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第1章
2話
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「誰かこのハンカチーフを知らなくて?
控室に落ちていたの。
会場から出ていた人は誰?」
嘘だった。
アリスのハンカチーフはちゃんとあった。
誰が盗み聞きしたかを確かめる為の嘘だった。
しかも、会場から出ていた人間を確定すべく、全員に質問している。
これは逃げ切れない。
「私のではありません」
「私もお手洗いには行きましたが、控室には入っていません」
「私も違います」
よかった。
私だけが中座していたわけではない。
他にも何人も中座していた。
だったら正直に言った方がいい。
下手に嘘をついて後でバレたら、言い訳のしようがない。
そう考えたアリスは、自分も名乗り出た。
「私もお手洗いにはいきましたが、控室には入っていません」
「あら。
アリス。
あなたも中座していたのね。
そう、あなたも中座していたの」
怖い。
完全に疑っている。
入口のドア近くにいるジョージも、酷薄そうな表情でこちらを見ている。
もっと何か言い訳をすべきか、アリスは必至で考えた。
「はい。
今日は私とジョージの婚約を祝う舞踏会ですので、緊張してしまって」
「!
そう。
そうだったわね!
あなたとジョージの為の舞踏会だったわね。
忘れていたわ!
ごめんなさいね」
王女殿下は完全に怒っていた。
人前では絶対に感情を表に出さない貴族が、怒りを露にしていた。
まあ、元々王女殿下は、感情を隠せない方だ。
直情径行な方で、よく平民を打擲しておられる。
貴族にそのような振る舞いをする事は少ないが、宮廷に使える下級貴族の中には、殿下に打擲された方がいると言う噂もある。
そんな殿下が、満座の席で怒りを露にされているのだ。
会場中が水を打ったように静まり返っている。
これは危険だとアリスは考えた。
勘の鋭い人は必ず邪推する。
アリスとジョージの婚約祝いの舞踏会で、不機嫌を隠さない王女殿下がいる。
ジョージが怒りの表情でアリスを見ている。
陰謀渦巻く貴族社会だ。
必ず悪意を含んだ噂が広がる。
スミス伯爵家とジョーンズ伯爵家が婚姻を結ぶ事を、苦々しく思っている貴族は多くいる。
人間関係が苦手なアリスだが、貴族社会の事は十分理解している。
アリスの産まれたスミス伯爵家は、財力も武力も大したことはないが、王家よりも古い歴史を誇る超名門貴族だ。
一方ジョージの産まれたジョーンズ伯爵家は、成り上がりと陰口を叩かれるものの、商売上手で有名な富豪貴族だ。
そんな両家の婚姻政策を潰そうとする者にとったら、今回の出来事は絶好の機会だ。
ましてジョージと王女殿下が婚約破棄を目論んでいるのだ。
噂に巨大な尾鰭がついて、アリスを喰い殺す化物に育つのは確実だ。
だがそこに、アリスが想像もしていなかった救いの神が現れた。
控室に落ちていたの。
会場から出ていた人は誰?」
嘘だった。
アリスのハンカチーフはちゃんとあった。
誰が盗み聞きしたかを確かめる為の嘘だった。
しかも、会場から出ていた人間を確定すべく、全員に質問している。
これは逃げ切れない。
「私のではありません」
「私もお手洗いには行きましたが、控室には入っていません」
「私も違います」
よかった。
私だけが中座していたわけではない。
他にも何人も中座していた。
だったら正直に言った方がいい。
下手に嘘をついて後でバレたら、言い訳のしようがない。
そう考えたアリスは、自分も名乗り出た。
「私もお手洗いにはいきましたが、控室には入っていません」
「あら。
アリス。
あなたも中座していたのね。
そう、あなたも中座していたの」
怖い。
完全に疑っている。
入口のドア近くにいるジョージも、酷薄そうな表情でこちらを見ている。
もっと何か言い訳をすべきか、アリスは必至で考えた。
「はい。
今日は私とジョージの婚約を祝う舞踏会ですので、緊張してしまって」
「!
そう。
そうだったわね!
あなたとジョージの為の舞踏会だったわね。
忘れていたわ!
ごめんなさいね」
王女殿下は完全に怒っていた。
人前では絶対に感情を表に出さない貴族が、怒りを露にしていた。
まあ、元々王女殿下は、感情を隠せない方だ。
直情径行な方で、よく平民を打擲しておられる。
貴族にそのような振る舞いをする事は少ないが、宮廷に使える下級貴族の中には、殿下に打擲された方がいると言う噂もある。
そんな殿下が、満座の席で怒りを露にされているのだ。
会場中が水を打ったように静まり返っている。
これは危険だとアリスは考えた。
勘の鋭い人は必ず邪推する。
アリスとジョージの婚約祝いの舞踏会で、不機嫌を隠さない王女殿下がいる。
ジョージが怒りの表情でアリスを見ている。
陰謀渦巻く貴族社会だ。
必ず悪意を含んだ噂が広がる。
スミス伯爵家とジョーンズ伯爵家が婚姻を結ぶ事を、苦々しく思っている貴族は多くいる。
人間関係が苦手なアリスだが、貴族社会の事は十分理解している。
アリスの産まれたスミス伯爵家は、財力も武力も大したことはないが、王家よりも古い歴史を誇る超名門貴族だ。
一方ジョージの産まれたジョーンズ伯爵家は、成り上がりと陰口を叩かれるものの、商売上手で有名な富豪貴族だ。
そんな両家の婚姻政策を潰そうとする者にとったら、今回の出来事は絶好の機会だ。
ましてジョージと王女殿下が婚約破棄を目論んでいるのだ。
噂に巨大な尾鰭がついて、アリスを喰い殺す化物に育つのは確実だ。
だがそこに、アリスが想像もしていなかった救いの神が現れた。
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