【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~

榊シロ

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149.浸食するホラーゲーム③(怖さレベル:★★☆)

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おかしい。
部屋を出たときには、あのシューティングゲームのままだったはず。

いや、そもそも。
例のホラーゲームはパッケージにしまって、袋の中に入れたはず――。

とっさに立ち上がろうとしたものの、
体が硬直し、動くことができません。

電源を落とそうにも、コントローラーを握ったまま、
腕が――いや、指の"一本ですら、動かすことができないのです。

(これ……もしかして、金縛り……!?)

おれが身動きひとつとれないでいる間にも、
テレビ画面では、ゲームがだんだんと進行していきます。

なに一つ動かしていないのに、スタート画面が起動され、
ホラーゲームのセーブデータが読み込まれていくのです。

(あり得ねぇ……だって、メモリーカードは手島のうちにあるんだぞ……!?)

それなのに、ゲーム画面は、手島とプレイしていたところまで進んでいたんです。

主人公である少女は、画面の中央でポツン、と立ちすくんだまま。

謎解きのウィンドウも出ないし、
BGMも、ずっと同じところをループし続けています。

いったいこれから、どうすればいいのか。

いや――これはいったい、どうなるのか。

おれが金縛りにあったまま、呆然と画面を見つめている、と。

ふわん

どこからともなく、不思議な香りが漂ってきました。

まるでいちご、いや、ブルーベリー、
いや、もっとこう、甘ったるくて、鼻に残るような匂い――。

(こ……この、匂い……!!)

一度嗅いだ覚えのある、この匂い。

いや、一度じゃありません。
この匂いは――どこかで。

(あ……手島のうちで、似たような……)

ヤツの部屋に入ったとき。
そして、トイレに入ったとき。

強烈な芳香剤の香りに紛れて、
わずかに甘い、果物のような香りがした、ような――。

まったく動けないおれの前で、
ゲーム画面にたたずむ少女の後ろで、なにかが動きました。

「……ひっ……!!」

じわりじわりと、カゲロウのように画面がゆらめき、
うっすらと黒っぽい影のようなものが、少女の体にまとわりついていきます。

それはまるで、謎解きに失敗し、
例の香りにまとわりつかれ、ゲームオーバーになる直前と同じ――。

「……っ、う……っ!」

動かない体。勝手に進むゲーム。鼻腔をつく甘い香り。

気を失いかねないほどの恐怖に、
ガチガチと奥歯がひどい音を立てます。

金縛りの体は、それに抗うかのようにガクガクと震え、
顔も、手も、足も、全身が小刻みに揺れ出しました。

あまりの震えに、持っていたコントローラーがするりと指から離れ、
ベッドのシーツの上で跳ねて、床に落ち――

――バチンッ!!

瞬間、ゲーム機がショートしたかのような火花を発して、
テレビ画面が真っ暗になりました。

「うわっ!?」

驚きで、おれはもんどりうってひっくり返り、
体の主導権を取り戻しました。

ガバッと起き上がってテレビを見ると、
そこは、なにも映らない画面が、ただ黒く映っているだけ。

額からはダラダラと冷や汗が流れ出し、
おれはその場で、深々とため息を吐き出しました。

「ハァ……い、今のは……いったい……」

ホッと肩の力を抜いて、周囲をきょろきょろと見回した、
まさにその時でした。

ブワッ

背後から、強烈な香りがしました。

「……う……!!」

再び、おれの体はカチンと硬直しました。
金縛りではないのに、恐怖と緊張で、指一本動かせません。

感じるのは、甘い、とても甘い、匂い。

いちごのような、ブルーベリーのような。
桃とも、りんごとも違う、甘くてドロリとした香り。

みずみずしさを失い、どこか重さのある、
例えるなら腐臭のような、苦さをわずかににじませた、そんな。

そんな不気味な香りが、まるで浴びせかけられたかのように強烈に、
おれの背後から匂っているのです。

むせ返るほど濃く、香水よりも強く。

誰もいないはずの自室。
それなのに――おれの後ろに、なにかがいる。

(幽霊……幽霊の、匂い)

あのゲームと、同じ。
幽霊が近づくと香る、熟れ過ぎた果物の匂いが、すぐ、真後ろに。

(助け……誰か、助けて……!!)

おれは身動きがとれないまま、必死に心の中で叫びました。

家族でも、友だちでも、誰でも、なんでもいい。

このままじゃ、ゲームの中の主人公のように、
幽霊に襲われてのバッドエンド。

現実ではきっと、死んでしまう――!!

全身が、さきほどの比ではないくらい震え始めました。
ギッギッと、恐怖のボルテージによって、ベッドまでもが激しく振動し始めます。

ガタガタ、ガタガタ。

その勢いで、ベッドの隣の本棚が揺れ、
積み上げられていたたくさんの本が、バサバサと宙を舞い、
バサバサバサッ、と床の上に落ちて――

――ブツッ

パッ、と消えていたテレビ画面がついた瞬間。

『ぎゃぁぁああ!』

背後からものすごい悲鳴が響いたかと思うと、
むせ返るほどの強烈な匂いと気配が、一瞬にして消え失せました。

「……は、っ!?」

とっさに振り返ったおれの目の前には、
ただただ、なにもない部屋の壁があるだけ。

香りも、幽霊の気配も、
初めからなにもなかったかのように消え去っていました。

おれは呆然としたまま、点いたテレビに視線を動かすと、
画面はゲームではなく地上波の、なんてことない旅番組を放映していました。

「……え、まさか、これ……」

そこは、芸能人が訪れているお寺が映っていて、
そこのお坊さんがお経を唱えているシーンが映し出されていたんです。

よくよく見ると、それはあのゲームの中盤に登場していた、
お寺の風景によく似ていました。

(まさか……あのゲームにかかわりが……?)

番組はあっという間にお寺から飲食店に場面が変わり、
どこの場所だったかすらもわからなくなってしまいました。

おれはドッと気がぬけてベッドの上にへたりこんだものの、
ハッとして慌ててゲーム機からディスクを取り出しました。

やはりそれは、あの、ホラーゲーム。
さっき一度、パッケージの中にしまいなおしていたはずなのに。

おれは正直、パッケージを見るのすら恐ろしく、
グルグル巻きでタオルに包んだ後、
適当な交通安全や厄除けのお守りいくつかを上に重ね、
部屋のすみっこに盛り塩をしてその下に封印しました。

まぁ……その後、シューティングゲームもやる気にならず、
ゲーム機ごとコンセントを抜いて放置しておいたのが効いたのか、
手島のうちにゲームを持ち込むまで、なにごとも起きることはありませんでした。

次にヤツの家に行った時、
『これ混ざっちまってた』と言って、例のゲームごと突き返しましたよ。

え? ゲームの続き?
いや、おれはやりませんでしたよ。

あのまま続きやったらそれこそ呪われそうだったし……
まぁ、クリアしないままってのも、それはそれでよくないことが起こりそうな気もしましたが、
あのゲーム、そもそもクリアできるのかわかんなかったですし。

ほら……おれ、レビューを調べた、って言ったでしょ?

さすがにあんな目にあって、おれはもっと詳しく、
ゲームについてアレコレ調べたんですよ。

そしたらようやく、あのゲームの詳細な攻略情報を載せてる、
個人ブログみたいなのにいきつきまして。

そこに書かれていたルートは
『本館、別棟、地下室を探索したのち、別の館に移動して、クリア』
つまり、寺や墓場、なんてシーン、そもそも存在していなかったんです。

でも、おれたちがプレイしたゲームにはあった。
それがいったい何を意味しているのかは……おれには、わかりません。

ま……この話、手島のヤツには教えてないんですけどね。

でも、ヤツも思うところはあったみたいで、
例のホラーゲーム、どっかに売っぱらっちまったみたいですよ。

最新のゲームだったら、ネット上にさんざん情報は出回ってるだろうし、
おれがあんな体験をしたのも、古いゲームゆえだったんでしょう。

もう二度とホラーゲームをやろうとは思いませんが、
好奇心旺盛な方は、昔のゲームを探ってみると、
思わぬ掘り出し物があるかもしれませんよ?

おれの話は以上です。ありがとうございました。
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