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第1章
52話
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徳川慶恕は、自分が乱世の英雄でない事を自覚していた。
実戦経験のない、戦場の臭いを嗅いだことのない、腰抜けだと思っていた。
だから、実際の戦場指揮は、清国で戦ってきた歴戦の戦士に任せた。
硝煙と血の香りの充満した戦場で実力を証明した者こそ、真の大将だ。
だが、どうしても確認しておかなければいけない事があった。
「静斎殿、尾張艦隊を派遣して艦隊戦をすべきか。
それとも夜陰に乗じて泳ぎ渡り斬り込むべきか。
いかにすればよいと考えるか」
旗本として清国に派遣され、頭角を現して七千五百兵の指揮官である都統にまで登り詰めた、男谷信友に軍略を訊ねた。
「艦隊は英国や仏国、露国との戦いにも必要です。
使わずに勝てるのなら秘匿すべきです。
今日この日のために、尾張大納言様は幕臣や藩士に水練を学ばせたのでしょう。
それを生かさずして何が武士でしょう。
敵も奇襲を警戒しているようですが、我らも南蛮船を使って奇襲の鍛錬を繰り返してきました。
私が陣頭指揮を執ります。
どうか斬り込みを許可してください」
「お待ちください。
陣頭指揮は我らにお任せください。
そのために、毎日死を賭して水練の訓練を繰り返してきたのです。
義父殿は、実子を廃嫡にしてまで、我らを養嗣子に迎えてくれたのです。
ここで先駆けをせねば面目が立ちません。
どうか我らに先陣を御命じください」
願い出てきたのは、代々御船手組頭を務める向井将監、間宮酒造丞、小浜民部左衛門尉、千賀孫兵衛に、新たに増強された御船手組の組頭達だった。
南蛮船は尾張家の占有となったため、艦長になる事もできず、南蛮船が来襲してきた時に斬り込む事だけを夢見て、水練と組討ちの鍛錬に励んできた者達だ。
能力の足らない実子を廃嫡にし、能力のある者を養嗣子に迎えてまで、この日に備えていた猛者達だ。
配下の船手与力、船手同心、船手水主も顔を引き締めている。
彼らも能力の足らない者を廃嫡にして、一族の中から水練と組討ちに秀でた者を当主に迎えた者達だ。
徳川慶恕が、廃嫡された者にも仕官の道を開き、蝦夷地や樺太で郷士になる機会も、清国で武勇を試せる機会も与えたからこそできたことではあるが、それでも本家を継ぐことになった者の覚悟は、とても大きなものだった。
ここで斬り込みを決行しないという決断は、彼らの存在意義にまで係わる、大問題だったのだ。
千人の船手組が、浜から泳いで米国艦隊に向かった。
武器は艶消しされた黒い鞘に納められ、泳ぐ邪魔にならない黒い薄絹だけをまとい、敵に発見されないようにしていた。
船手組は皆決死の覚悟だったが、後に続く者達も眦を決して待機していた。
徳川慶恕が預かる、全兵力五万五千兵の内の五千兵が、この日のために用意された八丁艪十五人乗りの鯨船で、米国艦隊を襲撃する覚悟だった。
実戦経験のない、戦場の臭いを嗅いだことのない、腰抜けだと思っていた。
だから、実際の戦場指揮は、清国で戦ってきた歴戦の戦士に任せた。
硝煙と血の香りの充満した戦場で実力を証明した者こそ、真の大将だ。
だが、どうしても確認しておかなければいけない事があった。
「静斎殿、尾張艦隊を派遣して艦隊戦をすべきか。
それとも夜陰に乗じて泳ぎ渡り斬り込むべきか。
いかにすればよいと考えるか」
旗本として清国に派遣され、頭角を現して七千五百兵の指揮官である都統にまで登り詰めた、男谷信友に軍略を訊ねた。
「艦隊は英国や仏国、露国との戦いにも必要です。
使わずに勝てるのなら秘匿すべきです。
今日この日のために、尾張大納言様は幕臣や藩士に水練を学ばせたのでしょう。
それを生かさずして何が武士でしょう。
敵も奇襲を警戒しているようですが、我らも南蛮船を使って奇襲の鍛錬を繰り返してきました。
私が陣頭指揮を執ります。
どうか斬り込みを許可してください」
「お待ちください。
陣頭指揮は我らにお任せください。
そのために、毎日死を賭して水練の訓練を繰り返してきたのです。
義父殿は、実子を廃嫡にしてまで、我らを養嗣子に迎えてくれたのです。
ここで先駆けをせねば面目が立ちません。
どうか我らに先陣を御命じください」
願い出てきたのは、代々御船手組頭を務める向井将監、間宮酒造丞、小浜民部左衛門尉、千賀孫兵衛に、新たに増強された御船手組の組頭達だった。
南蛮船は尾張家の占有となったため、艦長になる事もできず、南蛮船が来襲してきた時に斬り込む事だけを夢見て、水練と組討ちの鍛錬に励んできた者達だ。
能力の足らない実子を廃嫡にし、能力のある者を養嗣子に迎えてまで、この日に備えていた猛者達だ。
配下の船手与力、船手同心、船手水主も顔を引き締めている。
彼らも能力の足らない者を廃嫡にして、一族の中から水練と組討ちに秀でた者を当主に迎えた者達だ。
徳川慶恕が、廃嫡された者にも仕官の道を開き、蝦夷地や樺太で郷士になる機会も、清国で武勇を試せる機会も与えたからこそできたことではあるが、それでも本家を継ぐことになった者の覚悟は、とても大きなものだった。
ここで斬り込みを決行しないという決断は、彼らの存在意義にまで係わる、大問題だったのだ。
千人の船手組が、浜から泳いで米国艦隊に向かった。
武器は艶消しされた黒い鞘に納められ、泳ぐ邪魔にならない黒い薄絹だけをまとい、敵に発見されないようにしていた。
船手組は皆決死の覚悟だったが、後に続く者達も眦を決して待機していた。
徳川慶恕が預かる、全兵力五万五千兵の内の五千兵が、この日のために用意された八丁艪十五人乗りの鯨船で、米国艦隊を襲撃する覚悟だった。
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