仇討浪人と座頭梅一

克全

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第一章

第十二話:一橋家家老

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 賭場屋敷の持ち主は一橋家の家老である水谷勝富だった。
 徳川家基が死んでしまい、次期将軍に誰をするか大問題となっていた。
 今はまだ誰が後継者に指名されるかは分からないが、徳川家治の信頼が厚い田沼意次の甥、田沼意致が家老を務める一橋家の豊千代が最有力の候補だった
 その一橋家で田沼意致と並んで家老を務めるのが水谷勝富だ。
 権力を持っているのは当然だった。

「いやぁ、御用改めが厳しくて困りましたよ」

 梅一は明六つになって直ぐに賭場屋敷、水谷勝富の屋敷を訪れた。
 盗みに入ったその朝に、堅気に変装してとはいえ、盗みに入った屋敷に訪れるのだから、その豪胆さには舌を巻くところだ。
 だが梅一から見ればとても大切な事だった。
 水谷勝富が盗賊に金を盗まれた事を公にしているかいないかで、今後取るべき手段が大きく違ってくるのだ。

「へえ、俺はずっとここに泊まっているんで知らなかったよ」

 梅一から声をかけられた豊二は、何も聞かされていないようだった。
 母屋を含む水谷家主従が使う場所と、博徒達が賭場や売春に使う場所は、屋敷内の塀で厳格に区切られている。
 これからどうなるかは分からないが、今の所は代貸にも内蔵が破られたことは知らされていないようだった。

 だがそれも当然かもしれなない、
 武家が屋敷内に盗賊の侵入を許して内蔵を破られたなど、武門の面目が立たない。
 御目付に知られたら処罰されるのが当然の大失態だ。
 それに貸付証文が盗まれてしまったら、金を貸した相手に返金を求める事もできなくなり、借金のかたに売春をさせている御家人の娘達が家に戻ってしまう。

 どのような手段を使おうとも、内密に金と借用証文を取り返さないといけない。
 最悪借用証文だけは絶対に取り戻さなければいけない。
 万が一にも回り回って借用証文が商人の手にでも渡り、その借用証文を元に御家人屋敷に金を取り立てに行く者が現れたら、今まで行ってきた悪事が全て露見する。
 そんなことになってしまったら、豊千代の次期将軍の目がなくなってしまうだけでなく、一橋家にまで厳しい御咎めがあるかもしれないのだ。

「へえ、そうなんだ、随分と忙しかったんだね。
 俺もまだ店の場所を決めかねているから、そんなにゆっくりとはしていられないんだが、悪い博打の虫が騒いでしまってね。
 半刻ばかり勝負させてもらうよ」

「ああ、そうしてやってもらえるかな。
 どうも今日は朝からお客さんの集まりが悪いんだ。
 若旦那の言う御用改めの影響かもしれませんね」

「一橋家家老」
水谷勝富:一七七八年御小納戸頭取から家老に
田沼意致:一七七八年御目付より家老に
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