王太子に婚約破棄されてから一年、今更何の用ですか?

克全

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2話

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「ノヴァ様!
 大丈夫ですかノヴァ様?!」

「まあ、まあ、まあ。
 何を何を慌てているのです、ダグラス?」

「なにって、決まってるじゃないですか。
 色情狂ですよ、色情狂!
 王国の害悪、イーサン王太子の事ですよ!」

「駄目よ、ダグラス。
 そんな事を口にしたら、実家の商売が立ち行かなくなるわ。
 貴男はコーラル商会の跡継ぎなのよ。
 力ある者には、その力に応じた義務と責任があるの。
 貴男の肩には、店員とその家族の生活、いえ、命が乗っているのよ。
 王太子の事を非難するなら、貴男もそれだけの事をしなくちゃいけないの。
 何をする時にも、店員とその家族の顔を思い出して。
 もちろんご家族の事もね」

「……はい。
 分かりました、ノヴァ様」

 ダグラスはとてもいい子です。
 まだ十二歳ですが、将来有望な商家の跡取り息子です。
 でも少々正義感が強すぎます。
 私を苦しめ追放にまで追い込んだ王太子が許せないのでしょう。
 でも王太子を非難する言動は、コーラル商会の浮沈にかかわります。

 いくら私が命の恩人だからといっても、そこまで恩に着なくてもいいのです。
 病に苦しむ人がいれば、手を差し伸べるのは当たり前の事です。
 家族や多くの店員を路頭に迷わせてまで、恩義に感じる事ではありません。
 それに、ダグラスの父親アーレンには、十分報酬をもらっています。
 この店も、アーレンの持ち家の一つを格安で貸してもらっています。

 それに、アーレンはハワード王国と実家に隠れて生きる方法を教えてくれました。
 聖なる治癒魔法を使えば、評判になって直ぐに居場所を知られてしまいます。
 実家は無視してくれても、王家とグラント公爵家は、真実が広まるのを恐れて、私を殺そうとするかもしれません。
 名を変え、髪を別の色に染め、別人になって生きる方法を教えてくれました。
 それが薬屋です。

 ここは王国でも辺境です。
 魔境に接する冒険者の村です。
 当然ケガをする人が多く、良質な薬が求められています。
 私が製薬の知識も技も持っているというと、アーレンがここで暮らすことを勧めてくれたのです。

 薬店を開業するための手続きも全てやってくれました。
 薬剤師ギルドへの登録も、全てやってくれました。
 名前や出生地の記録は偽造してくれました。
 お陰で今まで平穏に暮らすことができました。
 でもそれも今日までです。
 急いで逃げる準備をしている最中です。

「よく言ってくださいました、ノヴァ様。
 私が言うよりもノヴァ様が言ってくださる方が、ダグラスの心に響きます」

「まあ、アーレン殿。
 こちらに来ておられたのですか?」

「すみませんノヴァ様。
 一歩遅れてしまいました。
 イーサン王太子殿下より早く来て、逃げていただく心算だったのですが……」

「いえ、気にしないでください。
 王家の密偵を出し抜くのは難しいですから。
 今迄ありがとうございました。
 お礼を恩も満足に返せませんが、これ以上ここにいてはご迷惑になります。
 急ぎ出て行かせていただきます」

「お待ちくださいノヴァ様。
 その件でご相談したいことがあるのです」
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