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第二部:君の知らない物語
11.一刻も早く
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夜会のための支度をしたキャロラインは、僕の想像を遥かに超えていた。
振り返れば、ゆるやかに巻き上げられた茶色の髪がふわりと揺れる。紫の目が僕を捉えて、所在なげにドレスのスカートをきゅっと掴む。
これは、困った。
どこからどう見ても最高に可愛い。もう少し気位の高そうな顔でもしていれば別だろうが、こんなやわらかな笑顔を向けられてしまっては、みんながみんなキャロラインの虜になってしまう。
現にここに、惚けてしまった僕がいる。
取れる手段はただ一つ。
今回は僕は母からキャロラインのエスコートを頼まれていた。
今夜、僕は彼女の手を引くことを許されている。こんなことがないと横に立てないのは非常に不本意ではあるけれど、この際理由はどうだっていい。
要は、周りに思わせられればいいのだ。
この場の誰より、僕が一番、キャロラインには相応しいと。僕らがともに在ることが当然だと。
『いい? 何があってもおれのそばから離れないで』
それが叶えばこれから先もずっと、彼女の隣にいられる。そんな気がした。
案の定、キャロラインは夜会で注目の的だった。誰も彼も、颯爽と夜会に現れた謎の令嬢に夢中だった。
自分の見立ての正しさに誇らしくなる一方で、絶対に気を抜いてはいけないと感じる。うっかりしていたら本当に、攫われかねない。
本当は王女とダンスを踊るのも嫌だった。第一僕はキャロラインと踊ったことすらないのだ。それなのに他の女と踊らないといけないだなんて不本意この上ない。
だからあんなに釘を刺して早々に戻ったのに、彼女はにこやかに他の男と談笑していた。
しかも相手がすこぶる悪い。よりにもよって、あのオースティン卿とは。
爵位は男爵位。親が金貸しか何かの新興貴族で、それなりの年だが確か一度も結婚していない。ただ商才はあるらしく何かの事業で堅実に儲けていると聞いたことがある。
加えて、あの甘めのマスクに低音の声だ。貴婦人方からは絶大な人気がある。
付いたあだ名は、“社交界随一の女誑し”。
彼は、僕にないものを全て持っている。キャロラインが想像した、『素敵なおじ様』そのものだ。身長すら敵わない。
こんな些細なことで焦ってしまう自分が嫌になる。こんなのだからいつまで経っても弟扱いなのだと、頭では分かっている。けれど、だからといって抑えられるものでもない。
キャロラインの手からワイングラスを取り上げたところまでは鮮明に覚えている。そこから先は、どこか夢の中の出来事のように霞がかっているのだ。
抱き上げたキャロラインは驚くほど軽かった。
『重たく、ない……?』
恐々と肩に置いてきた手の小ささにはっとしたら、もう顔をまともに見られなくなった。
キャロラインの美しさはもう、社交界に知れ渡ってしまった。このまま彼女を攫って、どこか遠くにでも行ってしまえればいいのに。
もはや一刻の猶予もない。
明日にでも、キャロラインに結婚を申し込もう。僕はそう思っていた。
振り返れば、ゆるやかに巻き上げられた茶色の髪がふわりと揺れる。紫の目が僕を捉えて、所在なげにドレスのスカートをきゅっと掴む。
これは、困った。
どこからどう見ても最高に可愛い。もう少し気位の高そうな顔でもしていれば別だろうが、こんなやわらかな笑顔を向けられてしまっては、みんながみんなキャロラインの虜になってしまう。
現にここに、惚けてしまった僕がいる。
取れる手段はただ一つ。
今回は僕は母からキャロラインのエスコートを頼まれていた。
今夜、僕は彼女の手を引くことを許されている。こんなことがないと横に立てないのは非常に不本意ではあるけれど、この際理由はどうだっていい。
要は、周りに思わせられればいいのだ。
この場の誰より、僕が一番、キャロラインには相応しいと。僕らがともに在ることが当然だと。
『いい? 何があってもおれのそばから離れないで』
それが叶えばこれから先もずっと、彼女の隣にいられる。そんな気がした。
案の定、キャロラインは夜会で注目の的だった。誰も彼も、颯爽と夜会に現れた謎の令嬢に夢中だった。
自分の見立ての正しさに誇らしくなる一方で、絶対に気を抜いてはいけないと感じる。うっかりしていたら本当に、攫われかねない。
本当は王女とダンスを踊るのも嫌だった。第一僕はキャロラインと踊ったことすらないのだ。それなのに他の女と踊らないといけないだなんて不本意この上ない。
だからあんなに釘を刺して早々に戻ったのに、彼女はにこやかに他の男と談笑していた。
しかも相手がすこぶる悪い。よりにもよって、あのオースティン卿とは。
爵位は男爵位。親が金貸しか何かの新興貴族で、それなりの年だが確か一度も結婚していない。ただ商才はあるらしく何かの事業で堅実に儲けていると聞いたことがある。
加えて、あの甘めのマスクに低音の声だ。貴婦人方からは絶大な人気がある。
付いたあだ名は、“社交界随一の女誑し”。
彼は、僕にないものを全て持っている。キャロラインが想像した、『素敵なおじ様』そのものだ。身長すら敵わない。
こんな些細なことで焦ってしまう自分が嫌になる。こんなのだからいつまで経っても弟扱いなのだと、頭では分かっている。けれど、だからといって抑えられるものでもない。
キャロラインの手からワイングラスを取り上げたところまでは鮮明に覚えている。そこから先は、どこか夢の中の出来事のように霞がかっているのだ。
抱き上げたキャロラインは驚くほど軽かった。
『重たく、ない……?』
恐々と肩に置いてきた手の小ささにはっとしたら、もう顔をまともに見られなくなった。
キャロラインの美しさはもう、社交界に知れ渡ってしまった。このまま彼女を攫って、どこか遠くにでも行ってしまえればいいのに。
もはや一刻の猶予もない。
明日にでも、キャロラインに結婚を申し込もう。僕はそう思っていた。
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