拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ

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第一部:私だけの物語

39.ときめきと手付金―②

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 言われた言葉を反芻してみる。それはさながら手付金と呼べるようなお金で買えるものなのだろうか。

 恋人もときめきも、頭上を流れていく雲のようにふわりと浮かんでは消えていく。この言葉は果たして、アラン様の本心だろうか。それとも社交界一といわれる女誑しの技巧の一つだろうか。

「キャロル?」

 そんなことを考えていたら、緑の目がじっと私を見つめていた。
 目が合えば、言ってみなさいとばかりにアラン様は頷く。

「あ、いえ。他のご令嬢にも、このように言っておられるのかなと……」

 アラン様の目が見開かれて真ん丸になる。しまった、さすがに失礼がすぎた。怒られるかと思ったのに、その後の彼の反応は真逆といっていいものだった。

「はははっ。あなたは思っていたより手ごわいな」

 声を立ててアラン様が笑う。最初の微笑みとは違う、心の底からおかしいと思っているような、そんな笑い。
 目の端には涙まで滲んでいて、彼は手の甲でそれを拭った。洗練されたアラン様には珍しい、粗野な仕草だった。

「どおりでラザフォード侯が苦労するわけだ」

「どうして、ここでクリス……ラザフォード様のお名前が出てくるのですか?」

 あの幼馴染は今何の関係もないだろうに。
 私が首を傾げると、アラン様は目を細めて微笑んだ。握られた手の力が、少しだけ強くなる。

「それは、どうしても、ですよ。キャロル」
 この手を解かなければ、そう思うのに私はできなかった。

「『ノワール』で新しいドレスを仕立てても構わないかな?」

 恭しいばかりだったアラン様の口調が、親し気に砕けたものになる。それこそ本当に、“恋人”に愛を囁くようなものに。

「この間のものはとても可愛らしくて似合っていたけれど。もう少し違う雰囲気のものも、あなたには似合うと思う」

 クリスが最高だと言ってくれたピンクのドレス。それとは違う、新しいドレスをアラン様は仕立てたいという。

「それを着たあなたと一緒に、夜会に出たい」

 そのドレスをもしクリスが見たら、どう思うのだろう。

 最近なんか変だ。何をしていてもずっとクリスのことが頭から離れない。苦し紛れに少しだけ頭を振って、私は返事をした。

「分かりました」
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