徳川慶勝、黒船を討つ

克全

文字の大きさ
14 / 56
第1章

11話

しおりを挟む
 尾張家当主徳川慶恕は本気だった。
 本気で大納言徳川家祥に子供をもうけさせようとしていた。
 少なくとも第十二代将軍・徳川家慶と徳川家祥にはそう見えた。
 それは忌引日に当たる月の半分以上の日数、徳川家慶と徳川家祥に加え、徳川家祥の御簾中・鷹司任子を尾張家上屋敷に招待する事でも明らかだった。

 徳川家慶と徳川家祥だけでなく、鷹司任子の生命力も回復させる気だった。
 本丸大奥に入り、いつ毒殺されるかからない状態、本人は無事でも子供が毒殺されるか分からない状態を避けるために、二之丸のいるうちに妊娠出産させたいのだと、前回の諌言で徳川家慶と徳川家祥にも理解できた。

 しかも手の込んだ方法を使って、鷹司任子の元気を取り戻させていた。
 京育ちの鷹司任子が喜んで食べられるように、京大阪の料理人を召し抱え、京大阪の味付け、料理を取り揃えて提供するのだ。
 京で特に喜ばれる塩鯖と学鰹を提供したのだ。
 山国の京では、生きたまま身が腐るというほど傷むのが早い鰹は食べることができないので、別の魚を学鰹(まながつお)と呼んで食べていた。

 更に京でよく食べられていた鱧の料理。
 特に落としと呼ばれる、湯引きした鱧を梅肉と酢味噌で供してよろこばれた。
 もちろん照り焼きも鷹司任子に喜んで食べられ、食欲が改善された。
 海が遠い京では、江戸の人間が考えるよりも淡水魚が好まれていたのだ。

 そこでほかの淡水魚も鷹司任子に供された。
 鯉はうま煮、鯉こく、甘露煮、梅煮込みにされた。
 鮒は鮒寿司、鮒味噌、昆布巻き、天ぷら、甘露煮、すずめ焼きにされた。
 鯎は甘露煮、塩焼き、天ぷら、燻製、いずしにされた。
 追河はちんま寿司・甘露煮、唐揚げ、テンプラにされた。
 川鯥は甘露煮、唐揚げ、テンプラにされた。
 鮎は甘露煮、塩焼き、てんぷら、燻製にされた。
 さすがに徳川慶恕も、刺身や洗いを提供する危険は冒さなかった。

 どれも鷹司任子は喜んで美味しそうに食べていたが、特に美味しそうに食べていたのは、若鮎を塩焼きにしたものを蓼酢や蓼味噌で食べる事だった。
 次に喜ばれたのが、湯引きした鱧を梅肉で食べる事だった。
 鷹司任子と打ち解けられた頃に徳川慶恕がお願いされたのが、軍鶏を豆乳で煮た鍋もので、これは徳川家慶と徳川家祥も喜んで食べていた。

 もちろん牛の味噌漬けは当然として、軍鶏鍋に牡丹鍋、紅葉鍋に鯨料理といった、鳥獣料理も提供していたが、失敗した料理もあった。
 京でも江戸と同じように豆腐料理が好まれたのだが、大切な水の質が違うのか、鷹司任子に喜んでもらえる豆腐料理が完成するまでに時間がかかってしまった。
 だが食養が成功したのか、徳川家祥と鷹司任子の仲がすこぶるよくなり、懐妊の兆しが見えたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

処理中です...