徳川慶勝、黒船を討つ

克全

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第1章

39話

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 一八五〇年、徳川家は二百年ぶりに大々的な実戦を経験することになった。
 尾張派諸藩以外の援軍は認めなかった。
 外様や譜代だけでなく、尊王親藩の参陣も許さなかった。
 全ては徳川慶恕の方針だった。
 徳川慶恕は、実戦経験を積むのは本当の味方だけにするつもりだった。
 そのために、将軍直属の幕臣の半数が死傷する事も覚悟していた。

 激烈な戦闘が繰り返された。
 同じ清国人とはいえ、元々は別民族同士の戦いだ。
 いや、それに宗教的な狂信が加わっている。
 戦国時代の叡山の僧兵や、大和興福寺の僧兵、加賀の一向宗が、神仏に選ばれた特別な自分達を、他国尾張の田舎者が不当に攻め込んできたと思い込んだのと同じだ。

 清国内で差別されてきた民族が、独立を求めていたところに、神仏の加護を受けたという指導者が現れ、支配者やその手先の裏切者を殺してくれた。
 そして自分を神仏に選ばれた戦士だと認めてくれた。
 命を賭けて、憎き支配者を打ち払い、自由と富と地位を手に入れる。
 今度は自分達が支配者となれると思い、命懸けで向かってくる敵と戦うのだ。
 東照神君が成し遂げた、二百年の太平で惰弱した武士には地獄だった。

 だが、参陣した武士全てが卑怯でも憶病でも惰弱でもなかった。
 表向きは林則徐の配下として戦う松平慶比の指揮で、胆力と武力を証明して功名を手に入れる武士も数多くいた。
 武士から追われる博徒だった者が、捕まって武家使用人の中間や小者として参加し、度胸を証明して若党や足軽、押し足軽から徒士に取立てられたりもした。

 一方、逃げ出そうとして、味方に討たれる卑怯な武士もした、
 寄騎として参陣していた大身旗本家の中には、全滅してしまうような家もあった。
 大言壮語して陣代となった一族の者が逃げ出してしまい、取り潰しになる大身旗本家もあった。

 そんな中では、逃げる事の許されない武士が、功名を手に入れる事が多かった。
 藩財政が逼迫し、領内外の商人や大庄屋に金を借りて返せないようになり、家臣の扶持の半分を借り上げと言って召し上げてしまうような藩から、剣や槍の腕で尾張派諸藩に召し抱えられた者達だった。
 彼らは簡単に死ぬ事も許されないのだ。
 生き続けて、実家に残る家族に仕送りを続けなければいけないのだ。

 松平慶比の部隊は三手に分かれることになった。
 倭軍八旗の管理を認められた領地を維持管理する部内。
 林則徐に従って太平天国と戦う部隊。
 林則徐が分派した、広東で英国軍や仏国軍と戦う部隊。
 広東の郷党が倭国から得た武器で優勢に戦いを進め、太平天国の叛乱が治安されそうになったことに焦った英国と仏国の商人が、母国の政治家や軍人に賄賂を贈り、清国との戦争を始めさせたのだ。
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