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第一章
第5話:晩餐
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「お待たせしてしまいましたね、さあ、晩御飯にしましょうか」
私は急いで店の裏の住居部分に行き、まだ一生懸命掃除してくれている母子に声をかけたのですが……
「そんな、とんでもありません。
私の分だけでなく、あれだけたくさんのパンを頂いたのです。
もうこれ以上頂くわけにはまりません。
あの、それで、私のできる範囲で、できるだけ掃除させていただいたのですが、これでいいでしょうか?」
母親の方がオドオドと返事をしてくれますが、今朝渡したパンだけでは体力が回復していないようで、顔色も悪く動きも鈍い。
もしかしたら自分は全然食べないで、子供たちに全部分け与えたのかもしれない。
それでは私の善意が無駄になってしまうので、少々厳しく命じてでも、母親に食べさせないといけません。
もし母親が倒れてしまったら、子供たちが路頭に迷い餓死してしまいます。
「貴女の働きに対してどれほどの報酬を与えるのかは、私が決める事です。
私が掃除の代価には追加のパンを与えるべきだと思ったのです。
貴女が拒否する事は許しませんよ、分かりましたか」
「ありがとうございます、ありがとうございます、この御恩は生涯忘れません」
母親が何度も頭を下げて礼を言ってくれます。
偉そうな事を言うようですが、私の好意善意を理解できるだけの知性があり、それに感謝して御礼が言える良識もあるようです。
このような人はこの世界では珍しい存在ですから、大切にしなければいけません。
「さあ、私の気持ちを分かってくれるのなら、一緒に食べましょう。
スープを作る時間がもったいないですから、パンと水だけになります」
「はい、ありがとうございます、遠慮せずに一緒に食べさせていただきます」
今度は私の言葉に素直に従ってくれました。
二人掛けの小さなテーブルとイスしかないので、私達は床に座って食べました。
最初はそれにも遠慮しよとしましたが、私が強い視線を向けたら言いかけた言葉を飲み込み、黙って一緒に床に座ってくれました。
「公平に人数分に切って全種類食べましょう。
最初に試食はしていますが、時間が経ってからの味も確認したいですからね」
「おいしい!
すごくおいしいよ、ママ!」
「本当ね、こんな美味しいパンは初めて食べました」
一番大きい男の子が、素直に賛辞を口にしてくれます。
母親も心から絶賛してくれています。
嘘偽りのない言葉に、素直に喜びが心一杯に広がります。
私が作るパンは、寝食の時間を削って作った作品なのです。
それが褒められる事は、何よりも嬉しい事なのです。
「さあ、遠慮せずにお腹いっぱい食べなさい」
「「「はい」」」
「はい、ありがとうございます」
言葉の話せる子供三人と母親が御礼を言ってくれます。
自分の作ったパンではありますが、とても美味しく作れています。
時間が経っても風味も味も少しも落ちていません。
いえ、時間が経った分、熟成された美味しくなった気がします。
「すみません、おかみさん、頼まれていた物を持ってきました」
私は急いで店の裏の住居部分に行き、まだ一生懸命掃除してくれている母子に声をかけたのですが……
「そんな、とんでもありません。
私の分だけでなく、あれだけたくさんのパンを頂いたのです。
もうこれ以上頂くわけにはまりません。
あの、それで、私のできる範囲で、できるだけ掃除させていただいたのですが、これでいいでしょうか?」
母親の方がオドオドと返事をしてくれますが、今朝渡したパンだけでは体力が回復していないようで、顔色も悪く動きも鈍い。
もしかしたら自分は全然食べないで、子供たちに全部分け与えたのかもしれない。
それでは私の善意が無駄になってしまうので、少々厳しく命じてでも、母親に食べさせないといけません。
もし母親が倒れてしまったら、子供たちが路頭に迷い餓死してしまいます。
「貴女の働きに対してどれほどの報酬を与えるのかは、私が決める事です。
私が掃除の代価には追加のパンを与えるべきだと思ったのです。
貴女が拒否する事は許しませんよ、分かりましたか」
「ありがとうございます、ありがとうございます、この御恩は生涯忘れません」
母親が何度も頭を下げて礼を言ってくれます。
偉そうな事を言うようですが、私の好意善意を理解できるだけの知性があり、それに感謝して御礼が言える良識もあるようです。
このような人はこの世界では珍しい存在ですから、大切にしなければいけません。
「さあ、私の気持ちを分かってくれるのなら、一緒に食べましょう。
スープを作る時間がもったいないですから、パンと水だけになります」
「はい、ありがとうございます、遠慮せずに一緒に食べさせていただきます」
今度は私の言葉に素直に従ってくれました。
二人掛けの小さなテーブルとイスしかないので、私達は床に座って食べました。
最初はそれにも遠慮しよとしましたが、私が強い視線を向けたら言いかけた言葉を飲み込み、黙って一緒に床に座ってくれました。
「公平に人数分に切って全種類食べましょう。
最初に試食はしていますが、時間が経ってからの味も確認したいですからね」
「おいしい!
すごくおいしいよ、ママ!」
「本当ね、こんな美味しいパンは初めて食べました」
一番大きい男の子が、素直に賛辞を口にしてくれます。
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「「「はい」」」
「はい、ありがとうございます」
言葉の話せる子供三人と母親が御礼を言ってくれます。
自分の作ったパンではありますが、とても美味しく作れています。
時間が経っても風味も味も少しも落ちていません。
いえ、時間が経った分、熟成された美味しくなった気がします。
「すみません、おかみさん、頼まれていた物を持ってきました」
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