徳川慶勝、黒船を討つ

克全

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第1章

19話

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 徳川慶恕は、将軍家慶公には大法馬金の再鋳造を願い出たが、自分ではそのような手間はかけなかった。
 そもそも尾張家には小判の鋳造権がない。
 諸藩の中には、幕府の許可を得て銅銭を鋳造する権限を得ている者がいる。
 諸藩の中には、許可もないのに天保銭を鋳造して、苦しい勝手向きを補っていた者もいるので、慶恕が願えば小判や二分金一分金の鋳つぶす許可は貰えただろう。

 だが慶恕に小判を鋳つぶす無駄な労力と費用と使う気など、最初からなかった。
 慶恕が欲しかったのは、清国や南蛮の拠点に直接行く権利だった。
 自ら商品を持っていければ、今迄よりも有利に商売ができると考えていた。
 同時に、蘭国からだけでは手に入れる事ができない技術を、手に入れたかった。
 清国と南蛮の情報を此方から集めに行きたかった。
 特に清国と南蛮の争いを逸早く知りたかった。

 幕府と尾張派は、権現様の大法馬金の再鋳造の大義名分の下で、大量の金を集め軍資金として備蓄した。
 徳川慶恕に近づきたい諸藩や幕臣が、進んで金を集めてきてくれた。
 徳川慶恕は彼らの労力に報いるために、持ってきてくれた金に、その日の相場に五分ほどの利益を乗せて銀と交換してやった。

 金銀相場が徐々に金高にふれていった。
 徳川慶恕のもくろみ通りだった。
 徳川慶恕は銀相場をできるだけ南蛮に近づけたかった。
 金一両が銀六十五匁銭七千文を、金一両銀二百匁銭一万文くらいにしたかった。
 急ぎそうしなければ、琉球貿易をしてしる薩摩藩と、蜜貿易をしている西国諸藩によって、日本の富が流出されてしまうと、激しく危機感を持っていた。

 だからなりふり構わず貿易に力を入れ、銀を日本に輸入した。
 その為の俵物を集めるために、アイヌとの貿易条件を緩和して、アイヌの労働意欲を高めるだけでなく、オロシャ人や沿海人カムチャッカ人と密貿易させた。
 米や麦、酒や焼酎をオロシャ人達に渡し、俵物や毛皮を集めさせた。
 オロシャの珍しくて貴重な毛皮が大量に手に入った。

 徳川慶恕の当面の目標は、いま日本に流通していると思われる、二千三百万両程度の金をできるだけ回収し、軍資金として備蓄する事だった。
 同時に不足する流通貨幣を補うために、いま日本に流通していると思われる、千八百万両程度の銀貨を、四千万両くらいに増やす事だった。

 そのためにも、計数銀貨として大成功した天保一分銀の生産を再開させた。
 幕府に天保一分銀を大量産させて、それで国内の金を回収させた。
 それにより南蛮が開国を強制させるまでに、金銀の交換比率を南蛮と同じにしようとしていた。
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