徳川慶勝、黒船を討つ

克全

文字の大きさ
32 / 56
第1章

29話

しおりを挟む
 一八四七年も徳川慶恕の差配する交易は順調だった。
 前年の純利益は千四百八十五万両にもなっていた。
 その内の五百万両は、前年同様将軍家に内緒で福山城や尾張城に蓄えられており、今までの利益と併せれば、千五百万両もの軍資金が蓄えられている。
 一方幕府も、大法馬金百個五百十九万両分を再鋳造できたうえに、五百万両分の銀を備蓄する事に成功していた。

 一方南蛮帆船の建造にも成功していた。
 排水量五十トンの快速丸と排水量百トンの迅速丸を、安定して建造できるようになった尾張派諸藩は、次に蒸気船と大型南蛮帆船の建造に挑戦していた。
 九ポンド砲を二十四門搭載し排水量五百トン前後の六等艦フリゲートと、三十二ポンド砲を三十八門搭載した、排水量千トン前後の五等フリゲートの建造に、果敢に挑戦していた。
 いやそれどころか、排水量百五十トンの蒸気船試作建造まで行っていた。

 試作される蒸気船は外輪船とクリュー・プロペラの二種類だった。
 蘭国を通じて頻繁に情報収集をしていた徳川慶恕は、一八四五年三月に英国海軍が行ったスクリュープロペラと外輪の性能比較を知っていたのだ。
 だが、同時に、今の自分達には外輪船の建造もクリュー・プロペラ船の建造も難しいので、とりあえず両方の試作建造に挑戦した。
 だがそもそもの蒸気機関の能力が低すぎた。

 だが蘭国の技師の力を借りることで、大砲の鋳造に大成功を収めていた。
 長砲身の砲と共に、短砲身のカロネード砲も完成させていた。
 沿岸防衛に砲台に配備する六十八ポンドは、千八百メートルの射程距離を誇る長砲身砲を配備した。

 一方艦艇に配備する砲は、射程距離が三百六十メートルしかないものの、砲身が短く肉薄で、重量が抑えられるカロネード砲とされていた。
 三十二ポンド砲の比較では、長砲身砲の自重が二・五トンあるのに対して、カロネード砲の自重は〇・八トンで、積載重量の限られる船上ではとても重要だった。
 砲身長は長砲身砲が三メートルなのに対して、カロネード砲は一・二メートルで、狭い船上で使うのには取り回しが便利だった。

 そして喜ばしい事に、松平義建に八男の銈之助が誕生したのだ。
 会津松平家に養嗣子に入った七男の銈之允より十一歳も年の離れた弟だった。
 長男の徳川慶恕のからは、二十七歳も年下の弟であり、新たに生まれた四男を含めれば、四人の甥たちよりも年下だった。
 
 だが問題も徐々に露呈していた。
 水戸徳川家との対立が激しくなっていた。
 将軍徳川家慶と幕閣が、讃岐国高松藩の養嗣子に徳川慶恕の庶長子・源太郎を強く推薦したが、水戸藩徳川家第九代藩主・徳川斉昭の頑強な反対があって、成し遂げられなかった。
 同じ水戸系の血が流れてはいても、尊王よりも将軍を優先する徳川慶恕を、徳川斉昭は忌み嫌っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

処理中です...