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第一部:私だけの物語
41.高嶺の花
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長く社交界から距離を置いていたから、人の視線にはなかなか慣れない。
「みんなあなたに見惚れているだけですよ」
アラン様はそっと私の手を取ると、ゆっくりと喧騒の中を歩き出す。
ああ、どうしてあの髪はあんなに目立つのだろう。
煌びやかな照明に、やわらかな癖の銀髪が煌めく。私は途端にその色から目が離せなくなってしまう。
背が高いから令嬢に囲まれていてもすぐに分かる。あの人の輪の中に彼の婚約者もいるのだろうか。
「クリストファー様、ご婚約を申し込まれたというのは本当なのですか?」
令嬢の一人がそう訊ねた。クリスはその問いには答えず、そうだとも違うとも取れる、曖昧な笑みを浮かべていた。
「どのような方ですの?」
クリスの目がすっと細められる。
「ずっと憧れていたというか、おれにとっては手の届かない高嶺の花のような人でした」
その青い目は婚約者の姿を映しているがごとくに愛おしげだった。対して、私は水でも浴びせかけられたかのようにはっとした。
小さい頃から近くにいたのに、クリスにそんな風に思う人がいただなんて、考えもしなかった。いつもクリスに言われていた通りだ。私は本当にぼんやりしている。
「キャロル」
艶のある低い声に名前を呼ばれた。同時に、腰に手が回されてぎゅっと引き寄せられる。こつん、と逞しい肩に頭が触れて、寄りかかるような体勢になった。
ふわりと、アラン様の香水が香る。
神秘的というか、大人っぽいようなそんな香り。手を繋いだり肩を抱かれたりしたことはあるけど、こんなにぴたりと体が密着したことははじめてだ。なんだか無性にどきどきして顔が熱くなるのと止められない。
「もうすぐダンスが始まるよ。行こうか」
言うが早いか、アラン様はするりと歩き始めてしまう。私一人だったら、このままずっとクリスの話を聞いてしまっていたかもしれない。そしてきっとショックを受けたはずだ。だから、アラン様がこの場を立ち去る理由をくれたことに感謝した。
しかしながら。
「あの、アラン様」
「どうしたんだい、キャロル」
「私、その、ほとんど男性の方とダンスを踊ったことがないんですけれど」
「みんなあなたに見惚れているだけですよ」
アラン様はそっと私の手を取ると、ゆっくりと喧騒の中を歩き出す。
ああ、どうしてあの髪はあんなに目立つのだろう。
煌びやかな照明に、やわらかな癖の銀髪が煌めく。私は途端にその色から目が離せなくなってしまう。
背が高いから令嬢に囲まれていてもすぐに分かる。あの人の輪の中に彼の婚約者もいるのだろうか。
「クリストファー様、ご婚約を申し込まれたというのは本当なのですか?」
令嬢の一人がそう訊ねた。クリスはその問いには答えず、そうだとも違うとも取れる、曖昧な笑みを浮かべていた。
「どのような方ですの?」
クリスの目がすっと細められる。
「ずっと憧れていたというか、おれにとっては手の届かない高嶺の花のような人でした」
その青い目は婚約者の姿を映しているがごとくに愛おしげだった。対して、私は水でも浴びせかけられたかのようにはっとした。
小さい頃から近くにいたのに、クリスにそんな風に思う人がいただなんて、考えもしなかった。いつもクリスに言われていた通りだ。私は本当にぼんやりしている。
「キャロル」
艶のある低い声に名前を呼ばれた。同時に、腰に手が回されてぎゅっと引き寄せられる。こつん、と逞しい肩に頭が触れて、寄りかかるような体勢になった。
ふわりと、アラン様の香水が香る。
神秘的というか、大人っぽいようなそんな香り。手を繋いだり肩を抱かれたりしたことはあるけど、こんなにぴたりと体が密着したことははじめてだ。なんだか無性にどきどきして顔が熱くなるのと止められない。
「もうすぐダンスが始まるよ。行こうか」
言うが早いか、アラン様はするりと歩き始めてしまう。私一人だったら、このままずっとクリスの話を聞いてしまっていたかもしれない。そしてきっとショックを受けたはずだ。だから、アラン様がこの場を立ち去る理由をくれたことに感謝した。
しかしながら。
「あの、アラン様」
「どうしたんだい、キャロル」
「私、その、ほとんど男性の方とダンスを踊ったことがないんですけれど」
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