仇討浪人と座頭梅一

克全

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第三章

第四十八話:取り締まり

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「やり難くなっちまいましたね」

「仕方あるまい、女を殺すわけにもいかんからな」

「まあ、それはそうなんですが」

 ある寺で昼間から賭場を開かれており、二人で襲い掛かった長十郎と梅一なのだが、それを生臭坊主が寺に連れ込んでいた私娼に見られてしまった。
 そして二人は私娼を殺すほど冷酷にはなれず、私娼が事件を公にしてしまった。
 万事鷹揚な田沼意次も、さすがにこれは見逃せなかったようだ。
 もしかしたら将軍である徳川家治が激怒したのかもしれない。
 土岐定経、太田資愛、戸田忠寛、牧野惟成の四人すべての寺社奉行が更迭された。

 だが更迭されただけの寺社奉行は、まだましなほうである。
 実際に寺社の悪事を見逃していた、寺社奉行の役人は切腹させられた者も多い。
 役人とはいっても、町奉行所のように専属の与力同心ではない。
 大名でもある寺社奉行の家臣が与力同心に代わって働いていたのだ。
 だから実際には寺社奉行が厳しくとがめられたと言っていい。
 町奉行所が手出しできない寺社地で賭場を開いていた事も許されないが、何よりも幕府を激怒させたのが、私娼を寺社地内に引き入れた事だった。

 だがその反動はとても大きかった。
 寺社奉行の堕落と犯罪は、幕府の威信を著しく傷つけた。
 江戸っ子の全てが寺社地で賭場が開かれていた事を知っていたし、坊主や神官が堕落している事も知っていたのだが、公になった事が幕府には許せなかった。
 寺社に対する徹底した取り調べが行われ、膨大な数の僧侶や神官が僧籍や神職から追放された。
 中には磔獄門にされた者も少なからずいた。

 だが事は寺社の話しだけではおさまらず、長十郎と梅一にも追及の手が伸びた。
 二人が見逃した私娼の証言から人相書きが作られ、御府内だけでなく関八州から五街道筋にまで配られ、厳しく追われることになった。
 南北の町奉行所だけでなく、火付け盗賊改方も血眼になって二人を追っていた。
 しかも火事の少ない梅雨時だというのに、本役と加役の二人態勢の火付け盗賊改方に、御先手組から四人の当分加役が増員されていた。

「で、どうするのだ、当分大人しくしているのか」

「まあ、そうですね、大人しくしているのもいいでしょう。
 今回の件で、寺社地で開帳されていた賭場がほとんど摘発されました。
 摘発されていない賭場も、息をひそめて隠れています。
 まあ、摘発されていない寺社の事を投げ文で知らせるのもいいでしょう。
 誰かの力で見逃されていたとしても、それで調べない訳にはいかなくなります」

「そんな事をしても裏に権力者がいるのなら、握る潰されるだけではないのか」

「まあ、確かにその通りではありますね」

「ふむ、盗みも殺しも当分やらないのなら、一つ頼みがあるのだが」
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