月乙女の伯爵令嬢が婚約破棄させられるそうです。

克全

文字の大きさ
2 / 29
第1章

1話

しおりを挟む
 アリスは疲れていた。
 苦手な舞踏会で人疲れしてしまった。
 自分の婚約を祝う場でもあるので、苦手な会話を多くの人とかわす必要があり、とても消耗してしまったのだ。
 お手洗いだと言って、控室に逃げ込んだのだが、そこでとんでもない話を聞いてしまった。

「ジョージ。
 いつ婚約破棄を仕掛けるの。
 妾はもう待てませんよ」

「今しばらくお待ちください。
 ビクトリア王女。
 アリスとの婚約は、父上からスミス伯爵家に申し込んだモノです。
 こちらから破棄するには余程の理由が必要なのです」

「ですが時間がないのです。
 妾は妊娠しているのですよ。
 直ぐにお腹が大きくなります。
 そうなったら、妾は自害しなければいけないのですよ!」

「今しばらく。
 今しばらくお待ちください。
 今アリスの不義を捏造しております。
 数日のうちに噂が広がり、婚約破棄が可能になります」

「三日です。
 三日以内に婚約破棄が出来ないのなら、全てを父上様にお話ししますよ」

「必ず。
 必ず婚約破棄します。
 ですから、陛下に言うのだけはお止めください」

 ガタ!

「誰だ!」
「誰じゃ!」

 アリスとんでもない話を聞いてしまった。
 王女殿下が不義の子を宿しているなんて!
 しかもその相手が、自分の婚約者であるジョージだなんて!
 余りにも衝撃的な話を聞いて、隠れているにもかかわらず、思わず身動きしてしまった。

 とっさに身体が動いた。
 本能的に逃げなければいいけないと感じたのだ。
 見つかればただでは済まない。
 自分の婚約者だが、ジョージは酷薄な男だと聞いていた。
 婚約前には、数々の女性と浮名を流していた。

 だがそれ以上に怖かったのは、ビクトリア王女殿下だった。
 殿下の我儘は有名な話だった。
 何より父親の国王陛下が殿下を溺愛されている。
 殿下が強く望んだら、しかたなくジョージを婿に迎える可能性もある。
 そんな事になったら、自分は冤罪を着せられて殺されてしまう。

 そう考えたアリスは、急いで控室から逃げ出した。
 舞踏会からも逃げ帰りたかった。
 だがここで逃げ帰ったら、話を盗み聞きしたのが自分だと分かってしまう。
 そう考えたアリスは、必死で平常を装い、舞踏会会場に留まった。
 苦手な舞踏会で普段から心を隠していたのが役に立った。

 引きつりそうな表情を気力で笑顔に変えた。
 恐怖で真っ青になりそうな顔色を叩いて赤くした。
 黙り込みそうな心を叱咤激励して、嫌いな相手と話しを弾ませた。
 だが心の中では、どうやってこの危機を対応すべきか苦悩していた。

 まず時間がない。
 権力が段違いに違う。
 相談できる相手がほとんどいない。
 しかしそれ以前に、ここから無事に家まで帰らないといけない。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に相応しいエンディング

無色
恋愛
 月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。  ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。  さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。  ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。  だが彼らは愚かにも知らなかった。  ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。  そして、待ち受けるエンディングを。

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

「君の話はつまらない」と言われて婚約を破棄されましたが、本当につまらないのはあなたの方ですよ。

冬吹せいら
恋愛
「君の話はつまらない」  公爵令息のハメッド・リベルトンに婚約破棄をされた伯爵令嬢、リゼッタ・アリスベル。  リゼッタは聡明な美少女だ。  しかし、ハメッドはそんなリゼッタと婚約を破棄し、子爵令嬢のアイナ・ゴールドハンと婚約を結び直す。  その一方、リゼッタに好意を寄せていた侯爵家の令息が、彼女の家を訪れて……?

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

悪役令嬢は断罪の舞台で笑う

由香
恋愛
婚約破棄の夜、「悪女」と断罪された侯爵令嬢セレーナ。 しかし涙を流す代わりに、彼女は微笑んだ――「舞台は整いましたわ」と。 聖女と呼ばれる平民の少女ミリア。 だがその奇跡は偽りに満ち、王国全体が虚構に踊らされていた。 追放されたセレーナは、裏社会を動かす商会と密偵網を解放。 冷徹な頭脳で王国を裏から掌握し、真実の舞台へと誘う。 そして戴冠式の夜、黒衣の令嬢が玉座の前に現れる――。 暴かれる真実。崩壊する虚構。 “悪女”の微笑が、すべての終幕を告げる。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

悪役令嬢ベアトリスの仁義なき恩返し~悪女の役目は終えましたのであとは好きにやらせていただきます~

糸烏 四季乃
恋愛
「ベアトリス・ガルブレイス公爵令嬢との婚約を破棄する!」 「殿下、その言葉、七年お待ちしておりました」 第二皇子の婚約者であるベアトリスは、皇子の本気の恋を邪魔する悪女として日々蔑ろにされている。しかし皇子の護衛であるナイジェルだけは、いつもベアトリスの味方をしてくれていた。 皇子との婚約が解消され自由を手に入れたベアトリスは、いつも救いの手を差し伸べてくれたナイジェルに恩返しを始める! ただ、長年悪女を演じてきたベアトリスの物事の判断基準は、一般の令嬢のそれとかなりズレている為になかなかナイジェルに恩返しを受け入れてもらえない。それでもどうしてもナイジェルに恩返しがしたい。このドッキンコドッキンコと高鳴る胸の鼓動を必死に抑え、ベアトリスは今日もナイジェルへの恩返しの為奮闘する! 規格外で少々常識外れの令嬢と、一途な騎士との溺愛ラブコメディ(!?)

お前との婚約は、ここで破棄する!

ねむたん
恋愛
「公爵令嬢レティシア・フォン・エーデルシュタイン! お前との婚約は、ここで破棄する!」  華やかな舞踏会の中心で、第三王子アレクシス・ローゼンベルクがそう高らかに宣言した。  一瞬の静寂の後、会場がどよめく。  私は心の中でため息をついた。

処理中です...