徳川慶勝、黒船を討つ

克全

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第1章

37話

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「大納言様、いかがいたしましょうか?」

「援軍を送る。
 上様と幕閣の許可は取ってある」

 一八五〇年の途中、徳川慶恕と幕府は決断を迫られた。
 道光帝から欽差大臣の役目を与えられ、太平天国鎮圧担当を任された林則徐が、汚職高官の放った暗殺者に殺されそうになったのだ。
 それを未然に防いだのは、徳川慶恕に林則徐との交渉を任された、越中富山の薬売りと、激しい訓練を潜り抜け御庭番・伊賀組・甲賀組・根来組から選抜された忍者達だった。

 彼らに助けられた林則徐は、徳川幕府に好意を持った。
 徳川慶恕の献策にも耳を傾けた。
 徳川慶恕の献策は、露国の軍を防ぐ倭国の兵を清国の家臣として、地位と領地を与えて藩部とする事だった。
 
 林則徐は、自分が汚職高官の放った刺客に暗殺されかけたことと、太平天国が英国の策謀だと道光帝に伝えた。
 道光帝は激怒し、汚職高官を処刑した。
 同時に徳川慶恕の献策を実行するように理藩院に命じた。

 理藩院とは、清国を宗主国と仰ぐ属国を取り仕切り部署で、露国も属国扱いで、古くは足利義満も明国の臣下となって朝貢貿易を行っていた。
 だが、徳川慶恕は徳川家を清国の臣下にする気はもうとうなかった。
 信頼できる松平一門を清国との国境線に派遣し、境目の藩、琉球王国のように両属の藩とする心算だった。

 理藩院では、露国との国境を預かることになる、倭国出身の部族をどう扱うかとても悩むことになった。
 倭国兵の処遇を外藩蒙古制度、盟旗制度、八旗制度、土司土官制度のどれに当てはめるのか、尚書以下の官吏が多くの意見を出したが、結局は欽差大臣の林則徐、徳川慶恕の献策を道光帝は選んだ。

 清国では、満州族の故地満州の東三省には総督を置かなかった。
 奉天府と呼ばれる独自の行政制度を採っていた。
 ヌルハチによって盛京と改称された瀋陽は、奉天城を中心に副都とされ奉天府がおかれ、形式的ではあるが中、央政府に準拠した官制が整備されていた。
 その総指揮は盛京将軍が執り、駐防八旗の将軍達(吉林将軍と黒竜江将軍)を指揮監督していた。

 ネルチンスク条約で清国領と定められている、アルグン川とゴルビツァ川とスタノヴォイ山脈を基準とした国境線。
 清国領となっているアムール、南ハバロフスク、沿海を新設した倭軍八旗の首長、沿海将軍の支配地とした。
 黒竜江(アムール川)とアルグン川とゴルビツァ川とウスリー川の中州も倭軍八旗の支配地域とした。
 露国と領地が確定していない、ウダ川とスタノヴォイ山脈の間は倭軍八旗の切り取り勝手とした。

 徳川慶恕と幕府の決断、道光帝の決定は奥羽諸藩にも大きな影響を与えた。
 特に冷害に苦しむ諸藩には福音となった。
 広大な領地を得た徳川慶恕と幕府は、その地を縦横無尽に守るための機動力を必要としており、奥羽諸藩には戦国時代のように軍馬の育成を命じたのだ。
 同時に商品として交易に使える焼酎の生産を指導し、稲作より冷害に強い小麦や蕎麦の作付を推奨した。
 商品となる焼酎の買取も約束したので、奥羽諸藩の勝手向きを劇的に改善した。
 これにより奥羽諸藩は徳川慶恕と幕府への忠誠心を新たにした。
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