あーあ、残念。もういっちょ、枕投げでもしたかったのになぁ」
ゴロゴロと布団の上を旋回しつつ、リカは欠伸しつつ伸びをしました。
「それは明日のお楽しみ、かな。私たちもそろそろ寝よっか」
「ん~……そーだねぇ」
彼女はまだ話したりなさそうに、
しばらく手足をばたばたさせていました。
しかしどうやら、眠気には勝てなかったようで、
なにごとかをもにょもにょと呟きつつ、柔らかい布団の上に沈んでいきました。
(さぁ、私も寝よう……)
とは思ったものの、他のメンバーと異なり、
私は枕が変わるとなかなか寝付けない性質です。
どうせ熟睡はできないなぁ、と半ば諦めつつ、
ゴロリと背中をしき布につけました。
>>
そう。あれは高校生の夏休みに起きた、不思議なできごとです。
私は卓球部に所属していて、
その夏は合宿の為、部活メンバー皆でとある
山奥の練習場へ訪れることになりました。
部員全員となるとなかなかの大所帯で、
宿泊用の部屋も、男女別とはいえ、大広間の部屋。
泊まる日数は三日程度ではあるものの、
スケジュール表にはびっしり練習の予定が組み込まれていて、
少々憂鬱にもなったものです。
初日。
現地に到着してすぐに卓球台のセッティングに入り、昼食前に軽めの運動。
その後、食事をとって昼休憩になったその間に、私たち女子部員十名は、
寝室として宛がわれている大広間へと荷物を置くために向かいました。
「わっ……なんていうか……古い……」
友人のリカが、入室してすぐにボソッと感想を漏らしました。
確かに彼女がそう呟くのも共感できるほど、
そこは古びた雰囲気を放っていました。
ところどころ違う畳の色、剥げかけてそのままにされた壁の塗装。
ヒュウヒュウとどこからか吹き込む隙間風に、
エアコンのない扇風機だけが設置された部屋。
公立高校の悲しさか、予算の都合なのでしょうが、
なかなかのオンボロ具合です。
「えーっ、ここで寝るのぉ?」
「うちのバァちゃんちより古いよ、これ」
他のメンバーも口々に文句を言いつつも、
来てしまったものはどうしようもありません。
仕方なしに、しぶしぶと壁際に荷物を寄せていると、
「……ねぇ、なんかさぁ。あそこの壁のシミ、人の形みたいじゃない?」
さきに荷物を下ろしたリカが、部屋のある一点を指さしました。
「ひ、人の形……?」
彼女が見ているのは、この大広間の入口の隅。
ちょうど四隅の北側にあたる場所です。
「うわっ……ホントだ!」
「え~っ、それっぽく見えるだけじゃない?」
他の部員たちも興味を持ったらしく、
そろって皆の視線がそちらへと向かいました。
視線の的、薄茶けたその壁には、
確かに濃い茶色のシミがぼんやりと浮かび上がっています。
形は、彼女の言った通り、長髪の女性が猫背気味に横を
向いているようにも見える、曖昧なシルエットでした。
「もーっ、リカ! 変なコト言わないでよ」
今日からここで寝泊まりするというのに、と彼女のおでこを
つつくも、リカは悪びれもなく笑いつつ、
「ゴメンゴメン。……でもさぁ、こういうトコって、
どうしたって怖い雰囲気あるじゃん?
もしかしたら……畳の裏とかに、お札貼ってあったりして!」
「い、いやいや……ないでしょ。ない、って」
そんな現実離れしたことあってたまるかと全力で首を振れば、
彼女はニヤリと上目遣いに腕を組んで、
「そーかなぁ? 卒業しちゃった先輩に聞いたら、
いつだったかの合宿先で、額縁の裏にマジで見つけた、って話だよ」
「えっ……ほんと?」
そんなできごとがリアルにあるなんて、と皆がビビりつつ、
なるべくそのシミを目に入れぬよう、慌てて荷物を片付けたのでした。
そして、その日の就寝時。
消灯時刻は夜の十時、などと決められていましたが、そこは高校生。
部活の仲間たちと一緒、などという状況で、
素直にさぁ寝よう、なんてなるはずもありません。
布団を円形にぐるりと敷き、おしゃべりに花を咲かせていました。
「あの後輩の子さぁ、テニス部の子が好きらしいよ~」
「へぇー! でも、その子、もう付き合ってんじゃなかったっけ?」
「あれでしょ? 生徒会の子だっけ? めっちゃ難関大学進学するって聞いたけど……」
などという、取り留めもない会話で盛り上がっていたのですが、
「ねぇ、なーちゃんはどう思……って、もう寝てるし」
「あ、こっちのユキもだ」
なにせ、過密スケジュールで疲れ切った日の夜です。
ワイワイとはしゃいでいた声が、いつの間にやら、
一人、また一人と減っていきました。
「みんな、寝ちゃったねぇ」
「あーあ、残念。もういっちょ、枕投げでもしたかったのになぁ」
ゴロゴロと布団の上を旋回しつつ、リカは欠伸しつつ伸びをしました。
「それは明日のお楽しみ、かな。私たちもそろそろ寝よっか」
「ん~……そーだねぇ」
彼女はまだ話したりなさそうに、
しばらく手足をばたばたさせていました。
しかしどうやら、眠気には勝てなかったようで、
なにごとかをもにょもにょと呟きつつ、柔らかい布団の上に沈んでいきました。
(さぁ、私も寝よう……)
とは思ったものの、他のメンバーと異なり、
私は枕が変わるとなかなか寝付けない性質です。
どうせ熟睡はできないなぁ、と半ば諦めつつ、
ゴロリと背中をしき布につけました。
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