徳川慶勝、黒船を討つ

克全

文字の大きさ
26 / 56
第1章

23話

しおりを挟む
「清国の状態はどうであった」

 徳川慶恕は清国に送り込んだ密偵から報告を受けていた。

「無残な状態でございました。
 前回の戦争以後、役人の不正と汚職がはびこり、欽差大臣耆英が長江河口以南のアヘン貿易を非公式に黙認したため、清国内はアヘンで骨抜きになりかけております」

 富山の薬売りから抜擢した、薬売り兼業の同心や、北前船や菱垣廻船の乗り組員だった者を武士に抜擢して、以前の仕事を続けながら武士を名乗る事を許していた。

「では、清国国民は南蛮と戦う意思をなくしたのか?」

 一番大切な情報だった。
 清国と同盟して南蛮と戦うことができるのか、清国を打倒するような新王朝に建国させて新生志那国と手を組んで南蛮と戦うのか、それとも清国のまま侠客郷党と手を結んで南蛮と戦うのか、見極めようとしていた。

「いえ、そうでもございません。
 広東内外に住む住民の間では、外国人排斥運動が盛んとなっております。
 広州にある英国商館が焼き打ちされたり、英国人が襲撃されたりしております」

 密偵の話を聞いて少なくとも幕府が単独で南蛮と戦わなくてすむことが分かった。
 外様が南蛮に藩領売りはらうような状況になっても、清国内に共に戦ってくれる同盟相手を見つけることができると安堵した
 他の密偵の話も聞かなければいけないが、最悪の想定にはならないと安心した。

「今まで通り交易で利益を上げても大丈夫か。
 こちらから軍資金を支援する必要はあるのか」

 重要な問題だった。
 将軍や幕閣から絶大な支持を得られているのは、交易で莫大な利益を上げ、その半分を献上しているからだ。
 その利益を失った上に、軍資金を支援しなければいけなくなると、幕政から失脚しかねないのだ。

「その心配はないと思われます。
 英国人排斥に動いている侠客郷党と、俵物を購入する富裕層は別でございます。
 それよりは、利は薄いですが、侠客郷党に武器を販売するべきでございます。
 英国人と戦える武器を、清国人に販売すべきでございます」
 
 徳川慶恕は珍しく即断できなかった。
 高島秋帆が集めていた銃と、徳川慶恕が集めさせた銃を比較検討して、今迄の火縄銃では南蛮軍に立ち向かえないという結論に達していた。
 椎の実型の鉛弾を使用するミニエー銃が、一番実戦で役立つと分かっていた。
 だが、今の日本では、銃身内に施条を刻むには職人技と時間が必要だった。
 何よりも椎の実型の鉛弾を生産するのにも時間がかかった。

「南蛮式の最新式の銃は、幕府と尾張派が使う分もないのだ。
 とても清国人に売る余裕はない」
 
火縄銃      :
銃剣式マスケット銃:
ゲベール銃    :
ベイカー銃    :
ブランズウィック銃:
ミニエー銃    :
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

処理中です...