徳川慶勝、黒船を討つ

克全

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第1章

44話

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「そのような事があったのか。
 余の知らぬ事とはいえ、それでは将軍家が恨まれてもしかたがないの。
 それで、余が薩摩守に頭を下げればいいのか」

「滅相もございません。
 上様に頭を下げていただくなど、絶対にあってはならない事でございます。
 下げるなら私が下げますが、これからの事を考えれば、尾張家も頭を下げるわけにはまいりません。
 ここは当時の老中の責任をとってもらいましょう」

「だがそれで済むのか。
 大納言の策を聞いていたら、謝ると言いながら、さらなる無理難題を薩摩藩に押し付けているように聞こえるが」

「誠心誠意説明したします。
 役目を与え、必要な費用や兵糧をこちらで負担いたします
 納得してもらえるように、替地も用意いたします。
 今のうちに内乱の眼を摘んでおかなければ、日ノ本が天竺のように南蛮の植民地されてしまいます」

 最後の言葉が将軍徳川家慶に決断させた。
 徳川慶恕が、南蛮から日ノ本を護るために、終始一貫して準備しているのは知っていたから、これはどうしても必要な事なのだろうと納得したのだ。
 だから徳川慶恕に全権を与え、薩摩藩との交渉を任せた。
 だが替地に必要な幕府蔵入地の石高を確認しておかなければいけなかった。

「それで、薩摩に与える替地はどれくらいのなるのだ」

「少なければ十万石、多ければ二十万石を考えております。
 ですができるだけ旗地ですませるように考えております」

 将軍徳川家慶は思わず大笑いしそうになった。
 最初の話では、清国から手に入れた旗地を耕作する人手として、外様の部屋住み藩士を召し抱えるという話だった。
 だがその旗地を薩摩藩に与える替地とするの言うのだから、笑わずにはいられなかったが、必死で笑いをこらえた。

 そしていよいよ徳川慶恕と島津斉彬の対決が始まった。
 南蛮対策のために、江戸にいる時は度々会っている二人だ。
 腹蔵なく話せるほど互いの事を理解していた。
 交誼を重ね、友情と言えるほどのつながりがあった。
 だが互いに背負っているモノがあり、自分の言動を私情では決められないのだ。

「大納言様、今日はいったいどのような話しでございますか。
 漏れ聞く噂では、随分と薩摩藩に対する酷い仕打ちのようでございますが、あまりな事を申されるなら、大恩ある大納言様と言えど、覚悟をしなければなりません」

「うむ、確かに色々な噂が流れているようだな。
 だが全ては日ノ本を南蛮から守るためだ。
 以前に天竺の事を話したはずだ」

「大納言殿は私が南蛮に魂を売り渡すとお考えか!」

「いや、薩摩守殿ならば南蛮に魂を売る事はない。
 その事は心から信じている。
 だが島津家は一枚岩ではない。
 薩摩守殿が暗殺された場合の事を考えなければならない。
 その事、薩摩守殿いかにお考えか」
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