拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ

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番外編:花の女神と祝福の庭

4.薄幸の美少年

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 華があることに越したことはない。私はぱっとしない顔立ちだし、新郎が輝いていたら婚約式もさぞ盛り上がることだろう。そう思って、ゴールドを選んだ。

「どう? そろそろ気は済んだ?」

 煌びやかなシャンパンゴールドがきれいだ。さっきとは違って明るいコーディネートだから、全体的に爽やかでクリスの雰囲気とも合っていると思う。

 しかしながら。

「なんだか、騒々しいわね」
「そう、ですね……」

 さすがは母というべきか、エステル様は本当に容赦がない。見事にクリスの眉間に皺が寄った。

「騒々しくて悪かったね」

 これも似合っていないわけではないのだ。サテンの生地も相まって本当に眩いばかりに美しい。でも、なんだかあっちもこっちもきらきらしていて、目にやさしくない。

「そういえば、わたしもこういう色は似合わなかったわ」

 なんというか、人には許容できる輝きには限度があるのだとよく分かった。ただいたずらに華やかにすればいい、ということでもないらしい。おしゃれって難しい。

 ということで、次。

 ここは満を持して、シルバーを着てもらおう。

 と思ったのだけれど。

「そういう色は、好きじゃない」

 俯き加減に銀髪は流れて、整った顔を隠してしまった。青い目はタイル貼りの床を彷徨っている。

「え、なんで? 絶対似合うよ?」
「知ってる」
「じゃあ」

 前髪の間から拗ねたような青い目が覗いた。何かを訴えるように私を見る。
「あんまり明るい色を着ると幼く見えるんだよ」

「そうね。クリスは童顔だから」
「気にしてることをあえて言わないでください、母上」

 そうか、気にしてたんだ。

「そんなことないよ。薄幸の美少年って感じできっとかっこいいよ!」

「それって平たく言えば『不幸なガキ』ってことだろ? やだよ」
 一応フォローしたつもりだったのだけれど、そっぽを向かれてしまった。ご機嫌斜めらしい。

「そうよね。ただでさえ年下なんだもの。大好きなキャロの前では大人っぽく見せたいものね」
「まあ……そういうことです」

 すこぶる不機嫌そうではあったけれど、クリスはそこは否定しなかった。

 別に本人が言うほど子供っぽくはないと思うのだけれど、嫌がるものは着せたくない。こうなると、彼が日頃好んで着ている黒か紺辺りにするしかなくなる。

 悩んだ私は、助けを求めてローランさんを見つめた。
 ひとつ頷いて、ローランさんはゆっくりと口を開く。

「キャロライン様はやはりクリストファー様にシルバー系を着て頂きたいですか?」

「そうですね。きっと似合うと思うので」
 私の純粋な希望だけを言えばそうだ。

 次にローランさんは、クリスに目を向ける。

「クリストファー様は、キャロライン様にどのような色のドレスを着て頂きたいですか?」
「おれは……」

 クリスは顎に手をやってきょろきょろしたり天を仰いだりして、しばしの間考えこんでいた。

「あの、ミントグリーンのとかよかったと思うんですけど」

 さっき三着目に試着したものだ。金のビジューレースが贅沢に使用された華やかなものだけれど、色味が爽やかだから私でも安心して着られる気がする。繊細なチュールが幾重にも重ねられて上品なデザインだった。

「それでしたら」

 ローランさんは一度奥に姿を消したかと思うと、一着のタキシードを持って戻ってきた。

「こちらなどはいかがでしょうか」

「きれいな色ですね」
 光の当たり方によって、シルバーグレーにもグリーンにも見える不思議な色味。生地の光沢はしっとりと落ち着いて見えるのに、それでいて華やかだ。そうそう、こういうのを着て欲しかった。

「ブルーとゴールドの糸を織り合わせて仕立ててあります。こちらでしたら殊更幼く見えるということはないかと」

 ちらりとクリスの表情を窺う。彼は静かに頷いた。

「それでは、お二人ともご試着して頂きましょうか」
「私も、ですか?」

 一度着たというのに、もう一度着る必要があるのだろうか。

「ええ、ここからはお二人で着て頂くことに意味がありますので」
 首を傾げる私に、ローランさんは妖艶に微笑んでみせた。
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