【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~

榊シロ

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102.オフィスビルの空階①(怖さレベル:★☆☆)

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『30代男性 葉上さん(仮)』

えぇと、こういう場所をいただいておいてなんですが、
これからお話するのは……正直、あまり怖くはないと思います。

なんせ、幽霊の姿を見たわけじゃないし、
疲れてみた幻覚だとか、ただの第六感……といわれればそれまでですし。

それでも……オレにとっては、人生のなかで一番ショック受けた……おそろしい体験です。

その頃。社内でオレが関わっていた完成間近のプロジェクトに、
大きなミスがあったことが発覚しました。

帳尻をあわせるため、日々終電まで残務をこなしたり、休み返上で出社したり。
ひどい時には会社に泊まりこんでまで、職務を進めていたんです。

無論、関わっていたのはオレだけではありません。
あんまりな激務に退職する人も続出してしまって……そのせいで、余計に仕事が増えて。
もう、ひたすらに悪循環で。

そんなあり様ですから、体調は毎日どこかおかしくて、
耳鳴りは日常茶飯事。睡眠をとっても体はフラフラ。

精神状態も、とてもふつうではありませんでした。

説明を忘れていましたが、うちの会社が入っていたビルは十三階建てで、
うちのオフィスは五階に入っていました。

ビル内はすべてが埋まっているわけではなく、
当時、四階と十一階、それに最上階もたしか空いていたのを覚えています。

その日の夕方も、夜間の仕事にそなえ、夕食のサンドイッチと暖かいコーヒーを買い、
エレベーターで五階のオフィスに戻ろうとしていました。

せまい箱内に体を入れ、ゆううつなため息をつきながら移動ボタンに手を伸ばすと、

「あ……ヤベ」

疲労で重くなった指先が、
うっかり空き階である四階のボタンを押してしまったんです。

(しょーがない……)

エレベーター内は自分ひとりしかいないし、
ついたらすぐ「閉」ボタンを押せばいいだけだと、のんびりと揺られていると、

チーン……

すぐに、エレベーターが階への到着を知らせました。

「……あ、れ?」

ウィーン……となめらかに開いた扉のさきを見て、
オレはまぬけな声をあげました。

どこの会社も入っていない、からっぽのはずのそこ。

だというのに、廊下には照明が点灯していて、
閉じられた扉の向こう、すりガラス越しにうっすらと見える事務所内では、
動いている人影が見えるのです。

(近々どっか入るんで……整理でもしてんのか)

ビルの案内板には、なんの通達もありませんでしたが、
もともと、ここの管理者は電気工事の入る日を前日まで告知してこなかったりと、
適当で知られている人間です。

まぁいつものことだろうと、オレは深く考えませんでした。

そうこうしているうちにエレベーターの扉は閉まり、
五階のオフィスへと移動していきます。

(ま……そのうち、わかるだろ)

睡眠不足でボーッとする頭をおさえつつ、
オレは自分の机へと向かいました。



そして、そんなことがあったのも忘れるほど、
仕事に忙殺されて、しばらく。

激務だった仕事に、ようやく光明がさしてきました。

過労死寸前、という状態に追い込まれていたオレたちも、
ようやく、ある程度まとまった休みがとれるようになったのです。

オレはその日、翌日から数か月ぶりの二連休がとれることに浮かれつつ、
いつものように、コンビニ帰りのエレベーターに乗り込みました。

ほんとうに、久方ぶりの連休です。

たっぷり眠って、起きたら日帰り温泉でも行って……と、
ウキウキと心を弾ませていたところ、

チーン……

エレベーターが、到着を知らせてきました。

(さ……あと少し、がんばるか)

コンビニ袋を力強く握りしめ、エレベーターを降りて――気づきました。

「……あれ?」

いつものオフィスと、内装がちがう。
振り返って階数を確認すると、壁には「四階」と記されていました。

(あれ……押し間違えたっけ……?)

いつぞやのように、明確にまちがえた、という覚えはありません。

とはいえ、浮かれていたのは事実ですし、
無意識のうちに、ズレて押していたのかもしれません。

(もう一階、エレベーターを……ってうわ、十二階に行っちゃってる)

▲ボタンを押そうとしたものの、
エレベーターは最上階近くで止まり、なかなか動き出しません。

(……階段、使うか)

あまりながながと待ってもいられません。

オレは時計をチラリと確認し、
ふだんはめったに使わない、階段を上ることにしたのです。

ビルの構造で考えると、だいたいはエレベーターのすぐそばに階段があると思いますが、
このビルではなぜかエレベーターの反対側。

つまり、オフィス前の廊下をつっきった、
一番向こうに非常階段が設置されていました。

(明かり……やっぱ、ついてるな)

いつだか見たときと同様、オフィスの表札はないものの、
昼白色のまばゆい光が、すりガラスからこぼれていました。

(いい加減、準備が長すぎるよな。だって……あれから、何週間だ?)

内装を整えたり、機材を配置するにしても、時間がかかりすぎていました。
元来オフィスビルですし、工事などは基本、必要ないはずなのです。

パソコン機器や資料、棚の移設をするにしたって、
こんな時間――夜の八時までやっているのはどう考えてもおかしい。

と、そこまで考え、オレはハッとしました。

(ふ、不法侵入……?)

詐欺グループや、裏社会の犯罪者が、
空き部屋を勝手に利用して、なにかやっているのかもしれない。

それならば、いつまでたっても表札に入らないのも、
上の階であるうちのオフィスにあいさつに来ないのも頷けます。

(……管理に連絡するか?)

もしそうだとしたら、
単身、自分がのりこんだとしてもどうにもなりません。

すぐオフィスに戻って確認をしようと、
こそりこそりと足音を殺して、そそくさと反対側の外階段へ向かいました。

「…………」
「…………」

(……なんか、話し声が聞こえるな)

壁をはさんだ正面の通路をしのび足で進んでいる時、
ふと、話し声が耳に入ってきました。

不届きものたちの会話です。
いったいどんな話をしているやらと、オレはそっと聞き耳をたてました。

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