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第1章
第56話:閑話・善行1
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エマとライアン、カインとアベル、村長と村長婦人は六重完全同調魔術を確実に放てるように、亜竜ダンジョンで猛特訓を繰り返していた。
そんな生活が三十日も続いたのは、セント・エンシェント・ドラゴンと対等に話せるようになるためだった。
自警団の団長も副団長も旧村に居るので、住民の統率は精霊の長が執った。
狡賢く欲深い奴が陰で何かしようとしても、絶対に許さない。
旧村に居る自警団長と副団長は、子供たちに頼まれた事を手分けしてやっていた。
どちらか一人は村に残って維持管理に携わっていた。
もう一人は、子供たちが持ち帰った公爵家の財産を使いに行った。
「人を雇いたい、信用ができる人間を雇いたい」
公爵家の直轄領に着いたマクシムは傭兵ギルドで言った。
「私たちが紹介させていただく傭兵は全員信用できる人たちです」
傭兵ギルドの受付嬢がキッパリと言い切る。
王都の公爵家屋敷では、隠居が死に当主が乱心して大騒動になっていたが、領地は普段と変わらない日々を送っていた。
「傭兵ギルドが、自分の所の商品でもある人間を悪く言うはずがないのは常識だ。
だが、雇ってから何かあって損をするのはこちらだ。
紹介した傭兵が問題を起こした時に、賠償する契約をするのか?」
「そのような契約は致しません。
私共が信用できないのなら、他所の傭兵ギルドに行ってください」
傭兵ギルドの受付嬢が憎々しげに言い切った。
公爵領に一件しかない傭兵ギルドなので、ずっと強気の商売をしてきたのだ。
その尊大な態度は、人を雇いに来る客に対してだけでなく、傭兵ギルドに仲介してもらって仕事をする人たちにも一緒だった。
多くの人が傭兵ギルドといえば兵士か冒険者を想像するが、アリアラ王国の傭兵ギルドは日雇い労働者から特別な技術を持った職人まで斡旋するのだ。
賢明な領主が治める都市や街なら、競争原理を考えて複数のギルドや商会に競わせるのだが、公爵領ではあらゆる職業を一軒に専業させていた。
その代わり莫大な運上金を公爵家に納めさせているのだが、その分領民は他領よりもとても高い品物を買わされる事になる。
「そうか、分かった、直接雇う事にする」
マクシムは公爵領の寂れたメインストリートを歩いて、領都に一軒しかない飯屋に入った。
「おやじ、何か適当に食わせてくれ」
「旅の人かい、この領地は貧しいからろくなものがないし、全部高いよ?」
マクシムが入った飯屋の親父は善良な人だった。
ディースが予言してセーレが書き送ってくれた手紙の通りにやっているので、失敗する心配が極端に少なく、マクシムは安心して動けた。
「高いのは構わないが、不味いのは困る」
「そう言われても、ここは貧乏人ばかりだから外食をしない。
他所に売れる物は全部売ってしまうからろくな食材がない。
外から来た人がここで何か食べようと思ったら宿屋か家しかない。
どれほど高くて不味くても食うしかない。
ずっとそうやってきたから美味しい料理なんて作れない」
「だったら俺が材料を用意するから、試しにそれで作ってくれないか?」
「使った事のない食材は上手く料理できないと言っている」
「どんな食材だったら上手く料理できるんだ?」
「ここは貧しくてろくなもんがないと言ったろ。
代々ここで暮らしてきた俺は良い食材を使った事がないんだ。
良い食材は全部領主様が持って行かれる。
俺が使った事があるのは、スライム、ラット、フロッグだけだ」
飯屋の親父は1kg前後の軟体魔獣、ネズミ系動物、カエル系魔獣を言った。
どれも不味くて少しでもお金のある者は食べたがらない食材だ。
「ゲイムコクやラビットは使った事がないのか?」
マクシムがニワトリ系の魔鳥やウサギ系魔獣を使った事が無いか確認した。
「少しでも金になるモノは、全部領主様が持って行かれると言っただろう!
何度も同じ事を言わすな!
俺たちは虫や雑草を食べて生きてきたんだ。
スライムやラットだって月に一度しか食べられない。
フロッグが食べられるのは年に一度有るか無いかだ!」
マクシムが何気なく言った言葉が親父の感情を逆撫でしてしまったのか、これまで親切に話してくれていたのに急に怒りだした。
「すまない、この領地で暮らしている人の貧しさをバカにしている訳じゃない。
どのくらいの物を渡せば喜んで働いてくれるか確かめたかっただけだ」
「お客さん、この領地の人間を雇う気かい?」
「ああ、そのつもりだが、問題があるのか?」
「ここでは公爵閣下に運上金を払った者しか商売ができないんだ。
人を雇うなら傭兵ギルドを通さないと、公爵家の兵士に捕まる。
雇う方にも雇われる方にも法外な運上金が課せられるから、ここの領民は誰も人を雇ったりしないんだ」
「それで良く傭兵ギルドが成り立っているな」
「……公爵閣下に税が払えない者は奴隷に落とされる。
奴隷になった者を傭兵ギルドが他領に売るんだ」
「王都や他領に逃げないのか?」
「捕まったら奴隷に落とされて地獄のような扱いをされる。
自分だけでなく、家族まで奴隷に落とされるんだ。
ギリギリでも生きて行ける者は逃げたりしない。
逃げるのは、餓死するか逃げるかの二択を迫られた家族だけだ」
「そんな所まで追い込まれてからだと、逃げる体力もないだろう?」
「ああ、ないな、そこまで追い込まれる前に、どれだけ運上金が高かろうと、素直に傭兵ギルドに行って他領の働き口を探す方がましさ」
「なあ、親父、俺がここで炊き出しをしたらどうなる?」
「炊き出し、無料で飯を配るのか?」
「ああ、そうだ」
「高い運上金を払って飯屋をやっている奴が公爵家の訴える」
「親父が俺を訴えるのか?」
「ああ、俺も家族を養っていかなければならん」
「黙認するお礼に、金でも食料でも渡すと言ったらどうする。
何なら他領の市民権でもいいぞ?」
「市民権だと、本当に市民権をもらえるのか?!」
そんな生活が三十日も続いたのは、セント・エンシェント・ドラゴンと対等に話せるようになるためだった。
自警団の団長も副団長も旧村に居るので、住民の統率は精霊の長が執った。
狡賢く欲深い奴が陰で何かしようとしても、絶対に許さない。
旧村に居る自警団長と副団長は、子供たちに頼まれた事を手分けしてやっていた。
どちらか一人は村に残って維持管理に携わっていた。
もう一人は、子供たちが持ち帰った公爵家の財産を使いに行った。
「人を雇いたい、信用ができる人間を雇いたい」
公爵家の直轄領に着いたマクシムは傭兵ギルドで言った。
「私たちが紹介させていただく傭兵は全員信用できる人たちです」
傭兵ギルドの受付嬢がキッパリと言い切る。
王都の公爵家屋敷では、隠居が死に当主が乱心して大騒動になっていたが、領地は普段と変わらない日々を送っていた。
「傭兵ギルドが、自分の所の商品でもある人間を悪く言うはずがないのは常識だ。
だが、雇ってから何かあって損をするのはこちらだ。
紹介した傭兵が問題を起こした時に、賠償する契約をするのか?」
「そのような契約は致しません。
私共が信用できないのなら、他所の傭兵ギルドに行ってください」
傭兵ギルドの受付嬢が憎々しげに言い切った。
公爵領に一件しかない傭兵ギルドなので、ずっと強気の商売をしてきたのだ。
その尊大な態度は、人を雇いに来る客に対してだけでなく、傭兵ギルドに仲介してもらって仕事をする人たちにも一緒だった。
多くの人が傭兵ギルドといえば兵士か冒険者を想像するが、アリアラ王国の傭兵ギルドは日雇い労働者から特別な技術を持った職人まで斡旋するのだ。
賢明な領主が治める都市や街なら、競争原理を考えて複数のギルドや商会に競わせるのだが、公爵領ではあらゆる職業を一軒に専業させていた。
その代わり莫大な運上金を公爵家に納めさせているのだが、その分領民は他領よりもとても高い品物を買わされる事になる。
「そうか、分かった、直接雇う事にする」
マクシムは公爵領の寂れたメインストリートを歩いて、領都に一軒しかない飯屋に入った。
「おやじ、何か適当に食わせてくれ」
「旅の人かい、この領地は貧しいからろくなものがないし、全部高いよ?」
マクシムが入った飯屋の親父は善良な人だった。
ディースが予言してセーレが書き送ってくれた手紙の通りにやっているので、失敗する心配が極端に少なく、マクシムは安心して動けた。
「高いのは構わないが、不味いのは困る」
「そう言われても、ここは貧乏人ばかりだから外食をしない。
他所に売れる物は全部売ってしまうからろくな食材がない。
外から来た人がここで何か食べようと思ったら宿屋か家しかない。
どれほど高くて不味くても食うしかない。
ずっとそうやってきたから美味しい料理なんて作れない」
「だったら俺が材料を用意するから、試しにそれで作ってくれないか?」
「使った事のない食材は上手く料理できないと言っている」
「どんな食材だったら上手く料理できるんだ?」
「ここは貧しくてろくなもんがないと言ったろ。
代々ここで暮らしてきた俺は良い食材を使った事がないんだ。
良い食材は全部領主様が持って行かれる。
俺が使った事があるのは、スライム、ラット、フロッグだけだ」
飯屋の親父は1kg前後の軟体魔獣、ネズミ系動物、カエル系魔獣を言った。
どれも不味くて少しでもお金のある者は食べたがらない食材だ。
「ゲイムコクやラビットは使った事がないのか?」
マクシムがニワトリ系の魔鳥やウサギ系魔獣を使った事が無いか確認した。
「少しでも金になるモノは、全部領主様が持って行かれると言っただろう!
何度も同じ事を言わすな!
俺たちは虫や雑草を食べて生きてきたんだ。
スライムやラットだって月に一度しか食べられない。
フロッグが食べられるのは年に一度有るか無いかだ!」
マクシムが何気なく言った言葉が親父の感情を逆撫でしてしまったのか、これまで親切に話してくれていたのに急に怒りだした。
「すまない、この領地で暮らしている人の貧しさをバカにしている訳じゃない。
どのくらいの物を渡せば喜んで働いてくれるか確かめたかっただけだ」
「お客さん、この領地の人間を雇う気かい?」
「ああ、そのつもりだが、問題があるのか?」
「ここでは公爵閣下に運上金を払った者しか商売ができないんだ。
人を雇うなら傭兵ギルドを通さないと、公爵家の兵士に捕まる。
雇う方にも雇われる方にも法外な運上金が課せられるから、ここの領民は誰も人を雇ったりしないんだ」
「それで良く傭兵ギルドが成り立っているな」
「……公爵閣下に税が払えない者は奴隷に落とされる。
奴隷になった者を傭兵ギルドが他領に売るんだ」
「王都や他領に逃げないのか?」
「捕まったら奴隷に落とされて地獄のような扱いをされる。
自分だけでなく、家族まで奴隷に落とされるんだ。
ギリギリでも生きて行ける者は逃げたりしない。
逃げるのは、餓死するか逃げるかの二択を迫られた家族だけだ」
「そんな所まで追い込まれてからだと、逃げる体力もないだろう?」
「ああ、ないな、そこまで追い込まれる前に、どれだけ運上金が高かろうと、素直に傭兵ギルドに行って他領の働き口を探す方がましさ」
「なあ、親父、俺がここで炊き出しをしたらどうなる?」
「炊き出し、無料で飯を配るのか?」
「ああ、そうだ」
「高い運上金を払って飯屋をやっている奴が公爵家の訴える」
「親父が俺を訴えるのか?」
「ああ、俺も家族を養っていかなければならん」
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