【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~

榊シロ

文字の大きさ
359 / 415

141.立体駐車場に出る幽霊③(怖さレベル:★★☆)

しおりを挟む

でも、今開けたら――向かいの車の女性も降りてきてしまうかもしれません。

別に悪いことをしたわけでもありませんが、
なんだか、視線がとても恐ろしいのです。

獲物を見つけたヘビの目、とでも言うのでしょうか。
関わったら危険だと、ぼくの中のセンサーがチカチカ光っているんです。

彼女が、ゲートをくぐって階下に下って行ったら、券を拾おう。

ぼくは少しだけ待っているつもりで、
ふと、発券機から視線をそらして、停まっている車たちに目を向けました。

「ん……? なんだ……?」

と、その時、気づいたんです。
この辺りに停まっている車たちの、その異様さに。

(やけに古い……いや、これは……もう、錆びている……!?)

ズラリと駐車場を埋めている、その車たち。

それは『年季が入っている』とだけ言うにしては
あまりにも様子がおかしかったんです。

塗装は剥がれ、端はへこみ、
ナンバープレートが外れていたり、ガラスがヒビ割れていたり。

もはや『古い』どころじゃありません。

廃車寸前。
いや、廃車そのものじゃないか、というレベルのものばかりだったんです。

「え……これ……」

駐車場に置いてあるにも関わず、
どう見たって、乗車なんてできる状態じゃありません。

じゃあ、コレはいったい――と、ぼくが戦慄を覚えたときです。

ピー……キュルッ
キュキュッ……ギュギュギュッ

駐車券の発券機が、さっきと同様に、
異様な音を発し始めました。

駐車券は、入れていないのに。

もしかして、さっきの女性がまだ?

そう思って車から視線を発券機に戻すも、
あの車も女性も、キレイさっぱり、姿を消していました。

(え、いつの間に……!?)

目を離していたのは、ほんの数秒です。

車が動いた音だってしなかったし、
ルームミラーで後ろを確認してみても、さっきの車らしきものはありません。

おかしい。なんだか――おかしい。
ぼくは、背中がゾクゾクと震えてきました。

(ここ……なんか、ヤバくないか……!?)

この駐車場は、あきらかにおかしい。

ぼくはジワジワと湧き上がるイヤな予感に、
慌ててドアを開けて、駐車券を拾い上げました。

もう、ここに車を停めるのをやめようか。

でも、そんな。
こんな真昼間に、オカルト現象に遭遇するなんて、ありえるだろうか?

ぼくは拾った駐車券を握りしめつつ、
どうしても今起きている異様な現象を信じたくない、
自分の常識と戦っている、と。

チカッ……

また、上の階から一台、車がスゥッと下りてきました。

光るライトがまぶしく、ぼくは目を細めて、
その車に視線を向けたんです。

「……ひ、ッ!?」

まったく、同じ。
さっきと同じ――同じ、女の人が乗っている!!

車の種類も、ナンバーも、中の女性も。
まったく一緒です。一緒――そんなこと、ありえないのに!

さっき、バーが上がらないから、バックで引き返していた?

いや、車のタイヤが床をこする音は聞こえませんでした。
それに、さすがにそんな動きをしていれば、
いくらよそ見をしていたって、ぼくだって気づいたはず。

ピー……キュルッ
キュキュッ……ギュギュギュッ

発券機が、ギィギィといびつな音を上げています。

向かい側の車の女性は、やはりあの厚化粧の顔で、
ジッと、ジーっと、ぼくのことを見つめていました。

「ひ、っ……く、ッ!!」

ぼくは、もう、耐えきれませんでした。

とっさに、開いていた駐車スペースにバックで車をつっこむと、
そのまま回れ右をして、立体駐車場を下ったのです。

(もう、こんなところに車なんて停められない……!)

六階、五階、四階。
事故を起こさないよう、スピードは上げすぎず。

でも、ハンドルにしがみつくように力を込めて。

ええ――下っている最中は、まったく、生きた心地がしませんでしたよ。

ようやく一階の出口についたときには、ぼくはもう、汗びっしょりでした。

ピー……キュルッ
キュキュッ……ギュッ

手の中で、ちょっとしめった駐車券が機械に飲み込まれて、
ちゃんとバーが上がって通れた瞬間、ほんとうに、心の底からホッとしました。

慌てて駐車場の外へ飛び出して、
夕焼けの光の下に戻れたときには、
車の中で、ちょっと泣いてしまったくらいです。

もう、エアコンなんてどうでもいい。
とにかく家に帰りたい。

ぼくは半泣き状態でそう思い、
最後『二度とこの立体駐車場になんかくるもんか』と心に決めて、
にらむように振り返ったんです。

「――え?」

そこに建っていたのは、約十五階はあろうかというマンション。

ええ、そうです。そこに、立体駐車場なんてなかったんですよ。

ぼくはもう、わけがわかりませんでした。
だって、ほんの数秒前、そこからでてきたばっかりだったんですよ。

でも、何度目をこすっても、目の前には大きなマンションがあって、
自分がいるのは、その地下駐車場からの入口のところ。

慌ててナビを確認しましたが、
そこに掲載されているのは、立体駐車場ではなく、ただの番地のみ。

ナビに従ってここまで来たはずなのに、
まるで、キツネに化かされたような気分でした。

まぁ……ほんとうに、なんともおかしな話でしょう?

化かされたというか、遊ばれたというか……。

しかしまさか、あんな町の中で、
奇妙な体験をするなんて、思いもしませんでした。

ぼくは逃げてきたからいいものの、
もしあのまま、あそこに車を停めて、下りていたら、いったいどうなっていたんでしょう。

車が消える、だけならまだしも、
ぼく自身が、どこか別の世界に取り込まれていたかもしれません。

そう思うと、本当に恐ろしい出来事でした。

あの場所に建っていたマンション。
もしかしたら、以前は立体駐車場だったのかもしれませんね。
ちょっと……その、恐ろしくて、調べる気にもなれませんが。

ぼくが体験した話は、以上になります。
皆様、どうか、いつもと違う場所を利用するときには、重々お気をつけて。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

ママが呼んでいる

杏樹まじゅ
ホラー
鐘が鳴る。夜が来る。──ママが彼らを呼んでいる。 京都の大学に通う九条マコト(くじょうまこと)と恋人の新田ヒナ(あらたひな)は或る日、所属するオカルトサークルの仲間と、島根にあるという小さな寒村、真理弥村(まりやむら)に向かう。隠れキリシタンの末裔が暮らすというその村には百年前まで、教会に人身御供を捧げていたという伝承があるのだった。その時、教会の鐘が大きな音を立てて鳴り響く。そして二人は目撃する。彼らを待ち受ける、村の「夜」の姿を──。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/1/2:『そうしき』の章を追加。2026/1/9の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/1:『いえい』の章を追加。2026/1/8の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

百の話を語り終えたなら

コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」 これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。 誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。 日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。 そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき—— あなたは、もう後戻りできない。 ■1話完結の百物語形式 ■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ ■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感 最後の一話を読んだとき、

霊和怪異譚 野花と野薔薇

野花マリオ
ホラー
その“語り”が始まったとき、世界に異変が芽吹く。 静かな町、ふとした日常、どこにでもあるはずの風景に咲きはじめる、奇妙な花々――。 『霊和怪異譚 野花と野薔薇』は、不思議な力を持つ語り部・八木楓と鐘技友紀以下彼女達が語る怪異を描く、短編連作形式の怪異譚シリーズ。 一話ごとに異なる舞台、異なる登場人物、異なる恐怖。それでも、語りが始まるたび、必ず“何か”が咲く――。 語られる怪談はただの物語ではない。 それを「聞いた者」に忍び寄る異変、染みわたる不安。 やがて読者自身の身にも、“あの花”が咲くかもしれない。 日常にひっそりと紛れ込む、静かで妖しいホラー。 あなたも一席、語りを聞いてみませんか? 完結いたしました。 タイトル変更しました。 旧 彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる ※この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体、名称などは一切関係ありません。 エブリスタにも公開してますがアルファポリス の方がボリュームあります。 表紙イラストは生成AI

処理中です...