仇討浪人と座頭梅一

克全

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第四章

第七十九話:愚直

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「左様か、余が決めるべき時が来てしまったのだな。
 だが最後に今一度聞きたい事がある。
 大納言の為に命だけでなく家まで滅ぼす覚悟でいてくれた直賢よ。
 そちの望みはなんじゃ」

「某の望みはただ一つ、大納言様の仇をこの手で取る事でございます。
 一橋治済を討たせてください」

 徳川家治はまたうれし涙を流すことになった。
 徹頭徹尾、ただ徳川家基の敵討ちを願う大道寺長十郎の忠誠心がうれしい。
 同時に今は亡き息子を慕ってくれる大道寺長十郎が可愛かった。
 田沼意次も長十郎の愚直な忠義を認めていた。
 だが同時に田沼意次は長十郎を苦々しく思っていた。

 ここで上様が遠回しに聞いておられるのは、次期将軍を誰にすべきかという事と、次期将軍を支える重大な役目を望めという事なのだ。
 将軍に仕える大名旗本は数多くいる。
 だが無償の忠誠心を持って仕えてくれる者は滅多にいない。

 大道寺長十郎は滅多にいない忠誠心を持った漢なのだ。
 多くの敵に狙われるであろう次期将軍を推薦するのなら、命懸けでその者を護る責任が生じるのだが、それを分かっていない。
 あるいは持っていないように見せかけているだけかもしれない。
 能力を見せすぎる事で、二君に仕える事にならないようにしているのかもしれない、そう田沼意次は考えた。

「さようか、できる限り考慮しよう。
 長十郎は最初から最後まで大納言の家臣でいたいようだな。
 主を改めよと強く言う事は、大納言の父として忍びない。
 そこは侍従に考えてもらうしかないようだ」

 徳川家治にそう言われては田沼意次も諦めるしかなかった。
 確かに無骨な大道寺長十郎に政の駆け引きを求めるのは無理無体だったし、何より徳川家基に殉じようとする心意気は大切にしてやりたかった。
 大納言様に対する忠誠心が強いからこそ、もう政の中枢には関われない漢なのだ。
 そう割り切れば長十郎は愛すべき好漢だった。 
 少なくとも大納言様を弑逆した大逆賊の息子が将軍になる事を防いでくれた。
 その徳川幕府に対する貢献度は疎かにできない。

「承りました。
 一橋公を長十郎殿に討っていただくかどうかは、次期将軍を何方にするかで変わってきてしまいます。
 上様に御聖断の願い奉りましたので、何も言うべきではないのですが、ご参考になればと思い口にさせていただきます。
 昨日長十郎殿が提案された会津松平家を選ぶのも、長十郎殿の忠義に対する褒美になるかもしれませんが、大名家や旗本御家人が納得するかどうか分かりかねます。
 八代様の御血統を繋げるには、後に田安血統に恩赦を与えなければなりません。
 それを優先するのなら、紀州徳川家から選ぶのも一つの方法でございます。
 筋目と血統、東照神君のお決めになられた古きご定法を優先するならば、尾州徳川家となりますが、後継者の問題がございます。
 何方を選ばれても何らかの問題がございます。
 全ては上様のお考え次第でございます」

 徳川家治は苦悩していた。
 大道寺長十郎の提案を優先しようとしたが、その意図は通じなかった。
 徳川家基が死んでからずっと幕閣に後継者を選ばせていたが、豊千代に決まりかかっていたのに、全てが白紙に戻ってしまった。
 悩みに悩んだ末に、最後に相談すべき相手がいる事を思い出した。
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