異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全

文字の大きさ
59 / 94
第一章

第58話:結婚

しおりを挟む
皇紀2222年・王歴226年・初夏・ロスリン城

「侯爵閣下、私のためにありがとうございます。
 平民どころか、奴隷にされかけていた私のために、ここまでしてくださって」

 イザベラは心から感謝してくれているが、当然の事をしたまでだ。
 俺は、俺の事を一途に想ってくれるイザベラの事が好きになったのだ。
 最初は単に魔力の多さを重視して選んだ正室候補だが、長く人柄を見ているうちに、心から好きになったのだ。
 万が一魔力の少ない子供が生まれたとしても、この想いが変わる事はない。
 まあ、愛情はあっても、後継者にするとは断言できないけれど。

「愛するイザベラのためなら大したことではないよ。
 だから、もう奴隷同然だとか、平民だったとかは言わない方がいい。
 今のイザベラは男爵の実子で、選帝侯の養女なのだから。
 私とイザベラの子供が侯爵家を継ぐことになるかもしれないんだよ。
 奴隷同然だとか元平民だなんて言ったら、子供が可哀想だよ」

「はい、侯爵閣下と子供のために、もう絶対に口にしません。
 選帝侯の養女に相応しい態度をとって見せます。
 侯爵閣下と御約束した通り、御母上様を御守りしてみせます」

「ああ、そうしてくれると嬉しいよ、イザベラ。
 ただね、もう一つどうしても実行して欲しい事があるのだけど、いいかい」

「はい、なんでしょうか、侯爵閣下の御為なら、何でもやります」

「そうか、ありがとう。
 だったら今からは、侯爵閣下ではなく、ハリーと呼んでくれ。
 もう私達は神に誓った夫婦なのだからね」

「侯爵閣下!」

「駄目だよ、約束通りハリーと呼んでくれないといけないよ」

「ありがとうございます、でも、言い難いです」

 この後で俺とイザベラは本当の夫婦になった。
 何度も愛情を確かめあって、二人とも心から子供の誕生を願った。
 一族一門家臣領民の幸せな生活を守るためには、家督争いだけは防がないといけないので、正室のイザベラとの間に強い魔力を持った子供が必要なのだ。
 同時に、手を組むと決めた相手とは、緊密な関係を築かなければいけない。
 最低でも約束した事は絶対に守らなければいけない。

 リンスター選帝侯家とヴィンセント子爵家に、毎年五百枚の金貨を支援するのは簡単な事だ。
 リンスター選帝侯の血を継ぐフリーク侯爵家のトビー卿に、リンスター選帝侯家を継がす話も、カンリフ公爵家一族にとっては悪い話しではない。
 首都地方を包み込むようにカンリフ公爵家と我がエレンバラ侯爵家がある。
 僅かにエリバンク地方と接している所はあるが、その辺りは首都地方でも僻地で、首都からは結構離れているのだ。

 カンリフ公爵家と我が家が同意した事に逆らえる勢力など、もう首都近郊には全く存在しない。
 王や王国政府など、もはや飾りでしかなく、逆らう事などできない。
 武力も経済力もない皇家や皇国政府も逆らわないだろう。
 問題はリンスター選帝侯の血を継ぐ次男のレジーではなく、俺の従弟にあたるアルロにフリーク侯爵家を継がせたいと要求している事だ。

 この条件を引き下げて、何か別の条件を付けるべきだろうか。
 アルロだってフリーク侯爵の血を継いでいるのだから、無理な要求ではないはずなのだが、それよりはどこか適当な皇国貴族家に婿入りさせるべきか。
 いや、待て、宗教勢力、教団だけは、カンリフ公爵家と我が家の連合に逆らって互角に戦えるかもしれない。
 馬鹿王がその事に気が付かない訳がないのだ。
 今直ぐカンリフ公爵と連絡を取らなければいけない。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結 新作 【あやかしたちのとまり木の日常】 連載開始しました。

パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強

こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」  騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。  この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。  ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。  これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。  だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。  僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。 「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」 「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」  そうして追放された僕であったが――  自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。  その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。    一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。 「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」  これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。

【死に役転生】悪役貴族の冤罪処刑エンドは嫌なので、ストーリーが始まる前に鍛えまくったら、やりすぎたようです。

いな@
ファンタジー
【第一章完結】映画の撮影中に死んだのか、開始五分で処刑されるキャラに転生してしまったけど死にたくなんてないし、原作主人公のメインヒロインになる幼馴染みも可愛いから渡したくないと冤罪を着せられる前に死亡フラグをへし折ることにします。 そこで転生特典スキルの『超越者』のお陰で色んなトラブルと悪名の原因となっていた問題を解決していくことになります。 【第二章】 原作の開始である学園への入学式当日、原作主人公との出会いから始まります。 原作とは違う流れに戸惑いながらも、大切な仲間たち(増えます)と共に沢山の困難に立ち向かい、解決していきます。

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

処理中です...