徳川慶勝、黒船を討つ

克全

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第1章

53話

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 パーン。
 パパーン。

 波の音だけが聞こえる深夜の港に、突然銃声が轟いた。
 御船手組の猛者達が、米国艦隊への乗り込みに成功したのだ。
 彼らは音を立てずに、米国艦隊が停泊している沖合まで泳ぎきり、鉤縄などは使わず、艦体に五寸釘を刺して手掛かり足掛かりとし、見事に乗り込んだのだ。
 黒く鉄のように見えた船体は、防腐防水用にコールタールが塗られているだけだった、水線下に銅板を張ってはいたが、釘を板張りの隙間に打つ事は簡単だった。

 だが米国艦隊の将兵も警備に手を抜いていたわけではない。
 斬り込み防止用のネットは張り巡らせていたし、見張りも立たせていた。
 御船手組の猛者達がネットを斬るのに手古摺っている間に、警笛を吹き鳴らして艦隊中に敵襲を知らせた。

「突撃じゃ。
 沖に漕ぎ出して斬り込め」

 男谷信友が鯨船隊に激を飛ばす。
 五千の鯨船隊が、三百余隻の勢子船に乗って、怒涛の勢いで米国艦隊に向かう。
 鯨船にも役割によって色々な種類があるが、速さを優先した勢子船が、この日のために大量に建造されていたのだ。

 米国の四隻の船では、激烈な戦いが繰り返されていた。
 御船手組は沖合まで泳いだことで疲労しており、武器も刀だけだ。
 米国水兵は寝込みを襲われたが、武器は剣だけでなく、フリントロック式のマスケット銃もあった。
 パーカッションロック式のマスケット銃は、雷管の補給に不安があったため、今回は遠征ではフリントロック式のマスケット銃だけを使っていた。

 だがフリントロック式マスケット銃には、連発ができないという根本的な弱点以外にも、命中精度が悪いという欠点と、不発の可能性が高いという欠点があった。
 そのせいか、御船手組は大した死傷者を出さずに続々と乗り込んでいった。
 抵抗する者は、情け容赦する事なく斬り殺していった。
 まずは甲板上を制圧すべく、艦内に続く戸を確保した。

 鯨船隊が勇ましく力強く八丁艪の櫓を漕いで米国艦隊に向かう。
 尾張派諸藩、特に高須兄弟が藩主を務める藩の兵士は、眦を決している。
 その中でも浪人を主力とした各隊は、この日の為に召し抱えられたことを自覚しているだけに、決死の覚悟を固めていた。

 特に前年一八五二年に前藩主松平容敬が亡くなり、徳川慶恕の弟松平容保が藩主になった会津松平家は、藩祖保科正之の遺訓の影響もあって戦意が旺盛だった。
 会津松平家が新規に召し抱えた精鋭の浪人部隊、新選組は徳川慶恕の御前で活躍しようといきり立っていた。
 いや、勇み立っているのは全兵士が同じだった。

 だが、御船手組の猛者達が行った斬り込みで、すでに勝負はついていた。
 鯨船隊が米国艦隊に到着する前に、ペリー代将は降伏し米国艦隊は拿捕された。
 徳川慶恕は無傷で四隻の米国艦を手に入れた。
 徳川慶恕は攘夷打ち払いに成功した。
 だがこれからが正念場だった。

 英国、仏国、露国は、清国と日本の開国植民地化を虎視眈々と狙っている。
 米国は、強硬派のフィルモア大統領から民主党のピアースに大統領が変わっており、ピアース大統領は侵略目的の武力行使を禁止していたが、既に出発して航海途上にあったペリーには、その命令が届いていなかったのだ。
 米国親書を持参した艦隊司令が捕虜にされ、四隻に軍艦を拿捕された米国が、ピアース大統領がどう出るか、まだ分からない状態だった。

 だが徳川慶恕に迷いはなかった。
 徳川慶恕は、交易で利益を得て、その利益で軍備を増強し、最後まで南蛮と戦う覚悟だった。
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